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裏話・勇者の追放 前編

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最終話 めでたし、めでたしの少し前。




 勇者アレスは、愛するメルクを画期的な方法で逃した後、超古代文明の装置を壊そうと試行錯誤していた。

 ミーナが魔王(クソ親父)の行動を抑え込んでいる間に、アンリとエレフィーナが装置にダメージを与え続け、アレスは魔王を倒せる聖剣とやらで、装置を壊す為に殴ってみたり、魔王を直接刺してみたり、色々試していた。
 結論としては、全て意味が無かった。
 超古代文明とはそれほどのものであるらしかった。

 だが、父親の精神を乗っとっていた魔王は、保たなかった。
 お互いに意識を押し付け合い、しまいには、いっそ一思いに殺してくれ、と装置の破壊方法を教える始末だった。

 流石に、生まれて来てからの鬱憤も晴れたと見える勇者が、アンリに言われた通りに指示をし、実際に装置を動かしてみるとと、ようやく装置は停止した。

 長年に渡る、人類の悲願が達成された瞬間だった。

 そんな魔王は最後の足掻きとばかりに、声を上げた。

「クッ、この恨み、忘れぬぞ勇者……我が倒れても、再び我のような者がうまれ……」
「お前うるさい。さっさと消えろ」

 そんな悪あがきも、勇者の剣が胸に刺さると、消えてしまった。
 床に這いつくばっていたその身体に、杭打つように白銀の剣を上から垂直に胸に刺すと、そこからサラサラと灰になり、消えて行った。

「……良かったんですの、勇者様」

 その様子を何の感慨も無い顔で見下ろす勇者に、オズオズとエレフィーナが声をかけた。
 何の感慨も無い顔で振り返った勇者は、

「何が?」

 本当に意味がわからないといった顔をした。
 まだ何か言おうとするエレフィーナに気づいた二人が、その口を押さえる。

「勇者、おめでとう。早く帰って、メルクを安心させてあげましょう」
「そ、そうよ、勇者。早く帰って、王様から褒美でももらいましょうよ」

 メルクの名前を聞いた瞬間、勇者アレスの顔に表情が戻った。

「ああ、うん、そうだね。こんな所、一刻も早く立ち去ろう」

 嬉しそうに色づく頬に、まだ口を押さえられているエレフィーナ以外、ホッとした表情になった。
 勇者が振り向いた部屋の中は、すでに全ての機能が停止し、薄暗くなっていた。

「アンリ。この部屋の中の装置、解析できる?」

 ふと発した、勇者の言葉。
 真意はわからなかったが、アンリは首を横に振った。

「いいえ、今の私達には、無理な技術よ。いったい、あとどれくらい技術が進んだら解析できるのかすら、定かじゃないわ」

 だから、紛れもなく超一級の古代技術で国宝級だ、とアンリは続けようとしたのだが、それは、次の勇者の言葉によって遮られた。

「じゃあ、壊れても構わないよね。さっき、メルにやったあれで、帰ろう」

 にこやかに、晴れやかに宣言する勇者に、三人は三者三様で頭を抱えたのだった。






 魔法で、一人分の推進力を生み出すのは出来た。
 だが、四人まとめてというのは、一人では理論値的に無理だった。
 だから、アンリと勇者、それにミーナもなけなしの魔法をタイミングを合わせ一緒に放った。
 すると、思った以上に効果が出た。

 結果、エレフィーナの結界も危なくなる程の爆発が起き、魔王城の部屋は吹っ飛び、四人は、勢い良く外に投げ出された。
 三人娘は恐怖のあまり勇者アレスにしがみついていた。
 それは、色気や誘惑などとは全く無縁の本能的な恐怖によるものだとわかったので、アレスも大人しく抱きつかれたままにしておいた。




 角度はほぼ正確だったが、やはり四人は無理だったのだろう。
 村の結構な手前で高度を落とし、堕ちた。
 だが、流石は勇者、三人にしがみつかれてなおその体幹を保ち、無事足から着陸した。

 その時。

「アレス!」

 向こうの方から、聞き間違える筈の無い、愛おしい声が響いてきた。

 「メル!!」

 未だ恐怖で身体を強張らせ離れない三人を、ぺいぺいぺいと雑に剥がし、アレスはメルクの方に走り寄った。

 走った勢いのまま、アレスはメルクをしっかり抱きしめ、くるくると器用に一回転して、メルクを地上におろした。
 そのあまりの手際の良さに、メルクはポカンとしていた。
 その表情も愛らしい、と、思わず抱きしめると、ポカンとしていた顔が真っ赤に染まった。
 怒られるかな、とアレスが除きこむと、恥ずかしそうにしていたが、恐る恐る腕を背中に回して、メルクからも抱きしめられていた。
 その瞬間の幸福といったら。
 アレスはさらにギュウっとメルクを全身で感じていた。

「あぁ、メル、本当に無事で良かった! オレ、メルがいたからここまでやれたんだ。ようやく、メルが願った世界になるよ、嬉しい? メル。これから、ずっと一緒だからね! もうどんな奴にも引き離されないよ!」

 早口でまくし立てるアレスに、メルクはドン引きと嬉しいの狭間のような表情になった。だが、一旦顔を引いたメルクのその瞳は、ひたすらにアレスを見つめていた。

「オレも、アレスが無事に帰ってきてくれて、本当に、本当に嬉しいっ。お帰り、アレス」

 泣きそうに笑うメルクを見て、また、アレスも泣き笑いのような表情をした。嬉しい時に涙が出るなんて、はじめて知った。泣くことなんてこの先もう無いと思っていた男の、暖かな涙だった。

「ただいま、メル!」

 二人は、幸せに見つめ合った。







「エヘン! オホンオホン!」

 そんな二人の後ろから、不躾な咳払いの音が響いた。
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