12 / 74
4-1.呑気なコンラート(1)
しおりを挟む
翌日、コンラートは転移の魔法で自分の居室に戻った。
部屋の大きさはよくわからない。よくわからないというのは、あちらこちらに本が積み上がっているし、棚が壁沿いにあったり、妙に斜めになっていたりして、正直なところどこが壁なのかよくわからない。
天井を見ても、そこは最上階なので形がいびつで、余計に推測しにくい。その部屋に、書類が山積みの執務机と、よくわからない道具が大量にのっているサイドテーブル、そして、同じく色んなものが乗っているカウチがあった。
「おかえりなさいませ。主様」
彼の戻りを嗅ぎつけたのか、ドアをノックして一人の男性が入って来る。面長に眼鏡をかけた細身の男性で、どうやらコンラートの従者か何かのようだった。長い黒髪を後ろに流して一つに束ねている。
「帰って来ましたよぉ~……はぁ~、まったく、とんだ災難だった!」
「魔塔の結界を破ってあなたを引っこ抜くとは、さすがに驚きました。とはいえ、反乱分子はみな倒せたんですか?」
その問いに、コンラートは軽く唇を尖らせる。
「まあね。わたしもちょっと死にそうだったんだけど。最後、よろしくない罠にかかちまった」
「そもそも相手は何十人もいたのでしょう? こうしてお戻りになられて本当に良かったです」
「何十人どころじゃないよ。百人規模だよ。いやぁ、今回は運が良かっただけだ。ま、もう二度とあんな失敗はしないよ」
そう言ってコンラートは外套を床に放り投げた。従者はそれを拾って木製のコートハンガーにかけようとしたが、裏地が血で汚れていることに気付く。「捨てて」と言われたので「はい」と返事をして、彼は何か呪文を唱えた。すると、外套は姿を消す。
「そもそも、あの異教のやつらの大司教とやらを殺したのは先代だぞ! どうしてわたしが責められなくちゃいけないんだ! なあ、ハーニィ、そう思うだろ?」
文句を言うコンラートに、ハーニィと呼ばれた従者は肩をすくめて見せる。
「とはいえ、先代は直後に隠居しましたからね。今はどこにいらっしゃるのかも消息が不明ですし。となれば、現魔塔の主に復讐心が向かってもおかしくないかと」
「まったくもう、酷いなぁ~! 絶対やつら、裏で何かと手を組んでるよ。可哀想に。可哀想っていっても、暴力には暴力をっていうので、全部やっつけたけど」
彼を「魔塔から引っこ抜いて」転移をさせた者たちは、3年前に「大司教」とやらを殺された異教徒だ。最初は本当にただの異教の者たちで、ほぼ無害な団体だった。だが、年々その異教徒は増えていき、やがて暴力性が高い団体へと変化した。
異教徒たちの中でも上位にいる者は魔法使いが多かった。その魔法使いたちは魔塔に入ることが出来ない、実力としてはそこまで高くない者たちだ。だが、その異教徒の中では崇められ、それに味をしめた魔法使いの端くれがまた端くれを呼び、気づけばどんどん下位の魔法使いが増えて行ったのだと言う。
そもそも、下位の魔法使いは、基本的に平民と扱いが変わらない。生活魔法と呼ばれる魔法を少しだけ使えても意味がないのだ。それを不満に思っていた者たちがその異教徒に身を投じたら、上の位になれてしまう。それが救いでもあり問題でもあった。
どんどん異教徒には名もない魔法使いが集まった。おかげで、信仰もへったくれもない団体へと変わっていったのだが、魔法使いでもない下々の者たちには、そのあたりはわからなかったのかもしれない。
彼らの大元は、この国に王族に反抗的であり、国で信仰している「神」に対しても疑心を抱いていた。神殿に押し入って火をつけようとしたこともあり、暴力の片鱗がちらちらと見えていた。そこに、魔法という力が手に入ったのだから大問題だ。魔法使いの端くれたちは、特に王族に反抗をしたいわけではなかったが、異教徒内で崇められているうちに気が大きくなったのかもしれない。
おかげで、最初は自分たちの力で異教徒対策をどうにかしていた王族だったが、やがて質より量といった「大量の魔法使い」という物量に圧されて音を上げ、魔塔に依頼が来たと言う流れだ。
当時は王族の反対派が裏で彼らと密約を結んでいたとかなんとか聞いていたが、今回はまたそれとは違う勢力が手を組んでいるのだろうとコンラートは思う。
「馬鹿と鋏はなんとやらってやつかなぁ……ねぇ、ところで、ハーニィ」
「はい」
「どうもわたしはセックスが好きなようで」
そのコンラートの言葉に、ハーニィは「んんっ?」と裏返った声をあげた。
部屋の大きさはよくわからない。よくわからないというのは、あちらこちらに本が積み上がっているし、棚が壁沿いにあったり、妙に斜めになっていたりして、正直なところどこが壁なのかよくわからない。
