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灯璃

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話しをしよう

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 次の日。
 残り、あと二日。
 慧はよし、と気合を入れて、龍士郎の部屋のチャイムを鳴らしーーガチャ。

「あっ、良かった……」

 終わる前に、扉が開いた。ビックリした。ここに来て驚いた事は何度もあるが、一番驚いたかもしれない。咄嗟の事に慧が固まっていると、

「いっ、いりゃっ、っつ」

 いらっしゃい、と言おうとして龍士郎が、噛んだ。予想外の事に、龍士郎自身が驚き、ついで恥ずかしそうに顔が赤くなった。その想った以上のかわいらしさに、思わず、慧の頬が緩んだ。ふっと、息を吐いてしまう。そんな慧の顔を見て、龍士郎も笑う。

「あっ、すみませんっ。お客様の事を笑うなんて」
「ううん、可愛らしかったよ。君の笑顔が見れるなら、何度噛んだってかまわないさ。……いらっしゃい。今日もよろしくね」

 龍士郎からのともすれば甘い言葉を、気のせいだと瞬時に頭を切り替え、慧はいつもの通り頭を下げ、

「よろしくお願いします」

 そう事務的に言って中に入っていった。もう、見慣れた、龍士郎の部屋の中に。



 昨日、龍士郎の家に派遣された人は慧の知り合いで、今日出勤する時に昨日の様子を聞くと、慧の掃除を引き継ぎ、同じように食事を作っておいておいたとの事だった。
 ただ、龍士郎は最初と最後以外部屋から出て来ず、とても静かであったそうだ。説明に少し時間を要したが、理解してくれて、その後はとても仕事がしやすくて良かった、とその山田さんは言っていた。
 また、自分は特別なのかもしれないと勘違いしてしまいそうになり、自嘲してしまう。龍士郎の事を考えるのはお終いと昨日決めたではないか。

「慧くん」
「っはい」

 考え事をして反応が遅れた。仕事道具を置いて振り返ると、何やら思案している風の龍士郎と目が合った。

「昨日来た人に聞いたんだけどさ、そろそろ掃除は終わるんだって? 今日時間が出来たら、また一緒にご飯食べて欲しいんだけど、良いかな。話したい事があるんだ」

 何を、話したいのだろう。なるべく龍士郎とこれ以上関わりたくない慧にとっては断りたい申し出だった。が。

「……了解、致しました。夕食が出来たら、お声がけします」
「うん」

 声は意思と反して、肯定を伝えていた。龍士郎はその返事に満足そうに笑って、自分の部屋へと戻って行った。今日は、出てこないつもりらしい。
 雇用主の事をあれこれ詮索してはいけないだろう。慧はそう言い聞かせ、龍士郎を見るのを止めて自分の仕事をやり始めた。





 昨日の山田さんのおかげで、慧が当初予定していたより早く掃除の行程は終わってしまったようだった。自分だって、龍士郎に変にちょっかいをだされなければ、今日で終わって明日が予備日ぐらいのつもりでいたのだ。
 もちろん、昨日派遣された山田さんは何十年のベテランなので比べるべくもないのだが、自分だって一人前なのだ。できたハズなのだ。
 ぐぬぬと心の中だけで拳を握り、慧は掃除の仕上げを始めた。



 ベテランの山田さんのおかげで、慧の仕事はスムーズに終わり。一通り、依頼人の千代子に満足してもらえるぐらいにはなった。
 契約の内容は、ほぼ9割終わった。そう。9割なのである。

 慧は、使い終わった道具をまとめながら、龍士郎が引きこもっている、部屋の扉をジッと見つめた。
 初日と同じく、沈黙を守り固く閉ざされている。……沈黙というか、多少のガサゴソ音がするが。
 さすがに、住人が嫌がったのでと言えば千代子も仕方ないと諦めてくれるだろう。とは思う。だが、それでも、慧のプライドがそれを良しとしない。

 今日、話があると言っていたし、ダメ元でもう一回だけ頼んでみるか。どうせ、明日には終わる関係だ。嫌われても仕方ない。



 そう考えながら、慧はキッチンに移動し、今日の献立を作り始めた。
 今日は、龍士郎がはじめて褒めてくれた、鶏の照り焼きをメインに据えて小鉢を色々作っていった。

 龍士郎にちょっかいを出されないので、スムーズに仕事が終わってしまった。という事は、龍士郎と話しをしないといけない、という事。
 キッチンの後片付けをするフリをしながら、心を落ち着ける。
 いつまでもこうしてはいられない。
 龍士郎の話が何かはわからないが、またあのお喋り好きの龍士郎に捕まって、帰るのが遅くなってもまずい。
 この間の事があるので、忍から今日はちゃんと定時で帰ってくるように、ときつく言い含められている。

 よし。

 慧は心を決めて、料理を綺麗にダイニングテーブルに並べ、龍士郎の部屋の前に移動した。
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