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学園編
21.伏兵は自分
しおりを挟む「こ、この度は……ほ、本当に申し訳ございませ…………」
全身をあり得ないほどに震えさせ、貧血大丈夫かと心配になるほど顔を青くしたグニラ・オレーンが、目の前に立っている。
ひとまず、自室へ戻る前にグニラ・オレーンの部屋へ強制的に乱入し、手早くミーシャ・デュ・シテリンへと戻る。当初、私を部屋から追い出そうとギャーギャーしていた彼女の顔が、見る見るうちに青くなってしまったが……。
まあ、うん、仕方がない。
「これ、ここだけの話にしてよ? パトリックが知ってることも内密に!」
「は、はいっ! お許し下さいお許し下さいお許し下さいお許し下さい――」
彼女は土下座せんばかりの勢いで念仏のように、謝罪の言葉を口にする。
知らなかったとは言え、公爵令嬢の髪を切っていたのだから……彼女の胸中は推して知るべし。
しかし、一言言わせてもらえれば……相手が誰でも普通に良くないことだよ?
そんなことばかりしていると、私のように――――――処刑されてしまうよ。
「あの、なぜ、そのような真似をなさっているのですか? それに……殿下から逃げているのはなぜですか?」
純粋に不思議そうな顔で、グニラ・オレーンは問いかけてくる。
説明のしようがない。処刑になるほどの大罪人だから、クリストフ殿下には運命の恋人がいることを知っているから――そんなこと、だれが理解できる?
パトリック以外、この世界でだれがそれを理解できるというのだ。
◇◆◇ ◇◆◇
成績優秀者としてこの学園を卒業する気はない。
でも必要最低限は、ミーシャ・デュ・シテリンとして授業に出席している。
家族が暴走しては困るからだ。私が王立学園へ入学してすぐ、兄二人が町屋敷に常駐するようになったと手紙が来た。「なにかあったら連絡しろ」と言い、その実こちらを監視するためにいるのだということも分かっていた。
私は今現在、諸々の事象を穏便に解決しようと努力中なのだ!
『ミーシャ無能化計画』により、家人も私とクリストフ殿下との婚約については、後ろ向きに考えてくれるようになった。問題は王家側だ。
これから先、クリストフ殿下がマリー・トーマンと恋仲になり、私との婚約が邪魔になった時、どうするつもりなんだろう? 私を冤罪で処刑したとしても、それはそれで構わない。元より罪人。今更『冤罪だ!』と叫ぶつもりはない。
問題は、王家がその矛を――――――マリー・トーマンに向けた場合だ。
それはダメ。それだけはダメ。
……やはり、二人を結びつけるためには悪役令嬢が必要なのか。
懸念事項が解決しないまま、入学式から二ヶ月が経過していた。
マリー・トーマンとクリストフ殿下との仲に、目立った進展はない。
前回私が彼女の事を耳に入れるようになったのは、後期の授業が始まってすぐの頃だ。彼女は成績優秀で……そうだ、確か前期の修了試験の結果がトップ十に入ったんだ! 私はトップ三にランクインしていた。ちなみに、裏工作はしていない。
「君はこの間の……」
――なんで、この人はまたこんなところにいる?!
目の前には、クリストフ殿下がいた……!
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