世間知らずの魔塔主は優しい娼婦を溺愛する

今泉香耶

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7-1.二度目の夜(1)

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 食事を終えて、地下を通って娼館に戻る。用意されていた部屋に入れば、室内にはほのかに良い香りが漂っている。それは男性の欲情を煽るものなのだが、コンラートは「なんか不思議な香りがするな」と、呑気に呟く。

「ああ、そうか。この前はあなたの自室だったんですものね」

「そうなのよ」

「やあ、広いな」

 広いとはいえ、それはベッドのサイズの話で、あまり調度品はない。サイドテーブルとカウチと椅子が一つずつ、そして小さなチェストが一つ。たったそれだけの部屋だ。コンラートは躊躇せず、カウチに横たわる。その様子を見て「彼はカウチを使い慣れているのだ」とバネッサは思った。

 彼女はサイドテーブルに用意されているピッチャーから、水を魔道具のポットに注いだ。僅かな魔力を持つバネッサはその魔道具に魔力を流す。すると、その中の水は、バネッサがティーポットに茶葉を入れている間に沸騰する。

「あなたも魔力は少しあるんですね」

「ええ。ほんの少し。でも、何の魔法も唱えられないのよ。魔道具を使えるぐらいだから、特には困っていないけどね」

 バネッサは小さく笑ってポットのお湯を更にティーポットに移す。それから少しだけ、茶葉が開くのを待つ。特にコンラートは何も言わなかったし、バネッサも何も言わない。何故か、それが嫌ではなかった。

 やがて、茶をカップに注ぎ、それをコンラートに差し出す。コンラートは「ありがとう」と言って体を起こして受け取る。

「お茶を淹れるのって、少し時間がいるんですね。知りませんでした」

「そうなの?」

「はい。いつも、もうカップに入ってるものを持ってこられるので……」

「お茶の葉をね。乾燥させているじゃない?」

「はい」

「それを開くっていうか……きちんとお湯に浸けて、なんていうのかしら? お茶の元っていうか……それが溶け出すのを待ってあげるのよ」

 あまりバネッサも道理はわからない。だが、時間をそれなりにかけて淹れたものの方が美味しいことは理解をしている。

「なるほどなるほど……乾燥しているものですものね。そりゃ、そうか……」

 本当にコンラートに伝わったのかはよくわからなかったが、彼は茶を一口飲んでカップをサイドテーブルに戻すと、再びカウチに横たわった。

「ああ、とても美味しいです。ううん、こんなに美味しい茶を飲んだのは初めてかもしれない」

 その言葉に、バネッサは「大げさよ」と小さく笑った。

「でも、気に入ってもらえたなら嬉しいわ……ね、今日も朝までいてくれるの?」

「あなたさえよければ」

「わたしはもちろん歓迎よ。でも、どうして? この前の一晩がそんなに良かったの?」

 そう言いながら、バネッサは床に膝をついてカウチに肘を乗せ、横たわっているコンラートの顔を覗き込んだ。

「ううーん。そうですね。うん、そうなんだと思う」

「なあに? 煮え切らない言い草ね」

「この前の夜、とても良かったんです。そう。とても、とても」

「嬉しいわ」

 むくりと体を起こして、カウチの座面をぽんぽんと叩くコンラート。バネッサは彼に促されて、カウチに腰を掛けた。すると、そのままコンラートはバネッサの膝上に頭を乗せて横たわる。まるで恋人気取りか、とバネッサは思ったが、不思議と嫌な気はしない。膝枕を強制されるのはありがちな話だったが、彼のそれはまるで弟が甘えているかのように思えてしまう。

「あなたと初めてのセックスをして、あんなにセックスが気持ちいいものだと初めて知った。だから、それから毎日、セックスをしようと試みたんですが……」

「え?」

 驚きで裏返った声を出してしまうバネッサ。だが、コンラートは真剣な声音で続ける。

「ここ数日毎日。毎日毎日、違う女性と会ったんですけれど……」

「それは、その、わたしみたいな娼婦と……?」

「ずっと魔塔の主と既成事実を作ってこいと言われていたらしいご令嬢も候補に入っていましたし、実験で子供を作りたいっていう気が狂ってる女魔法使いもいたんですけれど……」

 うーん、と唸るコンラート。

「全然、その気にならなくて、出来なかったんですよ。それで、今日はまた確認に来たんです。その、あなたとするセックスだからいいのかなぁって」

 それにバネッサは困惑の声を漏らす。

「あなたにとって、初めてだったからじゃないのかしら?」

「そうでしょうか? そうだ、あなたのようなお仕事をなさっている方も二人お会いしたんですよ。どこだっけ、えーっと、ノーヴェルの館っていう娼館あるでしょ。あそこの一番手の子とも会ったけど、全然……」

「ノーヴェルの館の一番手!? そんな……」

 出来るわけがない、と言おうとしたが、言葉を止めた。いや、逆だ。出来ないわけがないのだ。魔塔の主ともなれば。
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