天井を見ても、そこは最上階なので形がいびつで、余計に推測しにくい。その部屋に、書類が山積みの執務机と、よくわからない道具が大量にのっているサイドテーブル、そして、同じく色んなものが乗っているカウチがあった。
「おかえりなさいませ。主様」
彼の戻りを嗅ぎつけたのか、ドアをノックして一人の男性が入って来る。面長に眼鏡をかけた細身の男性で、どうやらコンラートの従者か何かのようだった。長い黒髪を後ろに流して一つに束ねている。
「帰って来ましたよぉ~……はぁ~、まったく、とんだ災難だった!」
「魔塔の結界を破ってあなたを引っこ抜くとは、さすがに驚きました。とはいえ、反乱分子はみな倒せたんですか?」
その問いに、コンラートは軽く唇を尖らせる。
「まあね。わたしもちょっと死にそうだったんだけど。最後、よろしくない罠にかかちまった」
「そもそも相手は何十人もいたのでしょう? こうしてお戻りになられて本当に良かったです」
「何十人どころじゃないよ。百人規模だよ。いやぁ、今回は運が良かっただけだ。ま、もう二度とあんな失敗はしないよ」
そう言ってコンラートは外套を床に放り投げた。従者はそれを拾って木製のコートハンガーにかけようとしたが、裏地が血で汚れていることに気付く。「捨てて」と言われたので「はい」と返事をして、彼は何か呪文を唱えた。すると、外套は姿を消す。
「そもそも、あの異教のやつらの大司教とやらを殺したのは先代だぞ! どうしてわたしが責められなくちゃいけないんだ! なあ、ハーニィ、そう思うだろ?」
文句を言うコンラートに、ハーニィと呼ばれた従者は肩をすくめて見せる。
「とはいえ、先代は直後に隠居しましたからね。今はどこにいらっしゃるのかも消息が不明ですし。となれば、現魔塔の主に復讐心が向かってもおかしくないかと」
「まったくもう、酷いなぁ~! 絶対やつら、裏で何かと手を組んでるよ。可哀想に。可哀想っていっても、暴力には暴力をっていうので、全部やっつけたけど」
彼を「魔塔から引っこ抜いて」転移をさせた者たちは、3年前に「大司教」とやらを殺された異教徒だ。最初は本当にただの異教の者たちで、ほぼ無害な団体だった。だが、年々その異教徒は増えていき、やがて暴力性が高い団体へと変化した。
異教徒たちの中でも上位にいる者は魔法使いが多かった。その魔法使いたちは魔塔に入ることが出来ない、実力としてはそこまで高くない者たちだ。だが、その異教徒の中では崇められ、それに味をしめた魔法使いの端くれがまた端くれを呼び、気づけばどんどん下位の魔法使いが増えて行ったのだと言う。
そもそも、下位の魔法使いは、基本的に平民と扱いが変わらない。生活魔法と呼ばれる魔法を少しだけ使えても意味がないのだ。それを不満に思っていた者たちがその異教徒に身を投じたら、上の位になれてしまう。それが救いでもあり問題でもあった。
どんどん異教徒には名もない魔法使いが集まった。おかげで、信仰もへったくれもない団体へと変わっていったのだが、魔法使いでもない下々の者たちには、そのあたりはわからなかったのかもしれない。
彼らの大元は、この国に王族に反抗的であり、国で信仰している「神」に対しても疑心を抱いていた。神殿に押し入って火をつけようとしたこともあり、暴力の片鱗がちらちらと見えていた。そこに、魔法という力が手に入ったのだから大問題だ。魔法使いの端くれたちは、特に王族に反抗をしたいわけではなかったが、異教徒内で崇められているうちに気が大きくなったのかもしれない。
おかげで、最初は自分たちの力で異教徒対策をどうにかしていた王族だったが、やがて質より量といった「大量の魔法使い」という物量に圧されて音を上げ、魔塔に依頼が来たと言う流れだ。
当時は王族の反対派が裏で彼らと密約を結んでいたとかなんとか聞いていたが、今回はまたそれとは違う勢力が手を組んでいるのだろうとコンラートは思う。
「馬鹿と鋏はなんとやらってやつかなぁ……ねぇ、ところで、ハーニィ」
「はい」
「どうもわたしはセックスが好きなようで」
そのコンラートの言葉に、ハーニィは「んんっ?」と裏返った声をあげた。
31
あなたにおすすめの小説
ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~
Ayari(橋本彩里)
恋愛
隣人である小野寺翔は完璧な美貌、甘いマスク、高身長、高所得者、社交的で周囲にほぼ敵なしのハイスペック。
そんな男性の隣に住むことになりやたらと絡まれ、何かを含む甘い眼差しを向けられることに。
極めつけは微妙なネジの外れ具合。
それはどうやら私、藤宮千幸に対してのみ発揮されているみたいで。
なんて、はた迷惑なっ!
過去作を改稿。変甘です!
イラストは友人kouma.作です♪
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる