この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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110. 「世界樹が呼んでいる(金の若芽、いま芽吹く)」

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夜が明ける直前、世界樹の根元に風が集う。
ルカはひとり、その木の前に立っていた。

「……ここで、ボクは生まれたんだよね」

白い指が、世界樹の幹にそっと触れる。
樹皮は、まるでぬくもりを宿すように、ルカの手を迎え入れた。

昨日、たくさんの“想い”を受け取った。
選ばなかった代わりに、傷つけた気がして──
それでも、みんなが「ありがとう」と言って帰っていった。

(不思議だな)

(ボクは何も選んでないのに、みんなが“信じてくれた”)

(それって……すごく、強いことなのかもしれない)

足元で、風が舞う。
昨日、園児たちが片付け忘れていた、花束の残りが一輪、土の上に転がっていた。

ピンクのリボンがついた、真紅のバラの花束。

ルカはしゃがみこみ、それを拾い上げた。

(この花も、誰かの“好き”がこもってる)

(捨てられないよね、こんなにも綺麗なんだもん)

ふと──

足元の土が、やわらかく光を放った。

「……え?」

世界樹の根の間から、ひとつの若芽が顔を出した。

それは、どこか“金の種子”に似ていた。
でも、色がちがう。
金でもなく、銀でもなく、淡い琥珀色。

「……きみ、名前……あるの?」

ルカがそう呟いた瞬間、世界樹の枝がふわりと揺れた。

葉が鳴り、空気がきらめく。

──ようこそ、ボクのなかへ。

頭の中に、響いたのは“言葉ではない声”。

「世界樹……?」

──ちがうよ。ボクは“あなたの想い”だよ。

──“選ばなかった愛”の先に、生まれた、新しい種。

「……ボクの、なか?」

──そう。選ばなかったぶん、みんなの“好き”を包み込む強さが、ボクを芽吹かせた。

ルカは、胸を押さえる。
あたたかい。
身体のなかが、優しさで満ちていくようだった。

(選ばないって、逃げじゃなかったんだ)

(“誰のものにもならない”って、ちゃんと意味があったんだ)

足元の若芽は、すこしずつ光を帯びて大きくなっていく。

世界樹の幹に、淡く淡く、光の文様が浮かび上がった。

──“その子は、希望を紡ぐ神子”

──“どこにも属さず、全てをつなぐ者”

ルカはそっと、若芽に触れた。

「……はじめまして。ボクの、“答え”だね」

ミミルを抱きなおし、空を見上げる。

夜が、明けた。
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