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第二部
32.聖女の事後処理2
しおりを挟む大聖堂へは、ジャン様だけでなくリシュタンジェル公も共に赴くことになりました。皆様同行するととても強く主張されていたのですが、リシュタンジェル公が一括してこうなりました。
リシュタンジェル公は私の養父ですから、知っていてもらった方がよいでしょう。彼の人となりに問題がないことは、昨日の陛下とのやり取りで分かりましたし。
今後も、何かあってご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんから。
――なければそれに超したことはないのですが……。
大聖堂の敷地内へ馬車を向けると、車止めに教皇と枢機卿が姿を現しました。
向こうからわざわざご足労頂いたという事実に、リシュタンジェル公が若干引いています。昨日、陛下にかなりの啖呵を切っていたので大丈夫かと思ったのですが……頭に血が上っていたのでしょうか?
――それほどまでに、お心を砕いて下さっていたのですね。
「昨日の件は、枢機卿より聞き及んでおります。この度は、本当に……」
教皇がリシュタンジェル公の前……というか車寄せという公衆の面前で、頭を下げようとするので、速攻で中断させて部屋へ案内するように頼みました。
法王と枢機卿が怯えるので、パックにはしばらく外で遊んでいるように伝えたのですが……不貞腐れてしまいました。
大人になったのは見た目だけだったようです……。
「こちらが、その書物になります……」
本当に準備のよろしいことで。
教皇は昨日の内に、枢機卿から適切な報告を受けていたようで部屋へ到着するなり、すぐにこの書物を私の前に差し出してきました。
「これ以外は、ありませんね?」
「はい!」
「……ミント、本当?」
ミントへ目配せすると、枢機卿と教皇の顔色が変わりました。
これは純粋な怯えでしょう。神をまつる教会のトップがこうも学習能力がないとなると、残念を通り越して絶望します。嘘はついていないと思うのですが……。
『そうね。その子たちが感知できていないだけの呪具が眠っているけど、それについてはどうしますか? モニカ様』
「ええっ?!」
「そ、そんなばかな……!」
ミントの言葉に私よりも素早い反応を見せたのは、枢機卿と教皇でした。
ジャン様はいつものことなので、黙って事の成り行きを見守っていますが、リシュタンジェル公は驚愕しているようです。
「あの、『ミント』というのは?」
「古い精霊のようです。私には何がなにやら」
リシュタンジェル公とジャン様が小声で話をしているのが聞こえます。
「『ミント』……まさか、『知の泉の精霊』?!」
ウェルス様もご存じだったのですよね……公爵位を継がれる方は、陛下が受けているような高度な『神学』を受けることができるのでしょうか?
それ、今度、私にも教えて頂きたいですね……と思っていたら、丁度同じ事をジャン様がリシュタンジェル公にお願いしていました。
では、私はジャン様から教わることにしましょう。
さて、ミントが言っていた呪具ですが――、
「ミント、その諸々って放置してても大丈夫そう?」
『今後もこの子たちみたいなポンコツがここを管理するなら問題はないわね』
ぽ、ポンコツ……。
教会の二トップがダメージを受けています。
「ミント、思いやり?」
ちょっと注意を入れてみました。
『いいんですか? 甘やかすとつけあがりますよ、この手の輩は』
これだけの一大組織のトップにいるのですから、それなりに……能力は……あるはず。…………多分。
とは言え、枢機卿も教皇も……神聖魔術や精霊に関することでは管理能力に不安があるとしか言いようがありません。
――うーん………………あ!
「教皇様に枢機卿、その装束は代々引き継がれる物……なのですよね?」
「え? は、はいそうですが??」
「マクマ! お二人の装束を『祝福』してみようか?」
「『祝福』?! 大精霊の?!」
いち早く反応されたのは枢機卿のようです。続いて教皇も喜色満面な面持ちで、二人揃って狂喜乱舞しそうな勢いです。
「ここへ来て、ようやく貴女も道理というものを理解できるようになったようですね。貴女は資質も教養も、聖女の器ではなかったのですよ」
学習能力のない枢機卿が、居丈高な物言いをします。「まあ、よさないか」とそれを宥める教皇も、その顔には隠しきれない愉悦が見て取れます。
「お主は聖女の任を全うできなかった。ならば仕方あるまい。我々が精霊共々正式に管理してやろうではないか」
リシュタンジェル公はお二方の物言いに思うところがあるのか、憮然としたご様子。ジャン様は呆れた様子で、ミントは笑いを堪えきれないと言った様子でお二方を見ています。
マクマは不満そうです。
『我の祝福は本来こういうものでは……』
と、ぶつぶつ言っていますが……やってもらいましょう。
お二方が期待に満ちた眼差しで、マクマを見てますし?
◇
――数秒後、神の恵みに感謝して地べたに口づけをしながら涙を流し、赦しを請うお二方の姿がありました。
さすが、私と違い喜んで『祝福』を受けた高貴なるお方です。
私は聖女ではありませんが、この国に生まれたものとしてお二方に泣いて喜んでいただける贈り物ができるとは、光栄の極み。
資質と教養のない私には苦痛でしかなかった『祝福』ですが、兼ね備えたお二方なら、問題ありませんよね?
これから先の教会や国の未来に対する懸案事項が、また一つ減りました。
さて、次は――王城へ向かわなければなりませんね。
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