世間知らずの魔塔主は優しい娼婦を溺愛する

今泉香耶

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4-1.呑気なコンラート(1)

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 翌日、コンラートは転移の魔法で自分の居室に戻った。

 部屋の大きさはよくわからない。よくわからないというのは、あちらこちらに本が積み上がっているし、棚が壁沿いにあったり、妙に斜めになっていたりして、正直なところどこが壁なのかよくわからない。

 天井を見ても、そこは最上階なので形がいびつで、余計に推測しにくい。その部屋に、書類が山積みの執務机と、よくわからない道具が大量にのっているサイドテーブル、そして、同じく色んなものが乗っているカウチがあった。

「おかえりなさいませ。主様」

 彼の戻りを嗅ぎつけたのか、ドアをノックして一人の男性が入って来る。面長に眼鏡をかけた細身の男性で、どうやらコンラートの従者か何かのようだった。長い黒髪を後ろに流して一つに束ねている。

「帰って来ましたよぉ~……はぁ~、まったく、とんだ災難だった!」

「魔塔の結界を破ってあなたを引っこ抜くとは、さすがに驚きました。とはいえ、反乱分子はみな倒せたんですか?」

 その問いに、コンラートは軽く唇を尖らせる。

「まあね。わたしもちょっと死にそうだったんだけど。最後、よろしくない罠にかかちまった」

「そもそも相手は何十人もいたのでしょう? こうしてお戻りになられて本当に良かったです」

「何十人どころじゃないよ。百人規模だよ。いやぁ、今回は運が良かっただけだ。ま、もう二度とあんな失敗はしないよ」

 そう言ってコンラートは外套を床に放り投げた。従者はそれを拾って木製のコートハンガーにかけようとしたが、裏地が血で汚れていることに気付く。「捨てて」と言われたので「はい」と返事をして、彼は何か呪文を唱えた。すると、外套は姿を消す。

「そもそも、あの異教のやつらの大司教とやらを殺したのは先代だぞ! どうしてわたしが責められなくちゃいけないんだ! なあ、ハーニィ、そう思うだろ?」

 文句を言うコンラートに、ハーニィと呼ばれた従者は肩をすくめて見せる。

「とはいえ、先代は直後に隠居しましたからね。今はどこにいらっしゃるのかも消息が不明ですし。となれば、現魔塔の主に復讐心が向かってもおかしくないかと」

「まったくもう、酷いなぁ~! 絶対やつら、裏で何かと手を組んでるよ。可哀想に。可哀想っていっても、暴力には暴力をっていうので、全部やっつけたけど」

 彼を「魔塔から引っこ抜いて」転移をさせた者たちは、3年前に「大司教」とやらを殺された異教徒だ。最初は本当にただの異教の者たちで、ほぼ無害な団体だった。だが、年々その異教徒は増えていき、やがて暴力性が高い団体へと変化した。

 異教徒たちの中でも上位にいる者は魔法使いが多かった。その魔法使いたちは魔塔に入ることが出来ない、実力としてはそこまで高くない者たちだ。だが、その異教徒の中では崇められ、それに味をしめた魔法使いの端くれがまた端くれを呼び、気づけばどんどん下位の魔法使いが増えて行ったのだと言う。

 そもそも、下位の魔法使いは、基本的に平民と扱いが変わらない。生活魔法と呼ばれる魔法を少しだけ使えても意味がないのだ。それを不満に思っていた者たちがその異教徒に身を投じたら、上の位になれてしまう。それが救いでもあり問題でもあった。

 どんどん異教徒には名もない魔法使いが集まった。おかげで、信仰もへったくれもない団体へと変わっていったのだが、魔法使いでもない下々の者たちには、そのあたりはわからなかったのかもしれない。

 彼らの大元は、この国に王族に反抗的であり、国で信仰している「神」に対しても疑心を抱いていた。神殿に押し入って火をつけようとしたこともあり、暴力の片鱗がちらちらと見えていた。そこに、魔法という力が手に入ったのだから大問題だ。魔法使いの端くれたちは、特に王族に反抗をしたいわけではなかったが、異教徒内で崇められているうちに気が大きくなったのかもしれない。

 おかげで、最初は自分たちの力で異教徒対策をどうにかしていた王族だったが、やがて質より量といった「大量の魔法使い」という物量に圧されて音を上げ、魔塔に依頼が来たと言う流れだ。

 当時は王族の反対派が裏で彼らと密約を結んでいたとかなんとか聞いていたが、今回はまたそれとは違う勢力が手を組んでいるのだろうとコンラートは思う。

「馬鹿と鋏はなんとやらってやつかなぁ……ねぇ、ところで、ハーニィ」

「はい」

「どうもわたしはセックスが好きなようで」

 そのコンラートの言葉に、ハーニィは「んんっ?」と裏返った声をあげた。
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