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6-1.初めてのデート(1)
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「お待たせしたわね。コンラート」
「ああ、バネッサ。今日は表から来てみました」
コンラートは、先日の外套とは違う、黒のロングコートを着ていた。襟周りには黒い動物の毛皮がついており、大層高級そうだ。受付の人間も、待機所――毎日数人の新人の娼婦の中で予約が入っていない者が、日替わりで待機をしている場所がある――にいる数人の娼婦もそれをわかっていて、じろじろとコンラートを見ている。
「わあ……」
つい、驚いて声が出た。真っ黒なコートに、高級そうな毛皮、そして、白い肌に美しい銀髪。涼やかな赤い瞳に整った顔立ち。そんな彼の風貌は、あまりにも目立つ。
「バネッサ、あなたは今日も綺麗だ」
「えっ、あ、ありがとう……あなたも素敵よ?」
「そうですか? 服のことやら何やらはよくわからないので、勝手にもらったものや支給品を着ているだけなんですが……」
こそこそと娼婦たちは「あれをもらったんですって」とささやき合う。いや、その気持ちはわかる、とバネッサは心の中でつぶやいた。
「その外套も?」
「あ~、これは、なんだっけ。この前のものが駄目になったので……昔誰かからもらったんですけど……誰だったか忘れたなぁ。まあ、賄賂みたいなものです」
とのんびり言うものだから、つい、バネッサは笑いだす。
「なあに、それ。変なの」
「変ですか。はは、そうですね。変かもしれません。さ、出かけましょう」
そう言うと、コンラートは受付に立っている伝令の少女に銀貨を渡した。
「ありがとう。まだお礼をしていませんでしたね」
「! あ、ありがとうございます!」
それを見て、再び待機所の娼婦たちはひそひそと会話をする。その少女にチップをやる客はいないわけではないが、やっても銅貨が関の山だ。まさか銀貨を渡すなんて……とでも言っているのだろうとバネッサは思う。
「ありがとう。ごめんね、さっき言い忘れていたわ」
バネッサも、少女に礼を言った。彼女はいつも連絡役の少女に礼を言っていたのだが、言い忘れていたことについ先ほど気付いたのだ。コンラートが来たと聞いて、心が浮かれてしまったのだ、と自覚をしながらも笑いかけると、少女はこくりとうなずいた。
「さ」
そう言って、コンラートはバネッサの腰に手を回した。なんだか気恥ずかしくなって、バネッサは「ええ」とだけ返し、足早に娼館を出た。
町は明るい日差しが降り注いでいる。こんな昼の時間に男性と一緒に出かけることなんてほとんどない。バネッサは少しだけ緊張をしていたが、コンラートはどこ吹く風だ。
バネッサの娼館である「キトゥン娼館」は、大通りの角にあり、一見目立つように見えるものの、入口は隣の建物との間の路地から入る。そして、出る時は、隣の建物の裏側にあるもう一軒の家との間の路地から出る。夜になれば、魔力を注入した魔石で看板一つだけが照らされるだけでそう目立たないし、周囲の店も閉まって暗くなる。
だが、今は昼。表側の出入口から出て、まるで普通のカップルのように寄り添う二人。まずは城下町中央の噴水まで、と二人は話をしながら石畳を歩いた。通りには多くの人々が行き交い、子供たちは笑いながら走っては荷物を運んでいる。きっと家の手伝いでもしているに違いない。
「体はもう大丈夫なの?」
今更だ、と思いつつもバネッサは尋ねた。コンラートは軽く頷く。
「はい。おかげさまで。仕事が溜まっていたので、なかなかこちらにお礼に伺えませんでした」
「えっ、お礼なんて、いいのに。あの日、金貨をたくさんもらったし……」
あの日。朝、目覚めたら既にコンラートはいなかった。だが、テーブルの上に置かれた金貨は量が多すぎた。本当なら、あれだけ金をもらったら「しめしめ」と思うところだ。けれども、バネッサはそういうことが得意ではない。
さすがに、どれくらい多かったから返す……とは言わないが、今晩もう一度付き合っても、また翌日付き合ってもお釣りが出るぐらいだ。だから、今日は金はいらないと伝える。しかし、コンラートは既に、いくら彼女に渡したかすら覚えていないようだった。
「いいからいいから……さて、噴水まで来ましたよ。これから、どこに行きましょうか。あなたに沢山お金を使いたいので昼から誘ったんですが……そのう、わたしはこの町のことをあまり良く知らないんですよ」
そうのんびりとコンラートは言う。金を落とす、という言い方がやけに慣れている気がして、バネッサは目を丸くした。
「まあ。ありがとう。嬉しいわ……ってことは、あなた、この町じゃないところに住んでいるっていうことなの?」
「えーっと。あそこに住んでいます」
そう言って、コンラートは遠くを指差した。
「えっ……」
バネッサは言葉を失った。彼の指が指し示しているのは、遠くにうっすらと見えている塔。「魔塔」と呼ばれる、六角形の形をした塔が三つ並んでおり、その中央の塔はひと際高い。
王城の支配を許さず、高名な魔法使いたちが集う特別な場所。独立はしているものの、王城に決して逆らわない、奇妙な立ち位置を持つのが魔塔だ。この町は王城の城下町で、王城と神殿、そして、その「三大勢力」が存在している。神殿は王族の支配下と言われているが、これもまた特殊な位置づけなので独立しているとも言われる。
