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学園編
54.魔法使いのおばあさん・再び
しおりを挟む考えてみたら、わたくしにとってはあの感謝祭が最後の感謝祭だったんだ。
次の春にはクリストフ殿下の卒業の儀に伴い……捕縛され、翌年には処刑されたから。私は現在、満十六歳。来年の夏には十七歳になる。
◇◆◇ ◇◆◇
「前にもらったドレスじゃダメなの?!」
マリー・トーマンが絶望的な顔でこちらを見ている。ああ、やっぱり前回と同じ事をしようとしてるな。
夕飯後、最近の日課と化している補習を、マリー・トーマン及びルームメイトたちに彼女たちの寮室で行っていた。なので、ついでに今度の感謝祭について参加の意思を確認しておきたかった。
マリー・トーマンには出てもらいたいところだ。
前回、わたくしは下僕たちにマリー・トーマン含む平民たちのドレスを損なうよう、暗に命じた。反発するような生意気な貧民は、プロの者たちに対処させた。
今回はそんなことは当然しない。心配なのはデリア・リナウドだけれど、彼女にプロを用意する伝手はない。強欲なリナウド侯爵夫人の関与も考えたけど、あの直情的で頭の悪い……失敬、そっち方面の知識を持たない夫人もシロだろう。
「ダメに決まってるでしょ! いい? 貴族の連中って言うのは、ドレスを着回したりしないもんなの。一度着たら捨てる! しかもあのドレスはクリストフ殿下からもらったものでしょ?!」
「そうだよ! クリストフ殿下から頂いた物を捨てるなんて、恐れ多いし……」
マリー・トーマンは躊躇っているようだ。
確かに、あんな豪華なドレスを一度着ただけで捨てるって……通常の感覚を持っていたら抵抗もあるか。王族もそれは織り込み済みで送っているから大丈夫だと説明しても、納得していないようだ。
前回は、やはりこの時も殿下がマリー・トーマンのドレスを用意してた。
恐らく今と同じように、前回と同じドレスで参加しようとしているのを知ったからだろうか。じゃあ、新緑舞踏会の時と同じように、殿下を名乗ってドレスを送るか。参加する意欲はあるんだし。
新緑舞踏会への参加を、かなり渋っていたマリー・トーマンが、今回はこちらが説得する前に、既に参加を表明していたのだ。
――彼女に何があったのか?
今回説得をしたのは、ボディーガードの一人らしい。彼女は本当にコミュニケーション能力が高いと言うか何と言うか。さすがはヒロイン?
ボディーガードの連中も、殿下のご友人というくらいだから、やはり上流階級の人間であることに変わりはない。普通に考えれば、殿下の命令であろうとも、未熟な子供である彼らが、本気で平民である彼女を守るなんて考えられない。
信頼関係を築くにも、それなりの時間がかかる――と。けれど、現段階で結構な信頼関係を築くことができている。
ボディーガード連中の屈託のない笑顔、というやつを見かけたことも一度や二度ではない。光の速さで絆されたような気がしないでもない。
「……じゃあ、ダンスの練習しよっか?」
マリー・トーマンには、今度の感謝祭という名の舞踏会で、今度こそ、殿下と踊ってもらわなくては。王侯貴族にその存在をアピールするのだ!
「え?」
私の提案に明らかに狼狽した様子を見せているマリー・トーマン。けれどすぐに気を取り直して、前向きに捉え始めたようだ。
さすがヒロイン。
ダンスの練習は、教練棟の一室をパトリックに借りてもらい、そこで行うことにした。
前回に習うのであれば、殿下にマリー・トーマンを丸投げすべきなんだろうけど、現状、それはちょっと微妙だ。
パトリックやボディーガードの皆様が、それとなく殿下をつついてみたらしいのだが、思うような反応は見られなかったと言う。
――もしかしなくとも前回は、己の婚約者の蛮行をフォローするためにマリー・トーマンの傍にいた、という可能性が出てきた。国家反逆罪まで仕出かそうとした婚約者から、特別枠で入学させたあの子を守ろうとするのは、当然と言えば当然か。
「クリストフ殿下は乗り気じゃないってわけではないんですよね?」
ボディーガード相手に基礎練習を行っているマリー・トーマンを遠目に見ながら、パトリックに聞いてみた。彼女に聞こえないよう小声で。
「今回、クリスにはマリーを守る義務はないからな」
――やっぱりあれはわたくしのせいだったか。
「え、でも、今も結構構っていませんか?」
「それは……」
パトリックは何か思うところがあるようだが、明言を避けている? 自信がないのだろうか?
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