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式典会場②
しおりを挟むレジスによれば、ルカスとエリックは初の訓練場訪問から、三日にあげずお邪魔しているらしい。
どうりで最近、邸内が静かだったわけだ。
「弟たちがご迷惑をおかけして申し訳ありません。厳しくしているつもりなのですが、なにぶん全然めげないというか、反省しないものでして……もしかして、皆さまの訓練の邪魔になっているのではありませんか?」
レジスは首を横に振った。
「いいえ、むしろお二人のおかげで訓練場の空気も明るくなって。団員はとても感謝しております」
「あの、そんなに気を遣ってくださらなくても……ご迷惑でしたら遠慮なく断っていただいて構わないのですが」
『とんでもない!』と、レジスは再び首を横に振った。
「訓練場には殿下の計らいで団員の家族──子どもたちもよく出入りするのですが、ルカス殿とエリック殿は面倒見が良くて、お菓子を配って一緒に食べたりと、とても気さくに接してくださって……エルベ侯爵家のご子息といえば、我々一介の騎士には親しく接する機会なんてありえない方でいらっしゃるのに」
驚いた。ルカスはともかくあのエリックまでが、子どもたちの面倒を見ているなんて。
(修道院での経験が、そうさせたのかしら)
そしてレジスを含め、団員たちも、ルカスとエリックの差し入れを楽しみにしているのだとか。
帝国の騎士たちに提供されている食事はそれなりだとは思うが、我が家のシェフが腕によりをかけて作った食事には敵うまい。
(男の子はいくつになっても食いしん坊なのね)
だがどうやらそれだけではないようだ。
「どんなに武功をあげようと、我々を軽視する貴族は大勢います。ですが、ルカス殿とエリック殿は、平民出身の私たちにも敬意を持って接してくださる。お二人が成長なさるのが今から楽しみです」
「まあ……」
やんちゃがすぎて、手を焼くばかりの弟たちだと思っていたけれど、あの子たちはあの子たちなりにちゃんと成長しているのだ。
「……私は女ですので、男社会での生き方について、あの子たちに教えてあげる事ができません。ですが皆さまのような方々がご指導くださるなら安心です。どうぞこれからもあの子たちの事をよろしくお願いいたします」
きっと、彼らとの交流は、弟たちの世界を良い意味で広げてくれるだろう。
そしてそれぞれの立場に立ったものの見方も学べるに違いない。
心を込めて礼をすると、レジスは慌てていたが、照れくさそうに微笑んでくれた。
式典の開始を告げるトランペットが高らかに鳴り響く。
一同が立ち上がり、皇帝陛下とレティエ殿下を拍手とともに迎え入れる。
レティエ殿下は、壇上の中央に立つ陛下から少し後ろに下がった位置で足を止めた。
(なんだか懐かしい)
以前の私はいつもこんな風に、離れた場所から殿下を見つめていた。
婚約者だったのに、物理的な距離だけでなく心の距離も、いつも誰よりも遠くて……でも今は──
(どうして)
壇上からこちらを見つめる深紅の瞳と目が合う。
なぜ気にかけているように振る舞うの。
今は婚約者でもないのに、あの頃よりもずっと距離が近いのはなぜなのか。
陛下が始まりの言葉を告げ、式典が開始された。
横一列に並んだ叙勲者の中で、最後に呼ばれるのが私だ。
紛争の最大功労者から順に壇上に上がり、陛下から勲章が授与されていく。
本来であれば一番に名を呼ばれ、授与されるべきレティエ殿下は、毎度の事なので辞退していると前世で聞いた。
隣に座るレジスが名を呼ばれ、壇上へと上がる。
(いよいよだわ)
こういう場は慣れっことはいえ、やはり初めての事なので幾分緊張する。
たった今授与された勲章を胸に、戻ってきたレジスと目が合う。
彼の表情は『頑張れ』と言ってくれているように見えた。
するとその直後、予期しなかった事が起きる。
陛下が後方へと下がり、レティエ殿下が中央へと歩を進めたのだ。
既に叙勲を終えた者たちも、聞いていなかったのだろう、怪訝な顔で壇上の出来事を見守っている。
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