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13-2.約束(2)
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「ね、コンラート。お願いがあるの」
「なんでしょうか?」
「約束して欲しいの……わたし、あなたが凄い人だってことはよく、本当によくわかっているけれど……でも、人を殺すのは……ええ、前回は仕方がなかったんだろうって思うわ。よくわからないけれど、あなたが言うならそうなんでしょうね。でも、だからってよくないわ……」
「わたしを殺そうとした相手を殺すことは、よくないんですか? おかしな話だな……」
コンラートはきょとんとした表情を見せた。
「バネッサは、不思議なことを言いますね。そうか。でも、わたしが人を殺すことであなたが嫌な気持ちになるなら……いや、でも、わたしは王城からの依頼でそういうことをする場合もあるんだよなぁ……ううん、でもいいか。そうですね。わたしも一応平和主義者なので、出来るだけ殺さず穏便には済ませたい」
彼の言葉に少しほっとするバネッサ。
「本当?」
「本当ですよ。ですから、あなたと約束をしましょう。出来るだけ人を殺さないようにします……」
出来るだけ、か。バネッサは苦笑いを浮かべたが、それでも彼が約束をしてくれるなら、と思う。
(この人は今まで何人も人を殺しているのね……)
少しだけ、彼を怖いと感じる。けれど、残念ながら彼に惹かれる気持ちは、その恐怖だけでは変わらないのだとも気付く。
すると、コンラートはじいっとバネッサを見た。
「それなら、あなたもわたしと約束をしてください。出来る限り、傷つかないと。以前のようにわたしが知らないところで、わけがわからない男にあなたが暴力を振るわれているなんて、想像しただけでわたしははらわたが煮えくり返ってしまいます。でも、だからって……たとえ、あなたの身請けをしても……強引に、閉じ込めておくことは……うう……出来ませんから……」
切れ切れに、彼は苦渋を滲ませながらそう告げた。彼は、バネッサの考えを完全には理解をしてくれない。けれど、それでも尊重をしようとしてくれているのだ。そのことに驚いて、バネッサは一瞬口を半開きにした。一体どうしたんだろう、と思いつつ、彼女は頷いた。
「ええ、約束するわ。そのう、出来るだけ……ああ、駄目ね、わたしも結局、出来るだけっていう約束になってしまうけれど……自分を傷つけないようにするわ」
「うーん、出来るだけ、か。でもわたしも同じだから、そこは仕方がない!」
コンラートは深く息を吐いた。肩を落としてからしばらくして、小さく笑う。
「はは、誰かと約束なんて、初めてしたかもしれない。バネッサは本当にすごいな……あなたは、わたしの初めてをなんでもかんでも奪ってしまうんだなぁ」
「そうなの?」
「ええ。約束なんてどうせ破られるものだと思っていたので、最初から誰ともしたことはなかったです。誰のことも信じていなかったので。でも、これは守りたいな」
「あなた……」
彼は、なんてことない世間話をするようにそう言った。が、バネッサは、だからこそ、なんだかその言葉が染みると思う。彼は、いつも自分に嘘はつかない。いつも本当のことを言う。誇張もなく、ただ、そう思っただけのことを。だからきっと、これも本当だ。彼は、誰のことも信じていない。約束をしたことがない。それらは真実なのだろう。
「約束しなくても、毎日通ってくれているのに?」
「だって、それは……あなたが欲しいからですよ……」
そうだ。毎日毎日、彼はきちんと通ってくれた。そして、毎日自分が出した茶を飲んでくれて、キスをしてくれて、抱きしめてくれて。そして、そのどれもが嬉しそうに見える。そして、それは自分も同じだった。彼と初めて会った日から今日までずっと、彼といるとちょっとだけそわそわするけれど、愛されているのでは、と夢を見ることが出来た。
でも。だけど。
バネッサの心は揺れる。
そんな風に彼に金を使ってもらえるだけの価値が自分に本当にあるのだろうか。どうしても、それが理解できない。わからない。申し訳ない。その思いに押しつぶされそうにもなる。カサンドラに言われたことを何度も思い出す。色恋の理由なんて簡単に言葉には出来ないものなのだと。でも。
(違うわ。わたし、贅沢をしようとしている)
自分の心が揺れるのは。確かなものが欲しいからだ。この先も彼が自分を好きでいてくれると言う保証が欲しいのだ。だが、そんなものはこの世界のどこにもない。彼にたとえ誓わせても、言葉にしてもらっても、きっと自分は疑心を抱く。
「バネッサ?」
心配そうに彼女の名を呼ぶコンラートに、バネッサは自分から抱きついた。彼は驚いて「どうしたんですか?」と言って彼女を抱きとめる。
布越しで彼の体温を感じて「ああ、そうよ。ちゃんと温かいのね」と改めて実感して、バネッサはそっと体を離し、告げた。
「ごめんなさい。あのね、身請けのお話……」
「はい」
「その、まだ、気持ちの整理がつかないの。でも……でも」
でも、受けようと思っている。それを言う勇気がない。けれど、あと一歩。あとほんの一歩まで心が動いている。自分はこの娼館から出ることが出来るのだ……そう思うのに、喉の奥で言葉が詰まる。
「バネッサ」
コンラートは軽く首を横に振る。
「大丈夫ですよ。まだ何日かあります。待ちますから」
いつも強引なコンラートが、優しくそう言ってくれる。そのことにバネッサは胸の奥がじんわりと熱くなっていく。ああ、やっぱりこの人のことが自分は好きなのだ……そう思って彼を見つめていると、彼は「ね、約束ですからね」となんとも可愛らしく笑うのだった。
