『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊

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第一章:九条カケル、世界の終わりにマイホームを買う。

第3話「クローゼットの向こうに、世界があった」

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 クローゼットの扉の前で、俺はしばらく動けずにいた。
 日中に感じた、あの妙な冷気。それが今、はっきりと“風”になって肌を撫でている。

 静まり返った夜の寝室に、クーラーも窓も使っていないはずなのに、ただそこだけ、ひんやりとした空気が漂っていた。

「……気のせい、じゃねぇな」

 さっきの光。紫がかった閃光。ほんの一瞬だったが、確かにクローゼットの隙間から漏れていた。
 恐る恐る、俺は扉に手をかけた。

 金属の取っ手は、まるで氷に触れたかのような冷たさ。
 ほんの数センチ開いていた隙間を、ゆっくり、両手で――音を立てないように開けた。



 扉の向こうにあったのは、衣類でも、段ボールでもなかった。
 そこには、風景があった。

 ……あり得ない。
 だってこれは、家の中だ。寝室のクローゼットだぞ?
 けれど確かに、そこには木々が揺れ、草が生い茂り、かすかに湿った土の匂いが漂っていた。

 ほんの一歩先には、森の入り口がある。
 茂みに差し込む二重の陽光。そう、“二つの太陽”が空に浮かんでいた。

「……なんだよこれ……マジかよ……」

 言葉が震える。

 だが俺は、止まらなかった。

 怖さよりも、知りたいという気持ちの方が強かった。
 自分の目で、この現実を確かめたかった。

 俺は、そっと右足を上げ――クローゼットの枠をまたいだ。



 感触が変わった。

 素足に伝わる、柔らかくて冷たい感覚。
 それまでフローリングの上に立っていたはずの足裏に、苔と石の湿り気が染みこんでくる。

「……冷たっ」

 思わず声が漏れる。

 空気も変わっていた。
 湿り気を含んだ草の匂い。夜に咲く花の甘さ。虫の羽音。
 東京の住宅街では絶対に嗅がない匂い、聞かない音だった。

 振り返ると、そこには確かに自分の寝室がある。
 フローリングの床。ベッド。未開封の段ボール。

 だけど前を見れば、そこにはもう――別の世界が広がっていた。



 立ち尽くす俺の前方に、何かが見えた。

 朽ちた石の門柱。
 その奥に、崩れた神殿のような構造物。
 巨大な樹が夜空を覆い、葉の隙間から星と月が見えていた。

 森は静かで、美しかった。
 けれど、それ以上に“不気味な静寂”があった。

 まるでここが、世界から切り離された聖域のように――

 そして、俺は気づく。

 その石門の前に、誰かが立っていた。



 金属の鎧に身を包んだ長身の男。
 肩まで伸ばした銀髪。紋章入りのマント。
 後ろには、数人の同じく甲冑姿の男女。

 彼らは、俺を見ていた。
 全員が、一斉に、息を呑むように。

 やがて、銀髪の男が跪いた。膝をつき、頭を垂れる。

「……ついに……現れた……」

 その声は、静かに、そして深く響いた。

「“深淵の支配者”が、この世界に降臨された……!」

「…………は?」

 その言葉に、他の騎士たちも次々と膝をつく。

「“黒翼の夜叉”の伝承……まさしく……このお姿……!」
「万象が語る“終焉の使徒”! ついに、我らが救世主が顕現された!!」

「ちょ、お前ら……落ち着け、俺ただのコスプレイヤーだから!!」



 目の前で跪く騎士たち。俺の脳内は完全にパンク寸前だった。

 けれど、その瞬間、何かが脳内に――ビリッと走った。

 次の瞬間、視界に青白いウィンドウが浮かび上がった。



《ユニット:九条カケル 転移者認定》
《職業:深淵の支配者(アビスロード)》
《スキル解放中……》
《称号:黒翼の夜叉/現界の守護者/選ばれし者》
《好感度効果:女子からの自動好感度上昇(解除不可)》



「いやいやいやいやいや!!」

 思わず頭を抱える。

「……なんで俺の黒歴史設定が現実になってんだよぉぉぉぉ!!」

 だが、誰もそれを否定しなかった。
 この世界では――俺の“中二病”が、“伝説”だった。
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