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学園編
68.生誕祭5
しおりを挟む結構な声量の怒号が広間から聞こえてくる。
何事かと、何も考えずに現場へ行こうとして、当然ながら殿下に止められた。
「待て! 危ないだろう!」
ですよね。でも、非常時なら殿下はいつまでもここにいるのはよろしくないのでは?
テラスに出ている今の私に確認できるのは、広間の中央でクルクルと踊っていた紳士淑女の姿はなくなり、誰も彼もが壁の花になっているような大広間の中を、沢山の衛兵が緊張の面持ちで走り回っているといった表面的なものだけ。
ちょっと殿下と話し込んでいる間に、なんだこの状況。完全な異常事態じゃないか。衛兵に怒号を飛ばしている紳士の皆様は、電車遅延でわめき立てるサラリーマンを彷彿とさせるけど。老害ってどこにでもいるんだなぁ。
「あの、みんなの様子が心配なのですが――」
そう心配性を発症した殿下に開放を訴えていると、今度は発砲音が聞こえてきた! それと同時に、いきなり暗さに気がついた。
――まったくもう、本当に、今度は何だ!!!
フロアには大量の照明があったため気づかなかったが、日が暮れかけている。明かりがなくとも外はあるけるが、本は読めない程度の明るさだろう、これ。
到着が三時で、色々あったから確かにそのくらいの時間にもなるか。
っていうか、明かり! フロアの明かりが消えてる??
どうなってるのよ! スイッチ一つで全部消えるLED仕様じゃないでしょう、ここは!! なんでいきなり全部消えるかな?!
「クリストフ殿下! ご無事ですか?!」
聞き覚えのない低い緊張を孕んだ声が聞こえる。衛兵かな? ちょっと安心。
「何があった」
威厳のある声。そうか。部下に対しては、こんな感じなんだ。
「ご無事で良かった。陛下は――――あ」
おっと、気づかれましたか。驚きますよね? 殿下のそばに平民がいたら。
陛下に何かあったようですし、平民の耳には入れられない事態かもしれませんからね。私はこれで失礼しま――――。
「問題ない。続けろ」
殿下は色々分かっているから気にされていないんですけど、衛兵はかなり戸惑っているようですよ? ああ、切り替えたような顔してますけど。
「陛下は国宝を安置していた場所へ向かう途中、何者かに襲撃を受けました」
まさか、さっきの銃声がそういうことか? 私はその道のプロではないから、銃声だけじゃあ、どんな銃が使用されて、どの程度の傷を負わされたのかは分からない。
「様態は?」
「命に別状はありません。ですが、秘宝が行方不明となっておりまして――」
うーん、仮にミーシャだと知っていたとしても、たかが婚約者が聞いていい話ではないような気がする。ああ、でも衛兵が知っている事態なんだし、考えすぎか?
まあ、じきにすぐ箝口令が敷かれるだろうけど。
「私のことは構いませんから、殿下は陛下の下へお急ぎください」
「このような事態に君を一人にできるか!」
あの、殿下? 平民姿の私にそのようなこと言うのはやめて頂きたい。ほら、衛兵のみなさんが「いけないものを見ちゃった!」的な顔をしているでしょう!
殿下のせいですよ! 臣下に不必要なストレス与えるのよくない!
「私は適当に学園のみんなと学園へ戻ります! 殿下がこんなところで私とブラブラしているのが一番ダメなんですよ!」
「あ、ああ。分かっ――」
やっと殿下に納得していただけた! と思っていたのに。
「いや、ミーシャ・デュ・シテリン嬢なら見ましたが……あの、それがどうかしましたか?」
――――ちょっと待ってくれるかな?
どうして、今、自分の名前をこの耳が拾う羽目になっている?
喧噪の最中、ほんの一瞬奇跡的に静かになった、このタイミングで人の名前をこれ見よがしに口にしたのは、どこの誰だ!!!
「まさか……」
「シテリン家の娘が……」
「ミーシャとか言ったかしら?」
「確か、成績不良で……」
「婚約者になろうとご両親は……」
ほらほら、こういうことになるから! なんか、私の名前がおかしな方向に一人歩きを始めているから! いや、全く心当たりがないわけではないというか、この世界が秘宝の力が時間が巻き戻っている世界なのだとし――ても、私ではない!
前回からここまで、私は国宝なんて一度も目にしたことないんだから!
――まあ、マリー・トーマンにおかしな嫌疑がかかるような事態には、なっていないだけマシか。
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