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第一章:九条カケル、世界の終わりにマイホームを買う。
第3話「クローゼットの向こうに、世界があった」
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クローゼットの扉の前で、俺はしばらく動けずにいた。
日中に感じた、あの妙な冷気。それが今、はっきりと“風”になって肌を撫でている。
静まり返った夜の寝室に、クーラーも窓も使っていないはずなのに、ただそこだけ、ひんやりとした空気が漂っていた。
「……気のせい、じゃねぇな」
さっきの光。紫がかった閃光。ほんの一瞬だったが、確かにクローゼットの隙間から漏れていた。
恐る恐る、俺は扉に手をかけた。
金属の取っ手は、まるで氷に触れたかのような冷たさ。
ほんの数センチ開いていた隙間を、ゆっくり、両手で――音を立てないように開けた。
扉の向こうにあったのは、衣類でも、段ボールでもなかった。
そこには、風景があった。
……あり得ない。
だってこれは、家の中だ。寝室のクローゼットだぞ?
けれど確かに、そこには木々が揺れ、草が生い茂り、かすかに湿った土の匂いが漂っていた。
ほんの一歩先には、森の入り口がある。
茂みに差し込む二重の陽光。そう、“二つの太陽”が空に浮かんでいた。
「……なんだよこれ……マジかよ……」
言葉が震える。
だが俺は、止まらなかった。
怖さよりも、知りたいという気持ちの方が強かった。
自分の目で、この現実を確かめたかった。
俺は、そっと右足を上げ――クローゼットの枠をまたいだ。
感触が変わった。
素足に伝わる、柔らかくて冷たい感覚。
それまでフローリングの上に立っていたはずの足裏に、苔と石の湿り気が染みこんでくる。
「……冷たっ」
思わず声が漏れる。
空気も変わっていた。
湿り気を含んだ草の匂い。夜に咲く花の甘さ。虫の羽音。
東京の住宅街では絶対に嗅がない匂い、聞かない音だった。
振り返ると、そこには確かに自分の寝室がある。
フローリングの床。ベッド。未開封の段ボール。
だけど前を見れば、そこにはもう――別の世界が広がっていた。
立ち尽くす俺の前方に、何かが見えた。
朽ちた石の門柱。
その奥に、崩れた神殿のような構造物。
巨大な樹が夜空を覆い、葉の隙間から星と月が見えていた。
森は静かで、美しかった。
けれど、それ以上に“不気味な静寂”があった。
まるでここが、世界から切り離された聖域のように――
そして、俺は気づく。
その石門の前に、誰かが立っていた。
金属の鎧に身を包んだ長身の男。
肩まで伸ばした銀髪。紋章入りのマント。
後ろには、数人の同じく甲冑姿の男女。
彼らは、俺を見ていた。
全員が、一斉に、息を呑むように。
やがて、銀髪の男が跪いた。膝をつき、頭を垂れる。
「……ついに……現れた……」
その声は、静かに、そして深く響いた。
「“深淵の支配者”が、この世界に降臨された……!」
「…………は?」
その言葉に、他の騎士たちも次々と膝をつく。
「“黒翼の夜叉”の伝承……まさしく……このお姿……!」
「万象が語る“終焉の使徒”! ついに、我らが救世主が顕現された!!」
「ちょ、お前ら……落ち着け、俺ただのコスプレイヤーだから!!」
目の前で跪く騎士たち。俺の脳内は完全にパンク寸前だった。
けれど、その瞬間、何かが脳内に――ビリッと走った。
次の瞬間、視界に青白いウィンドウが浮かび上がった。
《ユニット:九条カケル 転移者認定》
《職業:深淵の支配者(アビスロード)》
《スキル解放中……》
《称号:黒翼の夜叉/現界の守護者/選ばれし者》
《好感度効果:女子からの自動好感度上昇(解除不可)》
「いやいやいやいやいや!!」
思わず頭を抱える。
「……なんで俺の黒歴史設定が現実になってんだよぉぉぉぉ!!」
だが、誰もそれを否定しなかった。
この世界では――俺の“中二病”が、“伝説”だった。
日中に感じた、あの妙な冷気。それが今、はっきりと“風”になって肌を撫でている。
静まり返った夜の寝室に、クーラーも窓も使っていないはずなのに、ただそこだけ、ひんやりとした空気が漂っていた。
「……気のせい、じゃねぇな」
さっきの光。紫がかった閃光。ほんの一瞬だったが、確かにクローゼットの隙間から漏れていた。
恐る恐る、俺は扉に手をかけた。
金属の取っ手は、まるで氷に触れたかのような冷たさ。
ほんの数センチ開いていた隙間を、ゆっくり、両手で――音を立てないように開けた。
扉の向こうにあったのは、衣類でも、段ボールでもなかった。
そこには、風景があった。
……あり得ない。
だってこれは、家の中だ。寝室のクローゼットだぞ?
