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16歳を迎えたわたしはスキル【ハナクソ飛ばし】を授かりました
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キイタナ王国、バッチーナ教会――。
今日ここで、とある儀式が行われていた。
この国では十六歳を迎えるとスキルを授かる儀式【スキル授かりの儀】に参加することができる。
スキルとは、剣技や魔法といった、魔獣との戦闘や日々の生活に役立つ超能力のようなものである。
この儀式への参加は強制ではない。わたしも別にスキルなんて欲しくはなかったのだが、両親の強いすすめでこの場にいる。
教会内にはわたしを含め六名の希望者がおり、その人たちの家族や友人が儀式の様子を見に来ている。
ちなみにわたしの両親は来ていない。友人も来ていない。スキルが【なし】だったら格好悪いから呼ばなかった。
そう――スキルは儀式を受ければ必ず授かれるというものではない。確率で言えば50パーセント。つまり儀式を受けたおよそ半数の人はスキルが【なし】となり、なにも得る事なくこの場を去ることになる。
すでに三名の儀式が終了しているが、いまだにスキルを授かれた人はいない。
「次……ホジリーナ・ノズ。前へ」
「はい」
わたしの名前が呼ばれる。席を立ち、講壇の前へと歩いて行く。
講壇の上には大きな水晶玉が置いてあり、その奥には白い祭服に身を包んだ白いヒゲモジャの司教様が立っている。
「ホジリーナ・ノズ。汝、どのような結果になろうとも、それを受け入れる覚悟はあるか?」
別にスキルなんてあってもなくてもよいのだが、とりあえず適当に返事をしておく。
「はーい」
「よろしい。それではこれより、スキル授かりの儀を執り行う」
司教様が水晶玉に両手をかざし、呪文を唱え始めると、水晶玉が青く輝きだす。
「ルキスナ・キテスウ・ヨシマケズ・サニタナア」
水晶の光がより一層強くなり――その光がわたしの全身を包み込む。
「ハァーーーーーッ!!」
気合と共に司教様が両手をこちらにかざすと、光がしみ込むようにわたしの体の中へ入っていく。
「……儀式は成功した。新たな力を授かりし者に祝福を」
どこからともなくパラパラと拍手の音が聞こえてくる。
「ホジリーナ・ノズ。汝の授かったスキルは――」
ちなみにスキルは授かった時点で名前とその使い方、特性が本能で理解できる。正直、この場で発表するのはやめてほしいのだが……。
「――【ハナクソ飛ばし】である!!」
発表されてしまった。それもすごい大声で。
「ハナクソ……飛ばし……?」
人々のざわつく声が教会内に反響する。やがてそれは嘲笑に変わり、教会は大きな笑いに包まれた。
「……あー、ホジリーナ・ノズよ。そのスキルを悪用することなく、正しい道を歩まれんことを――」
「……へい」
おさまらない笑い声を置き去りにして、わたしは教会を後にした。
♢ ♢ ♢ ♢
家に帰って報告をすると、母親は泣き崩れ、父親は酒をあおり、二つ下の弟は腹を抱えて笑っていた。家族ならなぐさめの言葉の一つでもかけなさいっての。
次の日の朝、フッケイツ学園の1年B組の教室に入ると、すでに噂が広まっているようで、数名のクラスメイトがみんなこちらを見ながらひそひそと何かを話していた。
「おい、リーナ! おまえ、スキルを授かったんだって!?」
でかい声でわめきながらこちらに近づいてくる茶髪の頭の悪そうな男はカール・ツッカ。
なぜかわたしの事をライバル視していて、ことあるごとにつっかかってくる面倒なやつ。ちなみにこいつはまだ十五歳なので儀式は受けられない。
「いやーうらやましいぜまったくよぉ。で、どんなスキルをゲットしたんだ?」
にくたらしい笑みを浮かべて聞いてくる。もちろん、全て知った上での質問なのだろう。
「【ハナクソ飛ばし】よ」
あえて堂々と答えてやる。
「え? なに……飛ばしだって?」