それらの中でも、城下町のこの付近に一番近いのは魔塔だった。
「ああ、バネッサ。今日は表から来てみました」
コンラートは、先日の外套とは違う、黒のロングコートを着ていた。襟周りには黒い動物の毛皮がついており、大層高級そうだ。受付の人間も、待機所――毎日数人の新人の娼婦の中で予約が入っていない者が、日替わりで待機をしている場所がある――にいる数人の娼婦もそれをわかっていて、じろじろとコンラートを見ている。
「わあ……」
つい、驚いて声が出た。真っ黒なコートに、高級そうな毛皮、そして、白い肌に美しい銀髪。涼やかな赤い瞳に整った顔立ち。そんな彼の風貌は、あまりにも目立つ。
「バネッサ、あなたは今日も綺麗だ」
「えっ、あ、ありがとう……あなたも素敵よ?」
「そうですか? 服のことやら何やらはよくわからないので、勝手にもらったものや支給品を着ているだけなんですが……」
こそこそと娼婦たちは「あれをもらったんですって」とささやき合う。いや、その気持ちはわかる、とバネッサは心の中でつぶやいた。
「その外套も?」
「あ~、これは、なんだっけ。この前のものが駄目になったので……昔誰かからもらったんですけど……誰だったか忘れたなぁ。まあ、賄賂みたいなものです」
とのんびり言うものだから、つい、バネッサは笑いだす。
「なあに、それ。変なの」
「変ですか。はは、そうですね。変かもしれません。さ、出かけましょう」
そう言うと、コンラートは受付に立っている伝令の少女に銀貨を渡した。
「ありがとう。まだお礼をしていませんでしたね」
「! あ、ありがとうございます!」
それを見て、再び待機所の娼婦たちはひそひそと会話をする。その少女にチップをやる客はいないわけではないが、やっても銅貨が関の山だ。まさか銀貨を渡すなんて……とでも言っているのだろうとバネッサは思う。
「ありがとう。ごめんね、さっき言い忘れていたわ」
バネッサも、少女に礼を言った。彼女はいつも連絡役の少女に礼を言っていたのだが、言い忘れていたことについ先ほど気付いたのだ。コンラートが来たと聞いて、心が浮かれてしまったのだ、と自覚をしながらも笑いかけると、少女はこくりとうなずいた。
「さ」
そう言って、コンラートはバネッサの腰に手を回した。なんだか気恥ずかしくなって、バネッサは「ええ」とだけ返し、足早に娼館を出た。
町は明るい日差しが降り注いでいる。こんな昼の時間に男性と一緒に出かけることなんてほとんどない。バネッサは少しだけ緊張をしていたが、コンラートはどこ吹く風だ。
バネッサの娼館である「キトゥン娼館」は、大通りの角にあり、一見目立つように見えるものの、入口は隣の建物との間の路地から入る。そして、出る時は、隣の建物の裏側にあるもう一軒の家との間の路地から出る。夜になれば、魔力を注入した魔石で看板一つだけが照らされるだけでそう目立たないし、周囲の店も閉まって暗くなる。
だが、今は昼。表側の出入口から出て、まるで普通のカップルのように寄り添う二人。まずは城下町中央の噴水まで、と二人は話をしながら石畳を歩いた。通りには多くの人々が行き交い、子供たちは笑いながら走っては荷物を運んでいる。きっと家の手伝いでもしているに違いない。
「体はもう大丈夫なの?」
今更だ、と思いつつもバネッサは尋ねた。コンラートは軽く頷く。
「はい。おかげさまで。仕事が溜まっていたので、なかなかこちらにお礼に伺えませんでした」
「えっ、お礼なんて、いいのに。あの日、金貨をたくさんもらったし……」
あの日。朝、目覚めたら既にコンラートはいなかった。だが、テーブルの上に置かれた金貨は量が多すぎた。本当なら、あれだけ金をもらったら「しめしめ」と思うところだ。けれども、バネッサはそういうことが得意ではない。
さすがに、どれくらい多かったから返す……とは言わないが、今晩もう一度付き合っても、また翌日付き合ってもお釣りが出るぐらいだ。だから、今日は金はいらないと伝える。しかし、コンラートは既に、いくら彼女に渡したかすら覚えていないようだった。
「いいからいいから……さて、噴水まで来ましたよ。これから、どこに行きましょうか。あなたに沢山お金を使いたいので昼から誘ったんですが……そのう、わたしはこの町のことをあまり良く知らないんですよ」
そうのんびりとコンラートは言う。金を落とす、という言い方がやけに慣れている気がして、バネッサは目を丸くした。
「まあ。ありがとう。嬉しいわ……ってことは、あなた、この町じゃないところに住んでいるっていうことなの?」
「えーっと。あそこに住んでいます」
そう言って、コンラートは遠くを指差した。
「えっ……」
バネッサは言葉を失った。彼の指が指し示しているのは、遠くにうっすらと見えている塔。「魔塔」と呼ばれる、六角形の形をした塔が三つ並んでおり、その中央の塔はひと際高い。
王城の支配を許さず、高名な魔法使いたちが集う特別な場所。独立はしているものの、王城に決して逆らわない、奇妙な立ち位置を持つのが魔塔だ。この町は王城の城下町で、王城と神殿、そして、その「三大勢力」が存在している。神殿は王族の支配下と言われているが、これもまた特殊な位置づけなので独立しているとも言われる。
それらの中でも、城下町のこの付近に一番近いのは魔塔だった。
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