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6-2.初めてのデート(2)
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「やっぱりあなた、高名な魔法使いだったのね……?」
と驚きの声を上げるバネッサ。
正直なところ、バネッサは魔塔の存在が何なのか、ぼんやりとしか知らない。何やらよくわからないことをしているという非常に曖昧な情報ぐらいだ。魔法使いの育成をするためのアカデミーとやらが近々人々に門戸を開こうとしているらしいが、それは王城の管理下だからきっと関係がないのだろう……その程度しかバネッサの知識にはなかったが、何にせよ「すごいところ」なのはわかっている。
「はい。わたし、あそこの主っていうものらしいんですよ」
「え……?」
またも、驚いてぽかんと口を開けるバネッサ。だが、コンラートはそれの何に彼女が驚いたのかわからないようで「バネッサ?」と首を傾げる。声をかけられ、ハッとなったバネッサは、なんとか次の質問をした。
「どうして、あそこから出て来られないの? この前、なんだっけ。軟禁されてるとかなんとか言ってたわよね?」
「そうなんですよ。そのう、わたしの魔力を使って色んな実験をしているらしくて、日々、あれをしてくれこれをしてくれと文句をつけにくるし、やたら色んな仕事がやってきて。わたし、読み書きはそこまで得意ではないので、資料に目を通すだけで何時間もかかってしまうんですよね……本当に嫌になりますよ……」
そう言ってコンラートは肩を落とす。それから、すぐに「あっ!」と声をあげた。
「そうだ。思い出した。このコート! なかなか外に出られないって言ってるのに、これをやるから我慢しろて言われてもらったんだ。ったく、腹が立つなぁ。外に出られないという文句に対して、外出用のコートをくれるなんて。先代の主は頭がおかしい!」
コンラートはそう言って唇をへの字に曲げる。その様子がおかしくて、バネッサは声を出して笑った。
「ふふっ、うふふ、なぁに、それ。ひどい話ね」
「本当ですよ! ……というわけで、この町を案内してもらえますか?」
「わかったわ。わたしでよければ」
「それで、夜はどこかで食事をしたいですね」
「それもわかったわ。じゃ、行きましょうか」
バネッサは小さく笑うと、コンラートの手をぎゅっと握った。すると、コンラートははにかんだ笑みを浮かべて、その手を握り返す。
(魔塔の主……本当に? 本当にこの人が?)
心の中はざわざわとしていたが、それを聞いて納得したのは確かだ。だって、あんな瀕死の状態からあっという間に元気になって。血があれだけ流れていたのに、自分の体重を軽くする魔法なんかをかけて。小さな布袋から大量の金貨を出して。それから、部屋の防音のような魔法。そして……。
(セックスの時に時間をちょっとゆっくりにされたのは、今後本当に禁止しよう……)
何にせよ、これまで「魔法使い」と縁がなかったわけではない。だが、そんな風にあれもこれも出来るような人は見たことがない。そうか。魔塔の主なのか……ようやく、バネッサは腑に落ちた。
それから二人は、町中の色々な店を見て回った。食料品を売っている店から、雑貨屋、珍しい変わったものが売っているがらくた屋など。どこに行ってもコンラートは目を輝かせて、あれは何、これは何、と楽しそうで、本当に彼は魔塔に軟禁されているのだ、とバネッサは思った。
コンラートは服を見ても、宝飾品を見ても、特にバネッサに何かを買い与えようとはしなかった。いつもならば客にそれらを強請るバネッサだが、今日は逆に買われないことに安心してしまう。
「あ!」
だが、道を歩く途中、突然コンラートが声を上げた。
「えっ? なあに?」
「あのっ……も、しかして、その」
「?」
「何か、あなたにプレゼントなどするのが、普通なのでしょうか? すみません。娼館の習わしというかルールというか、そういうものに疎くて……」
バネッサは、そのことに彼がついに気付いてしまったか、と思いつつも「そんなものはいらないのよ」と微笑んだ。だが、彼はそわそわしだす。
「ううん、そうは言われても……違うんです。あの。あなたにお金を使いたくないということではなくてですね……その……あなたとあちこち見ているだけで楽しくて、気分が高揚してしまって、頭がそっちに……ああ、何を言っても言い訳になってしまう」
そう言って困惑するコンラートの手を再びそっと握って、バネッサは笑う。
「本当にいいのよ。わたしも、こうやって二人であちこち行くだけで楽しくて、何を買ってもらいたいとか、そんなことは全然考えていないから」
「すみません。それから、ありがとうございます。あっ、でも食事はもちろんわたしがお金をお支払いしますから。そのう、わたしは味のことはよくわかりませんが、高いところで、ぜひ」
「ふふ、考えておくわ」
そう言ってみたものの、大体夜に「客と共に」食事をする時の店は決まっている。娼館と提携をしている酒場には個室があって、そこで食事をして、そこから地下道を通って娼館に戻る。それが、バネッサがいる娼館でのルールだった。もちろん、食事も良いものが出るが、請求額は倍額だ。なんとなくそれを申し訳なく思って「料金が高いの。ごめんなさい」とバネッサが謝れば、コンラートは当然のように「ちっとも困りませんよ」と笑う。
(魔塔の主っていうのは、本当にお金持ちなのね……)
以前のバネッサなら「いいカモが客になった。この先も捕まえておこう」と思ったのかもしれない。だが、出会いがああだったからなのか、なんだか、そんな風には思えない。申し訳ない、という気持ちの方が先に来る。勿論、コンラートはこれっぽっちも気にしていないようなのだが。
