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25.種明かし
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それから数日彼らはゆっくりと穏やかな日々を過ごした。海沿いの別荘ではあったが、少し離れたところには川が流れていたため、河口の様子を見にいった。海沿いの町で海鮮物を堪能したり、真珠を買ったりもした。海に突き出た場所に並ぶ街並みは美しく、船に乗って海側からそれを見たりもした。が、それはともかく……
「まさか、国を越えていたなんて……」
バネッサの胃が少しばかりキリキリする。別荘がある場所が国外だと聞いて、それを飲み込むまでいささか時間がかかった。
城下町で生まれて城下町で育った彼女は、自分の国というものがどれぐらいの規模なのかもよくわかっていなかったし、そもそも海に面していない国だとも知らなかった。いや、いくらなんでも国外の家を「買う」ことが出来るのだろうか。
ありがたいことに言語が同じだったが、コンラートは「隣国ですからねぇ。一緒でもおかしくないですよ」と呑気なものだ。彼らの国に面した隣国はいくつかあったが、その中でも一番良好な関係である国だったので、それはバネッサも納得する。
「あぁ、でもあれか。もしかしたら」
「なあに?」
砂浜からあまり離れていない場所。白い建物が続く町中。その光景が既に見慣れない。明らかに異国の風情だ。その町中のベンチに座って、二人は海産物の串焼きを食べている。
バネッサはそれらを口にするのを最初は戸惑っていた。あまり見慣れないものが多かったのと、強烈な海の匂いに怖気づいたからだ。しかし、思った以上にコンラートは「初めてのもの」を口にすることに躊躇がなかった。おかげで、すぐに「美味しいものだ」と理解をしてバネッサも食べ、いくつか食べたがどれも気に入った。
「粗相をするなとかなんとか、王はわたしに言いたかったのかな」
思い出すのは結婚式から「逃げる」ように大聖堂から転移する直前。明らかに国王はコンラートに呼び掛けていた。が、それを無視するように彼はバネッサを抱えてさっさと転移してしまったのだ。
「粗相を……?」
「うん。わたしがあの別荘を買ったことを、こっちの王様は知っていてですね」
「ええ?」
「転移の許可をとるのに、わたしが個人的にこっちの王と契約を結ぶことが出来ないため、うちの王様を通さないといけなくて」
「あっ……」
聡明なバネッサは「そういえば」と気付いた。コンラートはどこにでも簡単にすぐに転移を出来るわけではない。いや、そもそも転移の難しさというものについてバネッサはよくわかっていなかったが、どこにでも簡単に行けてしまうなら、それはとんでもないことだ。
魔塔と自分たちの家だって、転移をするために何かの魔法陣らしいものを「その場に印をつける」ことによって成立をすることだ。それを考えれば、あの別荘に転移を出来たと言うことは、その印を彼がつけたことがあるわけで、さらに言えば国の外にそんなものをつけられるとなると……。
「国外からホイホイ人が来られるようになっちゃいますからね。ちゃんと国境での関所を通らないといけないですから。とはいえ、まああの印はわたしか、わたしが許可した人でなければ通れない魔法陣になっていますし、人数制限もかかっています。こっちの国の魔法使い数名に立ち会ってもらって作った魔法陣なのでね」
そう言うと、コンラートは串が刺さってこんがりと焼かれている魚の腹にかぶりついた。
「ここ最近忙しそうだったのって、もしかして隣国に……この国に来ていたってこと……?」
ほとんど泊りがけの仕事に行かない彼が、結婚式前にあれこれと飛びまわっていたことを思い出して尋ねるバネッサ。
「そうですね。あのね、こっちの国の一部でね、先月大洪水があったんですって」
「えっ」
「それで、うちの国に支援要請が来ていたんでわたしが出向きまして……死者はほとんどいなかったんですが、かなりの面積の農作物と森と町がやられて、結構ひどい状態だったんですよね」
「そう、なのね?」
「はい。なので、まあわたしも万能ではないので出来ることは少なかったんですけど……」
水が引いた後も、畑は復旧が出来ないありさまだったと言う。冠水やら浸水という程度ではなく、植えた根っこから土からすべてが流されてしまう惨状だったらしい。
「でも、わたしよりも土魔法や水魔法が長けている者がうちには何人かいるので、魔塔から何人か連れて来て、朝から晩まで魔法を使わせました。いやぁ、大変でしたよ。わたしの魔力を使うように分けてあげたんですけど、人間の体って一定よりは無理出来ないみたいで、3時間ぐらいで鼻血とか出して倒れちゃって」
「ええ!?」