耳の後ろに手を広げて、大げさな動きでこちらに体を傾ける。聞こえているくせに。
「ハ、ナ、ク、ソ、飛、ば、し、よ」
「えぇ? なんだってぇ?」
教室内にクスクスと笑いが起こる。……面倒くさくなってきた。そんなに興味があるなら実際に見せてあげようかしら。
「あ、窓の外に先生が」
「あぁ?」
わたしが窓の方を指さすと、教室にいる全員が窓の外を見る。
その隙にわたしは右手の小指を鼻に入れ、飴色の小さな塊を取り出す。そして、そのまま親指の腹に置き、中指を曲げ、カールの頭に狙いを定める。
「……んだよ、先生なんていねーじゃねー……」
カールのやつがこちらを振り向いた瞬間、飴色の塊を中指で弾き、やつの眉間を撃ち抜いた。
音を立てることなくカールの首が勢いよく後ろに弾かれ、机の角に後頭部をぶつけ床に倒れると、そのまま動かなくなった。
ちなみに【ハナクソ飛ばし】は五段階に力加減が調節でき、今使ったのは三段階目の力、つまり普通レベルである。
教室の中が一瞬で静まり返る。
「次、こうなりたい人は、どんどん質問してね」
教室内でわたしの噂をする者はいなくなった。
♢ ♢ ♢ ♢
まだ授業が残っているのに、わたしは城下町の広場のベンチに座っていた。
中央に噴水のある、おしゃれな雰囲気の場所だ。
なぜここにいるのかというと、カールの一件が、思ったより大事になってしまったから。
処分は追って出すから、今日はもう家に帰れ、と言われてしまった。
「はぁ……」
ため息をつきながら、噴水の近くで遊ぶ男の子を眺める。
なんだか色々とついてないな。やっぱりスキル授かりの儀なんて受けるんじゃなかった。なによ、ハナクソ飛ばしって。バカじゃないの。神様だかなんだか知らないけど、これ考えたやつ、頭おかしいでしょ、絶対。
頭の中でぶつくさ文句を言っていると、突然どこかから叫び声が聞こえてきた。
「魔獣だーーー!! 魔獣がそっちに行ったぞーーー!!」
――魔獣。この世界に存在する危険な生き物。犬や猫とは違い、決して人に懐くことはなく、やつらにとって人はエサ以外のなにものでもない。人里に侵入することは滅多にないが、それでもたまにこうして迷い込んでくることがある。
「いやーーー!!」
「みんな逃げろーー!!」
「早く兵士を呼べ!!」
わーわーとわめきながら人々が逃げ惑う。やがて、広場にその魔獣が姿を現した。
はち切れそうな筋肉の全身が黒い四足歩行の魔獣、名前は確か……なんだっけ。授業で習ったんだけど……確かけっこうやばいやつだった気がする。見た目でじゅうぶんやばさが伝わってくるけど。
「あ、ああ、あ……」
まずい。魔獣が噴水の前の男の子に狙いを定めた。尻もちをついて動けなくなっている子供に、魔獣が口から涎を垂らしながらじりじりと近づいていく。
「だ、誰かなんとかしてぇ!」
「な、なんとかって……おい、兵士はまだか!?」
周囲には数十名の大人たちがいるが、この状況をなんとかできそうな人はいないみたいだ。
「……しょうがないわね」
わたしはベンチから立ち上がると、魔獣に近づいて行った。
「お、おい、君! 危ないぞ!」
「何をするつもりだい!?」
人々の注目がわたしに集まる。できればこんな大勢の前でこのスキルを使いたくなかったけど、わたしの羞恥心と男の子の命では天秤にかけるまでもない。
「……え?」
隣にいた買い物中の主婦っぽい人がわたしの顔を見て驚いている。
それはそうだろう。この状況で堂々と小指を鼻に入れ、飴色の塊をほじほじと掘り出しているのだから。
他にもいくつか突き刺さってくる視線を無視し、右手の親指に弾を乗せ、中指を曲げ親指の第一関節に引っ掛ける。そして左手で右手の手首をつかみ、魔獣に照準を定める。出力はレベル五。レベル三であの威力なら、きっと脅しくらいにはなるだろう。弾に願いを込め、力強く指を弾いた。
♢ ♢ ♢ ♢
――ピシッと、親指の皮と中指の爪がこすれる音がした。それ以外は何も聞こえない。魔獣は動かない。男の子も動かない。周囲を取り囲むギャラリーも動かない。
