もう二度と、愛さない

蜜迦

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父親の朝③

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 殿下率いる帝国軍は、キルバス制圧で最大の難所とされた軍事的要衝サドナの砦を落とし、いよいよ首都へ向けて兵を動かそうとした。
 しかしその時──
 後方へ置いていた本陣から、敵の急襲を知らせる狼煙が上がったのだ。
 しかし殿下はこれに動じることはなかった。
 なぜなら事前に行われた軍議において、万が一の急襲に備え、あらゆる状況を想定し、綿密に作戦を立てていたからだ。
 そして殿下の安心材料はもう一つあった。
 自身が師事した信頼できる戦略家を本陣に配置していたのだ。
 彼──セオドールは知将でありながら、剣の腕にも優れていた。
 殿下は、例え非常事態に見舞われたとしても、セオドールがいる限り安心だと考えていたに違いない。
 もしも私が殿下の立場であったなら、同じように考えたと思う。

 (──だがそれも、ただひとつの不安を除いては……なのだが……)

 その“ひとつの不安”とは、貴族派がねじ込んだ副官の存在だった。
 “経験豊富”という謳い文句で副官にねじ込まれた男は、蓋を開けてみればただの軍人かぶれの貴族で。
 実際は、生家の権威に守られろくな訓練も受けず、地位を金で買い、軍人を気取ってふんぞり返っているだけの軟弱者だったのだ。
 後に聞いたのは、実際に前線に出るわけでもなく、酒を片手に顔を赤らめ、戦況を模した盤上の駒を文句を垂れながら見ている男の姿。
 男は、一般兵が命を懸けて掴み取った勝利を当たり前だと言わんばかりに自身の手柄にし、のし上がってきた醜悪な心の持ち主であったようだ。

 そんな男が、自滅覚悟の敵兵による急襲に立ち向かえるはずなど当然なく。
 男は、元々敵兵を迎え撃つはずであった貴族派出身の兵士たちを、自身を守るために留まらせた。
 そして代わりにセオドールと彼が率いる兵士を、殿下と合流するため……いや、自身が逃げるための殿しんがりに任命したのだ。
 当然周囲は激しく反発したが、混乱の中、しかも平民出身のセオドールが男の決定に逆らえるはずもなく。

 結果、セオドールは戦死した。
 そして、彼とともに殉死したほとんどの兵士が、殿下とともに汗を流してきたかけがえのない仲間たちであった。

 キルバス制圧は成功に終わったが、セオドールの戦死とその真実を知った殿下は激昂した。
 互いの主張は平行線をたどり、遂には裁判にまで発展する。
 しかし副官だった男は、すべては経験不足の殿下が戦況を見誤っただけで、自分に非はないと主張し続けた。
 
 このことで、これまであらゆることに謙虚な姿勢を貫いてきた殿下の理性の糸がぷつりと切れた。
 そしてセオドールの身に起きた悲劇が、自身が舐められていることも大きな一因であったと気付いたのだ。

 
 
 
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