もぐもぐと魚を食べては「やあ、これは美味しい」と笑うコンラート。一方のバネッサはそれどころではない。
「それは大丈夫なの……?」
「あれはいい実験でした。治癒も施したんですけど、ひとつの個体が扱い続けられる魔力はそれぞれの個体での限界値があるらしくてですねぇ」
「え、え、えぇ……?」
「しょうがないので、ここの国の魔法使いも大量に集めて、わたしが指示をして大地の復旧だけなんとかしたんですよねぇ」
あっけらかんと言うコンラートを見て、バネッサは空いた口がふさがらない。
「それで、国の要請に国が応えた形なんで、うちの国にお礼はいくらしいんですけどね。こっちの国の国王からも、直接何か礼がしたいって話で」
「それで?」
「折角だから、自分の国からあーだこーだ言われない場所に別荘が欲しかったんでね! 別荘を買いたいってお願いしたら許可してくれて。そのかわり、使用人を雇う金はこっちの国で出してくれるって。それで、行き来できる魔法陣も作っていいって」
「はぁ~!」
そこまで聞いてようやくバネッサは息を吐き出した。
「何かおかしいと思ったのよ。いくら忙しくなるからって、急に泊りがけでのお仕事なんて」
バネッサは、大聖堂で彼に声をかけようとした国王の姿を思い出す。あれは「粗相をしないように!」などと怒りたい様子ではなかった。
(あれは、隣国にコンラートがそのまま逃げないか心配していたのかもしれないわね……)
つい困惑の表情になっていると、コンラートはバネッサの顔を覗き込んだ。
「バネッサ? どうしました?」
「あなたが本当にすごい人なんだなって、再認識していたのよ……」
「ははっ、わたしが本当にすごい人なら、あなたはもっとすごい人ですよ。いざとなったら、わたしの力は全部あなたのものですから」
「んもう」
そんな言葉はただの詭弁だと思うが、あえてそれ以上バネッサは追及しなかった。
コンラートは「よし」と言って、魚の尾っぽまでがりがりと食べて立ち上がった。まったく、偏食の割には初めてのものを最後までしっかり食べるところも変なところだな、とバネッサは思う。
「よし、それじゃ、お土産? っていうものを探しに行きましょう。旅行をしたら、旅先で手に入れたものを持ち帰って誰かにあげるんだってハーニィから聞きました。そうだ。別に友達でもなんでもないけど、しょうがないから国王にも買ってやるか」
しょうがないから国王にも買ってやるか。あまりに雑な言い草に、ついにバネッサは大きく笑ってしまった。まさか国の長に対してこの言葉。
だが、それがコンラートなのだ。バネッサは「そうね。とびっきりの何かを買ってあげたらいいわ」と笑うのだった。
「まさか、国を越えていたなんて……」
バネッサの胃が少しばかりキリキリする。別荘がある場所が国外だと聞いて、それを飲み込むまでいささか時間がかかった。
城下町で生まれて城下町で育った彼女は、自分の国というものがどれぐらいの規模なのかもよくわかっていなかったし、そもそも海に面していない国だとも知らなかった。いや、いくらなんでも国外の家を「買う」ことが出来るのだろうか。
ありがたいことに言語が同じだったが、コンラートは「隣国ですからねぇ。一緒でもおかしくないですよ」と呑気なものだ。彼らの国に面した隣国はいくつかあったが、その中でも一番良好な関係である国だったので、それはバネッサも納得する。
「あぁ、でもあれか。もしかしたら」
「なあに?」
砂浜からあまり離れていない場所。白い建物が続く町中。その光景が既に見慣れない。明らかに異国の風情だ。その町中のベンチに座って、二人は海産物の串焼きを食べている。
バネッサはそれらを口にするのを最初は戸惑っていた。あまり見慣れないものが多かったのと、強烈な海の匂いに怖気づいたからだ。しかし、思った以上にコンラートは「初めてのもの」を口にすることに躊躇がなかった。おかげで、すぐに「美味しいものだ」と理解をしてバネッサも食べ、いくつか食べたがどれも気に入った。
「粗相をするなとかなんとか、王はわたしに言いたかったのかな」
思い出すのは結婚式から「逃げる」ように大聖堂から転移する直前。明らかに国王はコンラートに呼び掛けていた。が、それを無視するように彼はバネッサを抱えてさっさと転移してしまったのだ。
「粗相を……?」
「うん。わたしがあの別荘を買ったことを、こっちの王様は知っていてですね」
「ええ?」
「転移の許可をとるのに、わたしが個人的にこっちの王と契約を結ぶことが出来ないため、うちの王様を通さないといけなくて」
「あっ……」
聡明なバネッサは「そういえば」と気付いた。コンラートはどこにでも簡単にすぐに転移を出来るわけではない。いや、そもそも転移の難しさというものについてバネッサはよくわかっていなかったが、どこにでも簡単に行けてしまうなら、それはとんでもないことだ。