けれど確かに、そこには木々が揺れ、草が生い茂り、かすかに湿った土の匂いが漂っていた。
ほんの一歩先には、森の入り口がある。
茂みに差し込む二重の陽光。そう、“二つの太陽”が空に浮かんでいた。
「……なんだよこれ……マジかよ……」
言葉が震える。
だが俺は、止まらなかった。
怖さよりも、知りたいという気持ちの方が強かった。
自分の目で、この現実を確かめたかった。
俺は、そっと右足を上げ――クローゼットの枠をまたいだ。
感触が変わった。
素足に伝わる、柔らかくて冷たい感覚。
それまでフローリングの上に立っていたはずの足裏に、苔と石の湿り気が染みこんでくる。
「……冷たっ」
思わず声が漏れる。
空気も変わっていた。
湿り気を含んだ草の匂い。夜に咲く花の甘さ。虫の羽音。
東京の住宅街では絶対に嗅がない匂い、聞かない音だった。
振り返ると、そこには確かに自分の寝室がある。
フローリングの床。ベッド。未開封の段ボール。
だけど前を見れば、そこにはもう――別の世界が広がっていた。
立ち尽くす俺の前方に、何かが見えた。
朽ちた石の門柱。
その奥に、崩れた神殿のような構造物。
巨大な樹が夜空を覆い、葉の隙間から星と月が見えていた。
森は静かで、美しかった。
けれど、それ以上に“不気味な静寂”があった。
まるでここが、世界から切り離された聖域のように――
そして、俺は気づく。
その石門の前に、誰かが立っていた。
金属の鎧に身を包んだ長身の男。
肩まで伸ばした銀髪。紋章入りのマント。
後ろには、数人の同じく甲冑姿の男女。
彼らは、俺を見ていた。
全員が、一斉に、息を呑むように。
やがて、銀髪の男が跪いた。膝をつき、頭を垂れる。
「……ついに……現れた……」
その声は、静かに、そして深く響いた。
「“深淵の支配者”が、この世界に降臨された……!」
「…………は?」
その言葉に、他の騎士たちも次々と膝をつく。
「“黒翼の夜叉”の伝承……まさしく……このお姿……!」
「万象が語る“終焉の使徒”! ついに、我らが救世主が顕現された!!」
「ちょ、お前ら……落ち着け、俺ただのコスプレイヤーだから!!」
目の前で跪く騎士たち。俺の脳内は完全にパンク寸前だった。
けれど、その瞬間、何かが脳内に――ビリッと走った。
次の瞬間、視界に青白いウィンドウが浮かび上がった。
《ユニット:九条カケル 転移者認定》
《職業:深淵の支配者(アビスロード)》
《スキル解放中……》
《称号:黒翼の夜叉/現界の守護者/選ばれし者》
《好感度効果:女子からの自動好感度上昇(解除不可)》
「いやいやいやいやいや!!」
思わず頭を抱える。
「……なんで俺の黒歴史設定が現実になってんだよぉぉぉぉ!!」
だが、誰もそれを否定しなかった。
この世界では――俺の“中二病”が、“伝説”だった。
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