家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃

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domという性、subという性

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 慧は、秋水が部屋に戻った気配を確認して、廊下に座り込んだ。
 
(はああぁ……。あの人、もしかして、domドムか)

 持ってきた仕事道具の前で蹲り、何度か深呼吸を繰り返す。

 この世には、難儀な性を持った人達がいる。
 いや、難儀というよりは祝福に近いのだろうが、慧は、難儀だとしか思えなかった。

 慧は、subサブという性だ。

 一般的に、パートナーとなる人物に保護され命令、支配されたいと思う事が知られている。
 このsubの対になるのが、domという性だ。
 こちらは一般的には、支配したい、守りたい命令したい、とまさにsubと対になる欲求を持っている人達である。

 ただ、この二つの性は特殊で、人口の7割はノーマル、という普通の男女の性となる。
 なので、お互いにパートナーを見つけるのが大変というデメリットはあるが、彼ら彼女らは、一般のノーマルより能力が高いという性質を持っているので、ほとんどの人間はこの性を祝福だと思っている。

 のを、慧は違うと思っているのだった。

 まず、慧はsubのさがである、支配されたい、という欲求が他より薄いらしい。
 コレが強いとひと時でもパートナーが居ないと情緒不安定になる不安症というものになるのだが、慧はsubと判明してこの方、特定のパートナーが居た事がないが、病院から処方される弱い安定剤ぐらいで全く不自由なかった。
 というか、domには迷惑しかかけられていないとすら思っている。

 昔から、subだとわかっていたわけではない。
 大きくなって運悪く検査前にdomに出会い、わかってしまったのだ。
 突然、その人物に事故のようにぶつかり、慧も知らなかった性を見抜かれ危うく強姦されそうになった。その時は、周りに人が居て助かったが、慧のトラウマになったのは言うまでもない。

 慧は、決してか弱く見える方ではない。
 中肉中背黒髪黒目、良く言えば平均、悪くいえばどこにも秀でた所がない平凡な普通の男子だった。
 ただ、subであるというだけ。
 そう思っていたが、こうもちょっかいを出されると嫌になる。



 家事代行サービスに入ったのも、社会に出てなにがしかの会社に入ると、数が少なくほとんどがカリスマを持ち高い地位に着いていると言われているdomにあたってしまったからだ。

 そのたびに、セクハラとパワハラまがいの支配コマンドをうけ精神を病み(信頼関係のない相手からのコマンドは精神の負荷が大きい)、母親がわりの人物が運営していたこの家事代行サービスの会社に入った。

 実際、慧にはこの仕事が合っていたようだ。
 掃除洗濯炊事。よけいな会話をする事は滅多になく、期間が終わればもう会う事もないし、嫌なら別の人に代わってもらえる。
 ごくたまに気に入ってもらって、長く通う家もあるが、所詮は他人。気が楽だった。

 なのに、またしても、domに出会うなんて。
 吐く溜息が重くなった。
 



 出鼻はくじかれたものの、その後はとくに邪魔される事もなく、順調に掃除が終わっていった。
 今日は昨日考えていたように、洗面所、の掃除を済ませたが、どう考えても風呂とトイレの通常以上の清掃は間に合いそうになかった。

 とりあえず切り上げ、廊下の拭き掃除をし、台所に移った。
 昨日の料理は全て平らげられており、皿がシンクの中にあった。三角コーナーにも皮や芯ぐらいしか残っていなかった。それは正直嬉しかったが、先ほどdomだと気づいたのがしこりとなって、慧は溜息を吐いた。


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