私の婚約者に手を出すな! ~愛する婚約者を狙う鬼畜令嬢たちとの奮闘記~ 

千依央

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第二章:貪欲令嬢イザベラ

飽食と宝飾

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 アンヘル率いる破落戸ならずものの野盗一団がいなくなって、再びミーニャの町は平和を取り戻した。
 ただ、今後こういう事が起きないとも限らない。

 だから私は先生や将軍夫妻に、アッシュを守れる強さが身につくよう、鍛えてほしいと申し出た。
 全員からいい顔はされなかったけど、アッシュをささえる伯爵夫人として必要な要素だと思う。
「しょーがないね。気は進まないけど、自分の身を守る程度なら」
 と最終的には教えてくれることになった。

 アッシュはアッシュで結婚式の準備を進めているので、私自身も訓練と並行して、自分の準備を進める。





 今日は私つきの侍女であるジャスミンと一緒に、町で一番の仕立て屋へ。
 私も実家では家に業者を呼んで仕立ててもらうけど、ここミーニャではアッシュの花嫁とはいえ、まだよそ者。
 なので侍女と一緒にお店に出向く。

「まぁまぁポリーナ様! お待ちしておりましたわ!」
 仕立て屋の女将さんとお針子さんが迎えてくれる。
 採寸してもらい、式で着るドレスと、嫁入りの時に持っていくドレスや普段着を注文。

 お針子さんが休憩に、とお茶とお菓子を用意してくれたので、私とジャスミンはいただくことにした。
 それにしては皆さん忙しそうにしているので、お針子さんに訊いてみる。

「はい……実はこれから、リリオールス辺境伯のご令嬢、イザベラ様がいらっしゃるのですが」
 お針子さんはすごく不快そうな表情を見せる。
「どうかなさったのですか?」
 お針子さんに事情を訊くと、どうやらこれからいらっしゃる令嬢、問題のある方だそう。
 発注はたくさんしてくれるのだけど、どうにも金払いがよくないのだとか。
「それは……困りますね。素材だってお金がかかりますし」
「ポリーナ様がおっしゃるとおりなんです。リリオールス辺境伯様は分割でもお支払いくださっていますが」



 そんなふうに雑談を楽しんでいると、店の前に一台の馬車が停まった。
 馬車から出てきたのは、ドレスも靴もアクセサリーも帽子も、全てが赤で統一された装いをした、すごく横に大きい女性。
 というか出てくる時、扉の幅より大きかったから、侍女が引っ張り出していた。
 出きった時の様子が、「スポンッ!」って音が聞こえたみたいで、申し訳ないけど笑ってしまう。
 確かに着用してるもの全てが「本物の高級品」であったので、令嬢であることに間違いはなさそう。



 その女性が半分未満しかない細身の侍女を伴い、入店してきた。
「注文してたアテクシのドレスできたぁ? ブゴッブゴッ」

 こ、声が大きい……しかも息が荒くて、横に大きいからか、すごく……
 その、なんていうか……家畜みたい……。

 笑いを顔に出さずこらえていた時、彼女はドレスを受け取ってそのまま出ていこうとしていた。
「イ、イザベラ様! お題をいただいていません……」
 女将さんがイザベラ嬢に代金を要求すると、彼女はなんと女将さんを突き飛ばした。

「暴力はダメっ!」
 私が後先考えずに飛び出すと、イザベラ嬢は顔まで真っ赤にして、私のことも突き飛ばした!
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