「なんでしょうか?」
「約束して欲しいの……わたし、あなたが凄い人だってことはよく、本当によくわかっているけれど……でも、人を殺すのは……ええ、前回は仕方がなかったんだろうって思うわ。よくわからないけれど、あなたが言うならそうなんでしょうね。でも、だからってよくないわ……」
「わたしを殺そうとした相手を殺すことは、よくないんですか? おかしな話だな……」
コンラートはきょとんとした表情を見せた。
「バネッサは、不思議なことを言いますね。そうか。でも、わたしが人を殺すことであなたが嫌な気持ちになるなら……いや、でも、わたしは王城からの依頼でそういうことをする場合もあるんだよなぁ……ううん、でもいいか。そうですね。わたしも一応平和主義者なので、出来るだけ殺さず穏便には済ませたい」
彼の言葉に少しほっとするバネッサ。
「本当?」
「本当ですよ。ですから、あなたと約束をしましょう。出来るだけ人を殺さないようにします……」
出来るだけ、か。バネッサは苦笑いを浮かべたが、それでも彼が約束をしてくれるなら、と思う。
(この人は今まで何人も人を殺しているのね……)
少しだけ、彼を怖いと感じる。けれど、残念ながら彼に惹かれる気持ちは、その恐怖だけでは変わらないのだとも気付く。
すると、コンラートはじいっとバネッサを見た。
「それなら、あなたもわたしと約束をしてください。出来る限り、傷つかないと。以前のようにわたしが知らないところで、わけがわからない男にあなたが暴力を振るわれているなんて、想像しただけでわたしははらわたが煮えくり返ってしまいます。でも、だからって……たとえ、あなたの身請けをしても……強引に、閉じ込めておくことは……うう……出来ませんから……」
切れ切れに、彼は苦渋を滲ませながらそう告げた。彼は、バネッサの考えを完全には理解をしてくれない。けれど、それでも尊重をしようとしてくれているのだ。そのことに驚いて、バネッサは一瞬口を半開きにした。一体どうしたんだろう、と思いつつ、彼女は頷いた。
「ええ、約束するわ。そのう、出来るだけ……ああ、駄目ね、わたしも結局、出来るだけっていう約束になってしまうけれど……自分を傷つけないようにするわ」
「うーん、出来るだけ、か。でもわたしも同じだから、そこは仕方がない!」
コンラートは深く息を吐いた。肩を落としてからしばらくして、小さく笑う。
「はは、誰かと約束なんて、初めてしたかもしれない。バネッサは本当にすごいな……あなたは、わたしの初めてをなんでもかんでも奪ってしまうんだなぁ」
「そうなの?」
「ええ。約束なんてどうせ破られるものだと思っていたので、最初から誰ともしたことはなかったです。誰のことも信じていなかったので。でも、これは守りたいな」
「あなた……」
彼は、なんてことない世間話をするようにそう言った。が、バネッサは、だからこそ、なんだかその言葉が染みると思う。彼は、いつも自分に嘘はつかない。いつも本当のことを言う。誇張もなく、ただ、そう思っただけのことを。だからきっと、これも本当だ。彼は、誰のことも信じていない。約束をしたことがない。それらは真実なのだろう。
「約束しなくても、毎日通ってくれているのに?」
「だって、それは……あなたが欲しいからですよ……」
そうだ。毎日毎日、彼はきちんと通ってくれた。そして、毎日自分が出した茶を飲んでくれて、キスをしてくれて、抱きしめてくれて。そして、そのどれもが嬉しそうに見える。そして、それは自分も同じだった。彼と初めて会った日から今日までずっと、彼といるとちょっとだけそわそわするけれど、愛されているのでは、と夢を見ることが出来た。
でも。だけど。
バネッサの心は揺れる。
そんな風に彼に金を使ってもらえるだけの価値が自分に本当にあるのだろうか。どうしても、それが理解できない。わからない。申し訳ない。その思いに押しつぶされそうにもなる。カサンドラに言われたことを何度も思い出す。色恋の理由なんて簡単に言葉には出来ないものなのだと。でも。
(違うわ。わたし、贅沢をしようとしている)
自分の心が揺れるのは。確かなものが欲しいからだ。この先も彼が自分を好きでいてくれると言う保証が欲しいのだ。だが、そんなものはこの世界のどこにもない。彼にたとえ誓わせても、言葉にしてもらっても、きっと自分は疑心を抱く。
「バネッサ?」
心配そうに彼女の名を呼ぶコンラートに、バネッサは自分から抱きついた。彼は驚いて「どうしたんですか?」と言って彼女を抱きとめる。
布越しで彼の体温を感じて「ああ、そうよ。ちゃんと温かいのね」と改めて実感して、バネッサはそっと体を離し、告げた。
「ごめんなさい。あのね、身請けのお話……」
「はい」
「その、まだ、気持ちの整理がつかないの。でも……でも」
でも、受けようと思っている。それを言う勇気がない。けれど、あと一歩。あとほんの一歩まで心が動いている。自分はこの娼館から出ることが出来るのだ……そう思うのに、喉の奥で言葉が詰まる。
「バネッサ」
コンラートは軽く首を横に振る。
「大丈夫ですよ。まだ何日かあります。待ちますから」
いつも強引なコンラートが、優しくそう言ってくれる。そのことにバネッサは胸の奥がじんわりと熱くなっていく。ああ、やっぱりこの人のことが自分は好きなのだ……そう思って彼を見つめていると、彼は「ね、約束ですからね」となんとも可愛らしく笑うのだった。
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