世間知らずの魔塔主は優しい娼婦を溺愛する

今泉香耶

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13-3.約束(3)

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 それから二日後。娼館の受付で、体格がよい男性が何やら揉めている。時刻は真夜中だ。

「おい、一体どうなってるんだ。バネッサの予約が出来ないとはどういうことだ!」

「ですから、バネッサはひと月後以降の予約は今はとれない状況でして……」

 バネッサの身請けをするためにコンラートは予約を埋めているが、実際は未だに身請けの返事をバネッサから受けていない。とはいえ、身請けを「する」と彼女が言えば、もうその翌日からは娼館から連れ出すことが出来るのだ。
 よって、もしも彼女が身請けを受け入れた場合を考えて、その先の予約はとれないようになっている。

 当然、それで彼女が身請けを「受けなかった」場合、娼館としては困る。なので、バネッサには内緒でコンラートはその先一か月「彼女に通う」ための予約を入れた。バネッサはそれどころではないため、彼がそこまでの手配をしていることを知らないが。そして、その一か月分は、彼女が身請けをしても、娼館に支払われることになっている。

 とはいえ、客に「バネッサに身請けを名乗り出たものがいて」と伝えることは、諸刃の剣。普段ならばそうやって客を競わせることもあるが、コンラートが相手では分が悪い。娼館もすでに、コンラートが金払いの良い上客と認識をしているため、他の客と身請けを争わせて揉めるのを避けたい。そういうわけで、結局「バネッサは一か月先までは予約が出来ないことになっている。そして、その先の予約はまだ始まっていない」というあいまいな手段を使っているわけだ。

 しかし、その男はそれでは引き下がらなかった。

「ふざけんなよ。金ならあるぞ。そうだ。一日の相場、倍額払ってやったらどうだ!?」

「いえ、金額の問題ではありません」

「いいから、おい、お前じゃ話にならん。女主人を呼んで来い!」

 高圧的な態度を取られて、渋々受付の担当者が「少々お待ちください」と言って、裏に行ってしばらくした時だった。

 普段ならば、転移をして帰るはずのコンラートが、バネッサを伴ってやって来た。

 本来、娼館の入口と出口は別になっている上に、客の予約時間はあまり多くは被らないようになっている。要するに客同士がそう滅多に顔を合わせることはない。

 だが、バネッサがコンラートに相談をして、身請けを受けるとしても受けないとしても、現在「預け」をしている金を、コンラートに預かって欲しいと申し出た。そのため、彼らは受付にやってきたのだ。
「あ……カミオさん……」

 受付にいた男を見て、バネッサはびくりと体を一瞬竦めた。

「おっ!? バネッサ。いるじゃねぇか!」

「どうなさったの?」

「お前の予約をいれてぇのに、ひと月後まで入れられねぇって言われたんだよ。一体どうなってんだ!? ふざけていやがる!」

 そう言いながら、男はコンラートを睨みつける。

「今日の客はそいつか?」

 あごをくいとあげる男に、バネッサがどうしようかと躊躇していると、コンラートが「そうです。明日も明後日も、一月後も」と口を開いた。

「ちょっと……!」

「はあーん、お前がバネッサを独り占めしてるってわけか?」

「ね、カミオさん、ひとつき後からの予約は受け付けているから……」

 本当は、そうではない。だが、事態を穏便にしたいと考えたバネッサはコンラートの前に出て、そのカミオと言う男の腕に手を軽く絡ませた。

「バネッサ」

 けれども、コンラートは穏やかに名を呼んで、バネッサの肩を叩く。

「まだ、わたしとの時間ですよ。駄目」

「あっ……」

 普段ならば、そんな掟破りのことをバネッサは決してしない。彼女はなんだかんだ言ってこの娼館の二番手なのだし、その肩書き通りに行き届いている。けれど、そんな彼女がカミオのご機嫌をとりにいっている……そのことに気付かないコンラートではない。彼はいつも飄々として何が起きてもどこ吹く風という顔をしているし、時にはとんでもなく鈍感だ。しかし、そういった「異変」を感じ取る力は強い。

 そして、彼が彼女の身請けをするために予約をしていたひと月先のことで揉めていることも既に感じ取っていた。よって、バネッサに任せずに彼は話を続けた。

「残念ですが、ひと月後までは彼女は毎日わたしのものです」

「俺はよぉ。町から町へと移動していく商人の護衛をしてるのさ。ひと月後なんて、もうこの町から出た後だ。次にここに戻って来るのは三か月も後になんのよ」

「そうですか。では、他の娼婦の方々のお世話になったらいかがですか?」

「ハハッ、ふざけたことを言いやがるなぁ。兄ちゃんよ……なあ、バネッサ? 一日二日、いやぁ、三日ぐらいいいだろぉ? な?」

 そう言うと、カミオは腕をバネッサの首に伸ばした。バネッサは反射的に足を一瞬後退させたが、体はそこに留まっている。それは、客に対して逃げるような行為をしてはいけない、という理性がそうさせたのだろう。

 男の手が彼女の細く美しい首にかかる。指をぐっと曲げて、まるで首を絞めることを示唆をしているようだ。

「お前に突っ込んでさぁ……あの、苦しそうな最高にエロい顔を見てぇんだよ、俺はさぁ。金なら弾むぜ?」

 その手をコンラートが掴んで、彼女の首から離させた。カミオは実際に力を入れていたわけではなかったため、バネッサの首を指先にひっかけるわけもなく手を持っていかれる。「ああ?」とコンラートを睨みつけるカミオ。
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