もしかして、外した? そう思った時だった。魔獣の体がぐらつき、ずしんと横に倒れた。
「え? ……な、なにが起こったんだ?」
ギャラリーがざわつきはじめる。その内の一人、チャラそうな若い男が恐る恐る魔獣に近づき、つま先でつんつんと魔獣をつつく。
「……死んでる? ……おいみんな! こいつ死んでるぞ!」
男が叫んだ途端、遠巻きに見ていたギャラリーが魔獣を取り囲み、ガヤガヤと大声で騒ぎだす。
あれって……わたしがやったのかな? なんの手ごたえもなかったから、いまいち実感がないんだけど。
「おい、この魔獣、左右のこめかみから血が出てるぞ!」
どうやらわたしがやったみたい。わたしの撃ったハナ……飴色の塊は、魔獣の頭を見事撃ち抜いていたようだ。
「……ふぅ」
先ほどまで座っていたベンチに座り直し、一息つく。
騒ぐギャラリーをぼーっと眺めていると、群がるギャラリーの足元をかき分け、襲われていた男の子が出てきた。そのままこちらに向かって走ってくる。
「あ、あの。もしかしてあのまじゅうをやっつけてくれたのって……おねえちゃん?」
驚いた。この子にはわたしが何をしたのか、なんとなくわかってるみたいだ。
「そうかもね」
そうです、わたしがやりました。と堂々と名乗るのも少し恥ずかしい気がしたので、なんとなく濁した返事を返しておく。
「すごいや! ありがとう! ぼく、もうたべられちゃうんだって、すごいこわくて……」
さっきのことを思い出したのか、男の子の表情が曇る。
ま、とにかくこの子が無事でよかった。最低のスキルだと思ってたけど、案外悪い能力でもないのかもね。汚いし恥ずかしいけど。
「ねえねえ、どうやってやっつけたの!?」
両手で拳をにぎり、目を輝かせながら説明を求めてくる。ころころと変わる表情が見ていて面白い。
「ハナクソを飛ばしたのよ」
指でピン、とはじく動作を交えて簡潔に説明する。
「えっ……? はなくそ?」
男の子が後ずさる。
「き……きったねー!! おねえちゃんのえんがちょー!!」
そう叫びながら、どこかへと走り去っていった。
「……」
やっぱり最低だわ、このスキル。
・おしまい・
今日ここで、とある儀式が行われていた。
この国では十六歳を迎えるとスキルを授かる儀式【スキル授かりの儀】に参加することができる。
スキルとは、剣技や魔法といった、魔獣との戦闘や日々の生活に役立つ超能力のようなものである。
この儀式への参加は強制ではない。わたしも別にスキルなんて欲しくはなかったのだが、両親の強いすすめでこの場にいる。
教会内にはわたしを含め六名の希望者がおり、その人たちの家族や友人が儀式の様子を見に来ている。
ちなみにわたしの両親は来ていない。友人も来ていない。スキルが【なし】だったら格好悪いから呼ばなかった。
そう――スキルは儀式を受ければ必ず授かれるというものではない。確率で言えば50パーセント。つまり儀式を受けたおよそ半数の人はスキルが【なし】となり、なにも得る事なくこの場を去ることになる。
すでに三名の儀式が終了しているが、いまだにスキルを授かれた人はいない。
「次……ホジリーナ・ノズ。前へ」
「はい」
わたしの名前が呼ばれる。席を立ち、講壇の前へと歩いて行く。
講壇の上には大きな水晶玉が置いてあり、その奥には白い祭服に身を包んだ白いヒゲモジャの司教様が立っている。
「ホジリーナ・ノズ。汝、どのような結果になろうとも、それを受け入れる覚悟はあるか?」
別にスキルなんてあってもなくてもよいのだが、とりあえず適当に返事をしておく。
「はーい」
「よろしい。それではこれより、スキル授かりの儀を執り行う」
司教様が水晶玉に両手をかざし、呪文を唱え始めると、水晶玉が青く輝きだす。
「ルキスナ・キテスウ・ヨシマケズ・サニタナア」
水晶の光がより一層強くなり――その光がわたしの全身を包み込む。
「ハァーーーーーッ!!」
気合と共に司教様が両手をこちらにかざすと、光がしみ込むようにわたしの体の中へ入っていく。
「……儀式は成功した。新たな力を授かりし者に祝福を」
