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学園編
42.新緑舞踏会2
しおりを挟むパトリックのエスコートで会場内に入ると、既に歓談中の紳士淑女がこちらを振り返る。前回は「わたくしを見なさい!」と威圧感を振りまいていたけど、今回はそんなことしてはいない。
…………なぜこっちを見る?!
「お前が普段、人前に姿を見せないから希少種みたいな扱いになってンのかもな」
パトリックが小声で失礼なことを言う。
周囲の生徒たちには、彼が紳士的な物言いで私のことを心配しているように見えるんだろうな。
平和な内に、フロア内の勢力図を把握しておくとしよう。
遅れて到着したデリア軍団はフロア中央――前回、わたくしが陣取っていた場所に陣取り周囲を威圧している。
王妃様を含む王族関係者も前回同様、フロア全体を見渡すことが可能な奥の席に座して歓談中だ。生徒たちは入り口から王妃様に向かい一礼をして、フロア内へ足を踏み入れている。
私もしたのだけれど……私の隣にパトリックの姿を認めて、驚いた顔をされた。それでも、すぐに穏やかな微笑みをその顔に浮かべていたけど。
前回の王妃様は、私とクリストフ殿下との婚約は反対の姿勢を示していた。今みたいに挨拶をしても、微笑むどころか目すら合わせてもらえなかった。
「王妃様はご満悦だな」
「私が貴方と来ているからかもしれませんけど」
――しかし、油断はできない!
幼少の頃、クリストフ殿下を避けていた頃に距離をつめさせるようなことをしてきたのは王妃様だ。調子に乗ってうっかり距離を縮めたら駄目そうな気がする。
さて、前回のマリー・トーマンは何度邪魔しても、勝手にシンデレラの階段を上りつめていた。今回はどうなるかな…………って、今、恐ろしい偶然に気付いてしまった!
さすがマンガの世界というべきか、この場に、ピンクのドレスを着た人間が一人もいない……!!!
「は? 薄紅のドレスがいない? ……ああ、そういやぁそうだな」
思わず口に出していたらしい。パトリックがすかさず相づちを入れてくる。
「……これって、普通?」
「…………」
パトリックは答えない。いや、普通じゃない。
このような場では、黄色、黄緑、水色、ピンクが主流だ。私やパトリックと同じ紺のスーツやドレスを身にまとった生徒だっている。
前回はどうだった? 漫画ではどうだった??
「そんなに気にするようなことか?」
「うーん……前回どうだった?」
「俺が女のドレスなんか一々覚えてるかよ」
「ですよね……」
気にするようなことではないのかもしれない。
ただ、この状況でたった一人、薄紅の美しいドレスを着て現れるマリー・トーマンは、とてもとても目立つだろうな、と。
不自然なまでの偶然がもたらすお膳立て――強制力、なのかな……。
まあ、目立ってもらわなければ困るんだけどね!
労働者階級でありながら、まるで上流階級の洗練された小娘のように……見せかけだけでも! 今回ダンスを練習する機会はなかったから、ダンスになる前に王妃様に彼女の顔を覚えていただこう。
そして――王族の覚えめでたい彼女を貶めることがどれ程愚かな事かを、ここにいる子息令嬢に見せつけるのだ!
「デリア様、そろそろクリストフ殿下がいらっしゃいます。王宮の馬車が……」
人の騒めきが途絶えたその一瞬、聞き覚えのある声と台詞が耳に飛び込んできた。殿下は王宮から馬車に乗って現れるらしい。前回同様。
「デリア様、平民が何やら殿下に付き纏っているようですわ」
「まあ! そんな御身を穢すようなことを……!」
その声を合図に殿下のお側にはべろうと、いそいそと歩みを進めるデリア軍団を……捨て置くわけにはいかない。彼女が第二のミーシャ・デュ・シテリンであるなら尚更。
「お待ちなさい、デリア」
「ミーシャ様?!」
「わたくし、殿下と顔を合わせるのは都合が悪いの。お前たちも、分かるわね?」
――だから、そこから動くな。
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