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27.それはまるで…3
しおりを挟むメーベルト家の人間が帰り一段落がつくと、エルウィンとマルグリートは再びルイーゼが休む部屋へと移動した。
室内へ入ると、すぐにエルウィンは室内の様子が変わっていることに気づいた。
彼の目には、ルイーゼの周りにまとわりつく黒い影が見えていたのだが、それが大分薄くなっているのだ。
何事かと周囲を観察すると、眠るルイーゼの枕元に、直径五センチ程度の水晶でできた花のような物が置かれているのだが、そのオブジェクトを中心に、影が薄くなっていることに気づいた。
それが何の花なのか、花については少々造詣の深いエルウィンにも分からなかった。
「これは、貴女が?」
「はい。これは『あの世』に咲いている花を象ったものらしいです。これを持っていると、『亡者』の影響を受けにくくそうですよ」
マルグリートは眠るルイーゼの枕元に置かれている水晶の花を見て、穏やかに微笑んだ。一点の曇りもない朗らかな笑顔でないことに気づいたが、病人の見舞いだからそれも当然だろうとエルウィンは考え、特に不思議に思うこともなかった。
それより、そのような知識や品物を持っていることが不思議だった。
「『番い』というのは、恋人関係を示す言葉ではないと私は思います」
エルウィンの疑念に気づいているのか、マルグリートは眠るルイーゼへ視線を落としながら、静かにエルウィンに語りかける。ルイーゼの眠りを妨げぬよう、内容いかんに関わらず心を落ち着けるような眠りを誘うような、不思議なイントネーションで。
「人間の遺伝子に組み込まれている、絶対者への服従こそが『番いシステム』の真実でしょう」
龍神に支えられているこの世界において、龍神は絶対的な存在だ。生きとし生けるもの全ての種族維持本能として、龍神の力を欲するようにできている。動物だって植物だって同じだと、そうマルグリートは続けた。
「龍神に愛される条件は、今はまだ分かっていません。ですが、ソフィア様は龍神に愛されているのでしょう。そんな彼女が貴方に恋をした。だから、貴方と彼女が『番い』と認識される事態に陥ってしまった」
「しかし俺は! ……彼女を愛してなどいません。本当に『番い』なのですか?」
静かな物言いをするマルグリートに反し、エルウィンは一瞬、声を荒げてしまいそうになり、慌てて小声に直した。
ルイーゼをうっかり起こしてしまっていないかと心配になったが、問題はなさそうだ。
「ええ、分かっています。番いの効力に人の心を操る作用はありません。媚薬程度のものでしょう。興奮を煽り、肉体的な拒否感をなくす。子供を作らせるためでしょうか。龍神が人間に望むものは分かりかねますが」
「そんなことをしたところで……」
愛し合う者でもない限り、子供なんて、とエルウィンは言おうとしたが、マルグリートはそれを遮った。
「多くは、溺れてしまうのです。それが、運命だと、思ってしまうのです。違和感なく隣にいて、まるで自分の半身のように心地よい。そんな存在を、人は愛だと思ってしまうのです」
「普通はそれに目をくらまされてしまうのですけれどね。とても……愛されているのですね、ルイーゼ様のことを」
マルグリートがふいに、眩しそうな目をエルウィンに向けてきた。どこか遠い目をしているマルグリートに、自分を見ているわけではないと悟るが、彼女の真意は依然として不明だ。
――彼女はなぜ、そんなことを知っているんだ? 今の発言は、明らかに教会の教義とは異なる。ただの修道女でしかないはずの彼女が、なぜ? それに、この花飾りも考えてみれば妙だ。彼女は、一体?
「龍神の力は人間には強すぎるものです。それを防ぐ手立てはありません。だから、『番い』という物語を作り出し、人々の抵抗を無くそうとしてきました。ルイーゼ様と添い遂げたいのであれば――」
そう言いながら、マルグリートは懐から一つの短剣を取り出し、エルウィンへ見せながら言った。
「ソフィア・メーベルトを――――――殺しなさい」
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