魔塔と自分たちの家だって、転移をするために何かの魔法陣らしいものを「その場に印をつける」ことによって成立をすることだ。それを考えれば、あの別荘に転移を出来たと言うことは、その印を彼がつけたことがあるわけで、さらに言えば国の外にそんなものをつけられるとなると……。
「国外からホイホイ人が来られるようになっちゃいますからね。ちゃんと国境での関所を通らないといけないですから。とはいえ、まああの印はわたしか、わたしが許可した人でなければ通れない魔法陣になっていますし、人数制限もかかっています。こっちの国の魔法使い数名に立ち会ってもらって作った魔法陣なのでね」
そう言うと、コンラートは串が刺さってこんがりと焼かれている魚の腹にかぶりついた。
「ここ最近忙しそうだったのって、もしかして隣国に……この国に来ていたってこと……?」
ほとんど泊りがけの仕事に行かない彼が、結婚式前にあれこれと飛びまわっていたことを思い出して尋ねるバネッサ。
「そうですね。あのね、こっちの国の一部でね、先月大洪水があったんですって」
「えっ」
「それで、うちの国に支援要請が来ていたんでわたしが出向きまして……死者はほとんどいなかったんですが、かなりの面積の農作物と森と町がやられて、結構ひどい状態だったんですよね」
「そう、なのね?」
「はい。なので、まあわたしも万能ではないので出来ることは少なかったんですけど……」
水が引いた後も、畑は復旧が出来ないありさまだったと言う。冠水やら浸水という程度ではなく、植えた根っこから土からすべてが流されてしまう惨状だったらしい。
「でも、わたしよりも土魔法や水魔法が長けている者がうちには何人かいるので、魔塔から何人か連れて来て、朝から晩まで魔法を使わせました。いやぁ、大変でしたよ。わたしの魔力を使うように分けてあげたんですけど、人間の体って一定よりは無理出来ないみたいで、3時間ぐらいで鼻血とか出して倒れちゃって」
「ええ!?」
もぐもぐと魚を食べては「やあ、これは美味しい」と笑うコンラート。一方のバネッサはそれどころではない。
「それは大丈夫なの……?」
「あれはいい実験でした。治癒も施したんですけど、ひとつの個体が扱い続けられる魔力はそれぞれの個体での限界値があるらしくてですねぇ」
「え、え、えぇ……?」
「しょうがないので、ここの国の魔法使いも大量に集めて、わたしが指示をして大地の復旧だけなんとかしたんですよねぇ」
あっけらかんと言うコンラートを見て、バネッサは空いた口がふさがらない。
「それで、国の要請に国が応えた形なんで、うちの国にお礼はいくらしいんですけどね。こっちの国の国王からも、直接何か礼がしたいって話で」
「それで?」
「折角だから、自分の国からあーだこーだ言われない場所に別荘が欲しかったんでね! 別荘を買いたいってお願いしたら許可してくれて。そのかわり、使用人を雇う金はこっちの国で出してくれるって。それで、行き来できる魔法陣も作っていいって」
「はぁ~!」
そこまで聞いてようやくバネッサは息を吐き出した。
「何かおかしいと思ったのよ。いくら忙しくなるからって、急に泊りがけでのお仕事なんて」
バネッサは、大聖堂で彼に声をかけようとした国王の姿を思い出す。あれは「粗相をしないように!」などと怒りたい様子ではなかった。
(あれは、隣国にコンラートがそのまま逃げないか心配していたのかもしれないわね……)
つい困惑の表情になっていると、コンラートはバネッサの顔を覗き込んだ。
「バネッサ? どうしました?」
「あなたが本当にすごい人なんだなって、再認識していたのよ……」
「ははっ、わたしが本当にすごい人なら、あなたはもっとすごい人ですよ。いざとなったら、わたしの力は全部あなたのものですから」
「んもう」
そんな言葉はただの詭弁だと思うが、あえてそれ以上バネッサは追及しなかった。
コンラートは「よし」と言って、魚の尾っぽまでがりがりと食べて立ち上がった。まったく、偏食の割には初めてのものを最後までしっかり食べるところも変なところだな、とバネッサは思う。
「よし、それじゃ、お土産? っていうものを探しに行きましょう。旅行をしたら、旅先で手に入れたものを持ち帰って誰かにあげるんだってハーニィから聞きました。そうだ。別に友達でもなんでもないけど、しょうがないから国王にも買ってやるか」
しょうがないから国王にも買ってやるか。あまりに雑な言い草に、ついにバネッサは大きく笑ってしまった。まさか国の長に対してこの言葉。
だが、それがコンラートなのだ。バネッサは「そうね。とびっきりの何かを買ってあげたらいいわ」と笑うのだった。
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