どこからともなくパラパラと拍手の音が聞こえてくる。
「ホジリーナ・ノズ。汝の授かったスキルは――」
ちなみにスキルは授かった時点で名前とその使い方、特性が本能で理解できる。正直、この場で発表するのはやめてほしいのだが……。
「――【ハナクソ飛ばし】である!!」
発表されてしまった。それもすごい大声で。
「ハナクソ……飛ばし……?」
人々のざわつく声が教会内に反響する。やがてそれは嘲笑に変わり、教会は大きな笑いに包まれた。
「……あー、ホジリーナ・ノズよ。そのスキルを悪用することなく、正しい道を歩まれんことを――」
「……へい」
おさまらない笑い声を置き去りにして、わたしは教会を後にした。
♢ ♢ ♢ ♢
家に帰って報告をすると、母親は泣き崩れ、父親は酒をあおり、二つ下の弟は腹を抱えて笑っていた。家族ならなぐさめの言葉の一つでもかけなさいっての。
次の日の朝、フッケイツ学園の1年B組の教室に入ると、すでに噂が広まっているようで、数名のクラスメイトがみんなこちらを見ながらひそひそと何かを話していた。
「おい、リーナ! おまえ、スキルを授かったんだって!?」
でかい声でわめきながらこちらに近づいてくる茶髪の頭の悪そうな男はカール・ツッカ。
なぜかわたしの事をライバル視していて、ことあるごとにつっかかってくる面倒なやつ。ちなみにこいつはまだ十五歳なので儀式は受けられない。
「いやーうらやましいぜまったくよぉ。で、どんなスキルをゲットしたんだ?」
にくたらしい笑みを浮かべて聞いてくる。もちろん、全て知った上での質問なのだろう。
「【ハナクソ飛ばし】よ」
あえて堂々と答えてやる。
「え? なに……飛ばしだって?」
耳の後ろに手を広げて、大げさな動きでこちらに体を傾ける。聞こえているくせに。
「ハ、ナ、ク、ソ、飛、ば、し、よ」
「えぇ? なんだってぇ?」
教室内にクスクスと笑いが起こる。……面倒くさくなってきた。そんなに興味があるなら実際に見せてあげようかしら。
「あ、窓の外に先生が」
「あぁ?」
わたしが窓の方を指さすと、教室にいる全員が窓の外を見る。
その隙にわたしは右手の小指を鼻に入れ、飴色の小さな塊を取り出す。そして、そのまま親指の腹に置き、中指を曲げ、カールの頭に狙いを定める。
「……んだよ、先生なんていねーじゃねー……」
カールのやつがこちらを振り向いた瞬間、飴色の塊を中指で弾き、やつの眉間を撃ち抜いた。
音を立てることなくカールの首が勢いよく後ろに弾かれ、机の角に後頭部をぶつけ床に倒れると、そのまま動かなくなった。
ちなみに【ハナクソ飛ばし】は五段階に力加減が調節でき、今使ったのは三段階目の力、つまり普通レベルである。
教室の中が一瞬で静まり返る。
「次、こうなりたい人は、どんどん質問してね」
教室内でわたしの噂をする者はいなくなった。
♢ ♢ ♢ ♢
まだ授業が残っているのに、わたしは城下町の広場のベンチに座っていた。
中央に噴水のある、おしゃれな雰囲気の場所だ。
なぜここにいるのかというと、カールの一件が、思ったより大事になってしまったから。
処分は追って出すから、今日はもう家に帰れ、と言われてしまった。
「はぁ……」
ため息をつきながら、噴水の近くで遊ぶ男の子を眺める。
なんだか色々とついてないな。やっぱりスキル授かりの儀なんて受けるんじゃなかった。なによ、ハナクソ飛ばしって。バカじゃないの。神様だかなんだか知らないけど、これ考えたやつ、頭おかしいでしょ、絶対。
頭の中でぶつくさ文句を言っていると、突然どこかから叫び声が聞こえてきた。
「魔獣だーーー!! 魔獣がそっちに行ったぞーーー!!」
――魔獣。この世界に存在する危険な生き物。犬や猫とは違い、決して人に懐くことはなく、やつらにとって人はエサ以外のなにものでもない。人里に侵入することは滅多にないが、それでもたまにこうして迷い込んでくることがある。
「いやーーー!!」
「みんな逃げろーー!!」
「早く兵士を呼べ!!」
