『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊

文字の大きさ
3 / 13
第一章:九条カケル、世界の終わりにマイホームを買う。

第3話「クローゼットの向こうに、世界があった」

しおりを挟む
 クローゼットの扉の前で、俺はしばらく動けずにいた。
 日中に感じた、あの妙な冷気。それが今、はっきりと“風”になって肌を撫でている。

 静まり返った夜の寝室に、クーラーも窓も使っていないはずなのに、ただそこだけ、ひんやりとした空気が漂っていた。

「……気のせい、じゃねぇな」

 さっきの光。紫がかった閃光。ほんの一瞬だったが、確かにクローゼットの隙間から漏れていた。
 恐る恐る、俺は扉に手をかけた。

 金属の取っ手は、まるで氷に触れたかのような冷たさ。
 ほんの数センチ開いていた隙間を、ゆっくり、両手で――音を立てないように開けた。



 扉の向こうにあったのは、衣類でも、段ボールでもなかった。
 そこには、風景があった。

 ……あり得ない。
 だってこれは、家の中だ。寝室のクローゼットだぞ?
 けれど確かに、そこには木々が揺れ、草が生い茂り、かすかに湿った土の匂いが漂っていた。

 ほんの一歩先には、森の入り口がある。
 茂みに差し込む二重の陽光。そう、“二つの太陽”が空に浮かんでいた。

「……なんだよこれ……マジかよ……」

 言葉が震える。

 だが俺は、止まらなかった。

 怖さよりも、知りたいという気持ちの方が強かった。
 自分の目で、この現実を確かめたかった。

 俺は、そっと右足を上げ――クローゼットの枠をまたいだ。



 感触が変わった。

 素足に伝わる、柔らかくて冷たい感覚。
 それまでフローリングの上に立っていたはずの足裏に、苔と石の湿り気が染みこんでくる。

「……冷たっ」

 思わず声が漏れる。

 空気も変わっていた。
 湿り気を含んだ草の匂い。夜に咲く花の甘さ。虫の羽音。
 東京の住宅街では絶対に嗅がない匂い、聞かない音だった。

 振り返ると、そこには確かに自分の寝室がある。
 フローリングの床。ベッド。未開封の段ボール。

 だけど前を見れば、そこにはもう――別の世界が広がっていた。



 立ち尽くす俺の前方に、何かが見えた。

 朽ちた石の門柱。
 その奥に、崩れた神殿のような構造物。
 巨大な樹が夜空を覆い、葉の隙間から星と月が見えていた。

 森は静かで、美しかった。
 けれど、それ以上に“不気味な静寂”があった。

 まるでここが、世界から切り離された聖域のように――

 そして、俺は気づく。

 その石門の前に、誰かが立っていた。



 金属の鎧に身を包んだ長身の男。
 肩まで伸ばした銀髪。紋章入りのマント。
 後ろには、数人の同じく甲冑姿の男女。

 彼らは、俺を見ていた。
 全員が、一斉に、息を呑むように。

 やがて、銀髪の男が跪いた。膝をつき、頭を垂れる。

「……ついに……現れた……」

 その声は、静かに、そして深く響いた。

「“深淵の支配者”が、この世界に降臨された……!」

「…………は?」

 その言葉に、他の騎士たちも次々と膝をつく。

「“黒翼の夜叉”の伝承……まさしく……このお姿……!」
「万象が語る“終焉の使徒”! ついに、我らが救世主が顕現された!!」

「ちょ、お前ら……落ち着け、俺ただのコスプレイヤーだから!!」



 目の前で跪く騎士たち。俺の脳内は完全にパンク寸前だった。

 けれど、その瞬間、何かが脳内に――ビリッと走った。

 次の瞬間、視界に青白いウィンドウが浮かび上がった。



《ユニット:九条カケル 転移者認定》
《職業:深淵の支配者(アビスロード)》
《スキル解放中……》
《称号:黒翼の夜叉/現界の守護者/選ばれし者》
《好感度効果:女子からの自動好感度上昇(解除不可)》



「いやいやいやいやいや!!」

 思わず頭を抱える。

「……なんで俺の黒歴史設定が現実になってんだよぉぉぉぉ!!」

 だが、誰もそれを否定しなかった。
 この世界では――俺の“中二病”が、“伝説”だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...