と驚きの声を上げるバネッサ。
正直なところ、バネッサは魔塔の存在が何なのか、ぼんやりとしか知らない。何やらよくわからないことをしているという非常に曖昧な情報ぐらいだ。魔法使いの育成をするためのアカデミーとやらが近々人々に門戸を開こうとしているらしいが、それは王城の管理下だからきっと関係がないのだろう……その程度しかバネッサの知識にはなかったが、何にせよ「すごいところ」なのはわかっている。
「はい。わたし、あそこの主っていうものらしいんですよ」
「え……?」
またも、驚いてぽかんと口を開けるバネッサ。だが、コンラートはそれの何に彼女が驚いたのかわからないようで「バネッサ?」と首を傾げる。声をかけられ、ハッとなったバネッサは、なんとか次の質問をした。
「どうして、あそこから出て来られないの? この前、なんだっけ。軟禁されてるとかなんとか言ってたわよね?」
「そうなんですよ。そのう、わたしの魔力を使って色んな実験をしているらしくて、日々、あれをしてくれこれをしてくれと文句をつけにくるし、やたら色んな仕事がやってきて。わたし、読み書きはそこまで得意ではないので、資料に目を通すだけで何時間もかかってしまうんですよね……本当に嫌になりますよ……」
そう言ってコンラートは肩を落とす。それから、すぐに「あっ!」と声をあげた。
「そうだ。思い出した。このコート! なかなか外に出られないって言ってるのに、これをやるから我慢しろて言われてもらったんだ。ったく、腹が立つなぁ。外に出られないという文句に対して、外出用のコートをくれるなんて。先代の主は頭がおかしい!」
コンラートはそう言って唇をへの字に曲げる。その様子がおかしくて、バネッサは声を出して笑った。
「ふふっ、うふふ、なぁに、それ。ひどい話ね」
「本当ですよ! ……というわけで、この町を案内してもらえますか?」
「わかったわ。わたしでよければ」
「それで、夜はどこかで食事をしたいですね」
「それもわかったわ。じゃ、行きましょうか」
バネッサは小さく笑うと、コンラートの手をぎゅっと握った。すると、コンラートははにかんだ笑みを浮かべて、その手を握り返す。
(魔塔の主……本当に? 本当にこの人が?)
心の中はざわざわとしていたが、それを聞いて納得したのは確かだ。だって、あんな瀕死の状態からあっという間に元気になって。血があれだけ流れていたのに、自分の体重を軽くする魔法なんかをかけて。小さな布袋から大量の金貨を出して。それから、部屋の防音のような魔法。そして……。
(セックスの時に時間をちょっとゆっくりにされたのは、今後本当に禁止しよう……)
何にせよ、これまで「魔法使い」と縁がなかったわけではない。だが、そんな風にあれもこれも出来るような人は見たことがない。そうか。魔塔の主なのか……ようやく、バネッサは腑に落ちた。
それから二人は、町中の色々な店を見て回った。食料品を売っている店から、雑貨屋、珍しい変わったものが売っているがらくた屋など。どこに行ってもコンラートは目を輝かせて、あれは何、これは何、と楽しそうで、本当に彼は魔塔に軟禁されているのだ、とバネッサは思った。
コンラートは服を見ても、宝飾品を見ても、特にバネッサに何かを買い与えようとはしなかった。いつもならば客にそれらを強請るバネッサだが、今日は逆に買われないことに安心してしまう。
「あ!」
だが、道を歩く途中、突然コンラートが声を上げた。
「えっ? なあに?」
「あのっ……も、しかして、その」
「?」
「何か、あなたにプレゼントなどするのが、普通なのでしょうか? すみません。娼館の習わしというかルールというか、そういうものに疎くて……」
バネッサは、そのことに彼がついに気付いてしまったか、と思いつつも「そんなものはいらないのよ」と微笑んだ。だが、彼はそわそわしだす。
「ううん、そうは言われても……違うんです。あの。あなたにお金を使いたくないということではなくてですね……その……あなたとあちこち見ているだけで楽しくて、気分が高揚してしまって、頭がそっちに……ああ、何を言っても言い訳になってしまう」
そう言って困惑するコンラートの手を再びそっと握って、バネッサは笑う。
「本当にいいのよ。わたしも、こうやって二人であちこち行くだけで楽しくて、何を買ってもらいたいとか、そんなことは全然考えていないから」
「すみません。それから、ありがとうございます。あっ、でも食事はもちろんわたしがお金をお支払いしますから。そのう、わたしは味のことはよくわかりませんが、高いところで、ぜひ」
「ふふ、考えておくわ」
そう言ってみたものの、大体夜に「客と共に」食事をする時の店は決まっている。娼館と提携をしている酒場には個室があって、そこで食事をして、そこから地下道を通って娼館に戻る。それが、バネッサがいる娼館でのルールだった。もちろん、食事も良いものが出るが、請求額は倍額だ。なんとなくそれを申し訳なく思って「料金が高いの。ごめんなさい」とバネッサが謝れば、コンラートは当然のように「ちっとも困りませんよ」と笑う。
(魔塔の主っていうのは、本当にお金持ちなのね……)
以前のバネッサなら「いいカモが客になった。この先も捕まえておこう」と思ったのかもしれない。だが、出会いがああだったからなのか、なんだか、そんな風には思えない。申し訳ない、という気持ちの方が先に来る。勿論、コンラートはこれっぽっちも気にしていないようなのだが。
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