この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

111. 「“誰のものでもない”という革命（世界樹が、立ち上がる）」

その瞬間、空が──震えた。

風が止まり、鳥たちが羽ばたきを止める。
静寂の中で、世界樹が音もなく、ゆっくりと枝を伸ばし始めた。

「え……？」

園庭に出ていた園児たちが、一斉に空を見上げる。

ユリウスが息を呑み、カインが顔をしかめる。
レオンもノアも、言葉を失って、ただ立ち尽くした。

「……まさか」

ノアが呟く。

「世界樹が、……応えた？」

それはもはや「木」ではなかった。

中心から伸びた幹が、まるで天へ向けて祈る腕のように、左右へと広がっていく。
葉の一枚一枚が光を帯び、空気を震わせながら、何かを“発信”していた。

その中心──根元に立つルカの姿が、神秘的な光に包まれている。

琥珀の若芽が、ルカの足元から立ち上がり、空へと光の帯を伸ばした。

「……ボクは、“誰のものでもない”よ」

ルカの声は、空気を震わせるほどの静けさだった。

「でも、みんなのことが好きだよ。
“全部”を好きでいさせてくれる世界が、優しいなって思うんだ」

その言葉とともに、空に無数の光の輪が浮かんだ。

それは、各国の空へも、同時に出現した。

王城の塔から見上げた王たちが、驚きの声を上げる。
魔族の長老たちも、牙をひそめ、ただ黙礼した。

「神子が──」

「……“選ばぬこと”を選んだ、か」

「それでもなお、奇跡は起きた」

「いや、“だからこそ”起きたんだ」

＊＊＊

世界樹の文様は、静かに全大陸へと広がった。

“選ばない”ということが、“否定”ではなく“包括”であると──
“拒絶”ではなく、“すべてを抱く力”であると──

誰かの心に、そっと灯る小さな光として、伝わっていった。

＊＊＊

夜。

園舎のベッドで、ルカはミミルを抱きながら、小さく微笑んだ。

（誰のものにもならない）

（でも、“みんなの想い”を、消さなくていい世界を作りたい）

（そうすれば、きっと──）

──「ボクみたいな子」だって、ちゃんと生きていける。