わーわーとわめきながら人々が逃げ惑う。やがて、広場にその魔獣が姿を現した。
はち切れそうな筋肉の全身が黒い四足歩行の魔獣、名前は確か……なんだっけ。授業で習ったんだけど……確かけっこうやばいやつだった気がする。見た目でじゅうぶんやばさが伝わってくるけど。
「あ、ああ、あ……」
まずい。魔獣が噴水の前の男の子に狙いを定めた。尻もちをついて動けなくなっている子供に、魔獣が口から涎を垂らしながらじりじりと近づいていく。
「だ、誰かなんとかしてぇ!」
「な、なんとかって……おい、兵士はまだか!?」
周囲には数十名の大人たちがいるが、この状況をなんとかできそうな人はいないみたいだ。
「……しょうがないわね」
わたしはベンチから立ち上がると、魔獣に近づいて行った。
「お、おい、君! 危ないぞ!」
「何をするつもりだい!?」
人々の注目がわたしに集まる。できればこんな大勢の前でこのスキルを使いたくなかったけど、わたしの羞恥心と男の子の命では天秤にかけるまでもない。
「……え?」
隣にいた買い物中の主婦っぽい人がわたしの顔を見て驚いている。
それはそうだろう。この状況で堂々と小指を鼻に入れ、飴色の塊をほじほじと掘り出しているのだから。
他にもいくつか突き刺さってくる視線を無視し、右手の親指に弾を乗せ、中指を曲げ親指の第一関節に引っ掛ける。そして左手で右手の手首をつかみ、魔獣に照準を定める。出力はレベル五。レベル三であの威力なら、きっと脅しくらいにはなるだろう。弾に願いを込め、力強く指を弾いた。
♢ ♢ ♢ ♢
――ピシッと、親指の皮と中指の爪がこすれる音がした。それ以外は何も聞こえない。魔獣は動かない。男の子も動かない。周囲を取り囲むギャラリーも動かない。
もしかして、外した? そう思った時だった。魔獣の体がぐらつき、ずしんと横に倒れた。
「え? ……な、なにが起こったんだ?」
ギャラリーがざわつきはじめる。その内の一人、チャラそうな若い男が恐る恐る魔獣に近づき、つま先でつんつんと魔獣をつつく。
「……死んでる? ……おいみんな! こいつ死んでるぞ!」
男が叫んだ途端、遠巻きに見ていたギャラリーが魔獣を取り囲み、ガヤガヤと大声で騒ぎだす。
あれって……わたしがやったのかな? なんの手ごたえもなかったから、いまいち実感がないんだけど。
「おい、この魔獣、左右のこめかみから血が出てるぞ!」
どうやらわたしがやったみたい。わたしの撃ったハナ……飴色の塊は、魔獣の頭を見事撃ち抜いていたようだ。
「……ふぅ」
先ほどまで座っていたベンチに座り直し、一息つく。
騒ぐギャラリーをぼーっと眺めていると、群がるギャラリーの足元をかき分け、襲われていた男の子が出てきた。そのままこちらに向かって走ってくる。
「あ、あの。もしかしてあのまじゅうをやっつけてくれたのって……おねえちゃん?」
驚いた。この子にはわたしが何をしたのか、なんとなくわかってるみたいだ。
「そうかもね」
そうです、わたしがやりました。と堂々と名乗るのも少し恥ずかしい気がしたので、なんとなく濁した返事を返しておく。
「すごいや! ありがとう! ぼく、もうたべられちゃうんだって、すごいこわくて……」
さっきのことを思い出したのか、男の子の表情が曇る。
ま、とにかくこの子が無事でよかった。最低のスキルだと思ってたけど、案外悪い能力でもないのかもね。汚いし恥ずかしいけど。
「ねえねえ、どうやってやっつけたの!?」
両手で拳をにぎり、目を輝かせながら説明を求めてくる。ころころと変わる表情が見ていて面白い。
「ハナクソを飛ばしたのよ」
指でピン、とはじく動作を交えて簡潔に説明する。
「えっ……? はなくそ?」
男の子が後ずさる。
「き……きったねー!! おねえちゃんのえんがちょー!!」
そう叫びながら、どこかへと走り去っていった。
「……」
やっぱり最低だわ、このスキル。
・おしまい・
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