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最終話・めでたしめでたし

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「メル、この資材どこに置くー?」
「ああ。丸太も板も、教会用に持ってくやつだよ」
「りょーかい」

 ざわざわと、再建途中の村の中で色んな人が忙しそうに働いていた。

 その内の一人、アレスは、あの豪華絢爛な白銀の鎧を脱ぎ、輝かしい伝説の聖剣を城に戻し、今は薄着で腕をまくりし、その美しい筋肉を惜しげもなく晒していた。
 肩に抱えた一抱えもある丸太は、オレも男だがなかなか運ぶのに苦労するのだが、アレスはやすやすと運んでしまった。

「悪いな、アレス。お前にばっかり重いもの運ばせて」

 さっさと村の入り口に積まれた丸太と板を、建設中の教会に運び終わり、アレスが戻ってきた。
 オレが申し訳なさそうに言うと、アレスはにっと笑い、

「良いって事よ。なんたって、オレとメルの、結婚の誓いをあげる教会なんだ。いくらだって働くさ」

 そう恥ずかしげもなく言った。オレはまだ慣れなくて、その言葉につい顔を赤くして俯いてしまった。
 すると。

「もうっ、所かまわずいちゃつかないでくださいまし! まだ教会のステンドグラスが届いておりませんのよっ」

 向こうの方から、旅の時よりは幾分か簡素な修道服を着た、エレフィーナがぷんぷんしながらオレ達に近寄ってきた。
 いつもの事なのでアレスは、はぁ~、と溜息を吐いた。

「だから、ステンドグラスなんて高価な飾りはいらないって言ってるだろう」
「いいえ! このエレフィーナが主導して建てる教会には、絶っ対いるんですっ」

 アレスは、呆れたように額に手を当てた。
 と、そこへ。

「ねえ、あの丸太は村を囲う柵に使わない? そもそもの数が足りてないの。柵は村として大事でしょ、一刻も早く完成させた方が良いわ」

 今は騎士団の鎧や王国の紋章が入ったマントを脱ぎ、動きやすい訓練用の服をまとった、ミーナが小脇に杭を抱えながら近寄ってきた。
 ミーナの言葉に、エレフィーナが反論する。

「いけませんわっ、教会の建立は早ければ早いほど良いのです。柵が必要な不埒な者や動物は、わたくしが結界を張りますので、後回しで大丈夫ですわ」
「そうは言うけどさあ」

 実は先ほどから、その辺の丸太に腰かけ暇そうに座って居た、着古した薄い紺のローブを纏い片手で杖を地面に突き立てている、アンリが口を挟んだ。

「追放されたとはいえ、元勇者が作ってる村に来る阿呆なんて、早々いないでしょ」

 ふぁあ、とアンリが欠伸をすると、エレフィーナとミーナは口をそろえて、

「アンリも働いて!」
「アンリもちょっとは手を動かしてくださいましっ」

 そう、声を荒げた。怒られたアンリは、

「やーだー。そもそも、勇者が持てないぐらいの物を上に運ぶのが仕事だし、まだそこまで行ってないし~」

 そう飄々と言って、二人の反感を買っていた。

 にぎやかになったオレ達の故郷に、ふと、笑みがこぼれた。

「楽しい? メル」

 横で、同じように三人のやり取りを見ていたアレスが、オレを見て、目を細めた。
 オレより、アレスの方がよっぽど嬉しそうに見える。
 だから、オレは思いっきりの笑顔で、

「うん! こんな楽しい日々が来るなんて、想像もしてなかった。ありがとう、アレス。ありがとう、みんな」

 そう、アレスや、三人娘にお礼を言った。
 四者四様に反応を返してきたので、それもまた面白くて、笑ってしまった。
 そうしたら、みんなもつられて笑っていた。
 みんなの笑い声は、まだまだ整備途中の村の中、そして、アレスの瞳のように青い青い空に吸い込まれていくようだった。





 終わり。
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