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10-3.コンラートの過去(3)
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そうして、先代の魔塔の主は、コンラートを魔塔に連れてきた。そして、魔塔では彼がやってきた翌日から、人々がバタバタと倒れるという一大事が発生してしまう。彼の体内にある魔力の量に、魔塔の魔法使いたちはみんな「当てられて」しまい、人々が高熱を出して寝込んでしまったのだ。その伝説を当時は魔塔にいなかったハーニィですら知っている。
「お前は、魔力に対して器が脆い。このままではいずれは死んでしまうだろう。魔力を分断して、外に放出しなさい」
まったく意味がわからないことを先代の魔塔の主は言った。だが、そこから、彼の「魔力の切り売り」が始まった。そもそもそんなことが出来る者はこの世にそうはいない。魔力というものは解明されていない、要するに人の魂のようなもの。とはいえ、魂はなくなれば人は死ぬが、魔力はなくても人は生きている。だが、これだけ魔力量が多い彼ならばどうなるかはわからない、と先代の主は言った。
「お前の魔力を放出して、それを受ける器が必要だ」
魔力の扱いを少し覚えたコンラートは必死になって、金持ちだけが持てる「魔石」や「魔道具」に彼は魔力を吹き込んだ。まるで工場のように、毎日朝から晩まで様々なものに魔力を吹き込んだ。次は、魔力が足りない魔法使いにその魔力を「貸して」やった。それらのことを自在に出来るようになるのに、彼は十二年の歳月を費やした。
その間、彼は文字の読み書きを習い、次々と魔法書やら何やらを読み進め、どんどん魔法を習得していった。彼は魔力量の多さだけではなく、どんな魔法とも相性がよく、あっという間に魔塔で一番多くの魔法を使えるようになってしまった。
彼は、魔力を放出することと兼ねて、毎日のように多くの魔法を唱え続けた。そして、出来る限り魔力を消耗する魔法を習得して、用事がなくとも自分から魔力を消費するように日々努めていた。彼の習得速度は、先代の魔塔の主ですら舌を巻くほどのもので、彼が次期魔塔の主であることを、人々は疑わなかった。
だが、その間彼は何度も何度も高熱に魘された。体内に膨らんだ魔力の塊が彼の命を脅かしているのだと主は言った。彼には、それがよくわからない。よくわからなかったけれど、自分は高熱を出すたびに、死に直面しているのだとは理解が出来た。
そして、二十二歳になったある日。彼は再び高熱を出した。一週間寝込んで、その間魔力を無作為に外に放出し続けた。
魔塔の主や多くの魔法使いは、彼から流れ出る魔力をなんとかしようと、多くの魔石に封じたり、多くの魔道具に封じたりした。だが、それらももはや限界だった。
「残念ですが、もうこのまま彼を殺しましょう」
誰かがそう言った。もちろん、彼は眠っていたからわからない。だが、誰かがそれを提案したのだということを、先代の主から聞いた。そして、先代の主は、それをよしとしたことも。
「もう仕方がない。かわいそうだが、彼を殺すか……」
そう先代の主が、彼を「処分」しようとした時だった。コンラートの体内からの魔力の放出は止まり、人々は驚く。それは単にタイミングの問題だっただけで、先代の主が「殺そう」としたからそうなったわけではない。だが、なにはともあれ、彼の器は「整った」のだ。
繰り返された高熱は、彼の体の内側を徐々に変えていった。いや、人としての内臓やら何やらに何か異変があったわけではない。魂がある場所がどこなのかがわからないように、魔力がある場所ですら「どこ」なのかは判明しない。ただ、その「場所」が整ったのだと、先代は推測をした。
「時が来たのだ」
先代はそう告げた後、
「このままコンラートの様子を見ておけ。わたしは、異教徒の大司教を倒しに行く」
と人々に告げ、魔塔を後にした。
ちょうどその頃、先代の主は異教徒の大司教を殺すことを王城から依頼をされていた。魔塔の主は暗殺などをする立場ではないが、異教の大司教は魔力で守られているため、仕方なく彼は依頼を受けた。そして、それが、今コンラートを殺そうとしている勢力だ。
何にせよ、コンラートはその日以来、自分の魔力を持て余すことなく、体内に魔力を保持することが出来るようになった。とはいえ、外界ではむしろ彼の魔力を当てにしている者も多かったため、いくらか自分の魔力を切り売りするようにして、体内に保持する魔力量は日々半分以下の状態を保っていた。量が見えないものなのに、切り売りをすることが出来て、結果的にどれほどの量なのかを感じ取ることが出来る……それは不思議な話だったのだが、彼自身が「そう」だと言うのだから、多分そうなのだろう。
家族に捨てられたも同然の彼は、先代の魔塔の主から「お前を殺すところだった」と告げられ、人々もそれに賛同したことを告げられたため、人を信じる気持ちを完全に捨て去った。今も、魔塔の中ではハーニィとしかほぼ会話をしていないが、それはハーニィが「金を支払ってくれれば相応のことはします。これだけ金を支払ってくれる魔塔を失いたくないのでそこは安心してください。裏切る時はきちんとお伝えします」とはっきり明言をしてくれたからだ。
人々は自分の肩書きだけを見て動く。ただそれだけだと彼は思うし、だから肩書き分の仕事はしておくか、と思う。むしろ、それ以外彼には何もなかった。高熱を出して眠っていた時間は長く、それを取り戻す術はない。家で寝たきりだった生活から、魔塔の中で生きる生活になっただけの彼は、時々魔塔を抜け出したものの、人々の生活にあまり興味も持てなかった。ただ、ひたすら書物を読んで、魔法を覚えて、覚えて、覚えて、覚えて。気が付けば、彼は無尽蔵の魔力を持ち、研究室の者も驚く魔法の知識を身に付けた「ただのとんでもない大魔法使い」になったのだ。
