この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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92. 「世界樹、目覚めの兆し」

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(――ルカ。ルカ、リュミエール)

やさしく、深く、澄んだ声が響いた。

ボクは、光に包まれた場所にいた。
どこまでも白く、どこまでも静かで、音がないのに“言葉”だけが届いてくる空間。

(……ここ、夢の中?)

ミミルは隣にいなかった。でも、不安はなかった。
その声が、どこか懐かしくて、あたたかかったから。

**

(目覚めの時が、近づいている)

(あなたは、“光の継承者”。
でも同時に、“問いの子”でもある)

「問いの……子?」

ボクがそう言葉にすると、光の粒がふわふわと舞い、やがて一つの“かたち”をとった。

それは、大きな樹だった。
空を貫くほどの巨木。その枝は星を揺らし、その根は世界を抱いていた。

「……せかいじゅ」

(わたしの名は“リィ・アリエル”。
はるか遠くの時代から、この世界を見守ってきた)

(あなたは、わたしが最後に選んだ、“守人”)

**

「どうして……ボクだったの?」

(“誰かを救いたい”と願った心。それが、時を越えて届いたから)

(あなたの想いは、前の世界の夜を溶かし、
この世界に“朝”を連れてきた)

ボクの胸が、じんわりと熱くなった。

それは、前世の記憶に触れたからだ。

(……そっか。ボク、あのとき……)

あの“願い”が、ちゃんと届いてたんだ。

**

(でも、まだ始まりにすぎない)

(この世界は、“忘却”の眠りに沈もうとしている)

(記憶をなくし、過去をなくし、
争いの痛みも、愛のぬくもりも――すべて、“なかったこと”にしようとしている)

「……そんなの、イヤだよ」

(だから、あなたに“問い”を託す)

(問い続けてほしい。“なにが幸せか”“なにが光か”)

(答えを出すためじゃない。問うことを、やめないで)

(それが、世界を“再び息づかせる鍵”になる)

**

(……そして)

世界樹の幹のなかから、ふわりと何かが浮かび上がった。

それは、金色の小さな種。
手のひらの上にすっぽり収まるサイズの、あたたかな命のかけらだった。

(これを、あなたに預ける)

(“未来”の種。あなたが笑っている限り、必ず芽を出す)

ボクは、両手でそれを受け取った。

とても軽くて、でも、どこまでも重かった。

(ボク……ちゃんと育てられるかな)

(育てなくていい。あなたが、あなたでいれば、それでいい)

(それだけで、世界は変わる)

**

目が覚めると、ベッドの横にはミミルが寝そべっていた。

そして、枕元には、
……あの夢で見たのと、まったく同じ“金色の種”が置かれていた。

「……夢、じゃなかった」

ミミルが目を開けて、ぽふっと言った。

「……こりゃ、ついに“始まった”な」

(うん。これから、なにかが動く。そんな予感がする)

でも、ボクは胸に誓った。

“問い”を忘れないように。
光の中で、迷わないように。

未来は、まだ小さな種だけど。
ボクの手の中で、きっと、芽を出していく。
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