「お前は、魔力に対して器が脆い。このままではいずれは死んでしまうだろう。魔力を分断して、外に放出しなさい」
まったく意味がわからないことを先代の魔塔の主は言った。だが、そこから、彼の「魔力の切り売り」が始まった。そもそもそんなことが出来る者はこの世にそうはいない。魔力というものは解明されていない、要するに人の魂のようなもの。とはいえ、魂はなくなれば人は死ぬが、魔力はなくても人は生きている。だが、これだけ魔力量が多い彼ならばどうなるかはわからない、と先代の主は言った。
「お前の魔力を放出して、それを受ける器が必要だ」
魔力の扱いを少し覚えたコンラートは必死になって、金持ちだけが持てる「魔石」や「魔道具」に彼は魔力を吹き込んだ。まるで工場のように、毎日朝から晩まで様々なものに魔力を吹き込んだ。次は、魔力が足りない魔法使いにその魔力を「貸して」やった。それらのことを自在に出来るようになるのに、彼は十二年の歳月を費やした。
その間、彼は文字の読み書きを習い、次々と魔法書やら何やらを読み進め、どんどん魔法を習得していった。彼は魔力量の多さだけではなく、どんな魔法とも相性がよく、あっという間に魔塔で一番多くの魔法を使えるようになってしまった。
彼は、魔力を放出することと兼ねて、毎日のように多くの魔法を唱え続けた。そして、出来る限り魔力を消耗する魔法を習得して、用事がなくとも自分から魔力を消費するように日々努めていた。彼の習得速度は、先代の魔塔の主ですら舌を巻くほどのもので、彼が次期魔塔の主であることを、人々は疑わなかった。
だが、その間彼は何度も何度も高熱に魘された。体内に膨らんだ魔力の塊が彼の命を脅かしているのだと主は言った。彼には、それがよくわからない。よくわからなかったけれど、自分は高熱を出すたびに、死に直面しているのだとは理解が出来た。
そして、二十二歳になったある日。彼は再び高熱を出した。一週間寝込んで、その間魔力を無作為に外に放出し続けた。
魔塔の主や多くの魔法使いは、彼から流れ出る魔力をなんとかしようと、多くの魔石に封じたり、多くの魔道具に封じたりした。だが、それらももはや限界だった。
「残念ですが、もうこのまま彼を殺しましょう」
誰かがそう言った。もちろん、彼は眠っていたからわからない。だが、誰かがそれを提案したのだということを、先代の主から聞いた。そして、先代の主は、それをよしとしたことも。
「もう仕方がない。かわいそうだが、彼を殺すか……」
そう先代の主が、彼を「処分」しようとした時だった。コンラートの体内からの魔力の放出は止まり、人々は驚く。それは単にタイミングの問題だっただけで、先代の主が「殺そう」としたからそうなったわけではない。だが、なにはともあれ、彼の器は「整った」のだ。
繰り返された高熱は、彼の体の内側を徐々に変えていった。いや、人としての内臓やら何やらに何か異変があったわけではない。魂がある場所がどこなのかがわからないように、魔力がある場所ですら「どこ」なのかは判明しない。ただ、その「場所」が整ったのだと、先代は推測をした。
「時が来たのだ」
先代はそう告げた後、
「このままコンラートの様子を見ておけ。わたしは、異教徒の大司教を倒しに行く」
と人々に告げ、魔塔を後にした。
ちょうどその頃、先代の主は異教徒の大司教を殺すことを王城から依頼をされていた。魔塔の主は暗殺などをする立場ではないが、異教の大司教は魔力で守られているため、仕方なく彼は依頼を受けた。そして、それが、今コンラートを殺そうとしている勢力だ。
何にせよ、コンラートはその日以来、自分の魔力を持て余すことなく、体内に魔力を保持することが出来るようになった。とはいえ、外界ではむしろ彼の魔力を当てにしている者も多かったため、いくらか自分の魔力を切り売りするようにして、体内に保持する魔力量は日々半分以下の状態を保っていた。量が見えないものなのに、切り売りをすることが出来て、結果的にどれほどの量なのかを感じ取ることが出来る……それは不思議な話だったのだが、彼自身が「そう」だと言うのだから、多分そうなのだろう。
家族に捨てられたも同然の彼は、先代の魔塔の主から「お前を殺すところだった」と告げられ、人々もそれに賛同したことを告げられたため、人を信じる気持ちを完全に捨て去った。今も、魔塔の中ではハーニィとしかほぼ会話をしていないが、それはハーニィが「金を支払ってくれれば相応のことはします。これだけ金を支払ってくれる魔塔を失いたくないのでそこは安心してください。裏切る時はきちんとお伝えします」とはっきり明言をしてくれたからだ。
人々は自分の肩書きだけを見て動く。ただそれだけだと彼は思うし、だから肩書き分の仕事はしておくか、と思う。むしろ、それ以外彼には何もなかった。高熱を出して眠っていた時間は長く、それを取り戻す術はない。家で寝たきりだった生活から、魔塔の中で生きる生活になっただけの彼は、時々魔塔を抜け出したものの、人々の生活にあまり興味も持てなかった。ただ、ひたすら書物を読んで、魔法を覚えて、覚えて、覚えて、覚えて。気が付けば、彼は無尽蔵の魔力を持ち、研究室の者も驚く魔法の知識を身に付けた「ただのとんでもない大魔法使い」になったのだ。
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