『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊

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第一章:九条カケル、世界の終わりにマイホームを買う。

第4話「伝説の闇勇者、厨二ポエムを超えて」

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 目の前でひれ伏す騎士たちを前に、俺は腰が抜けそうだった。

 「黒翼の夜叉」とか、「深淵の支配者」とか、「終焉の使徒」とか……。
 どれも、俺が中学~大学時代に書いてた黒歴史ノートの中に出てくる単語だ。

 というか、まんまだ。

「おいおい……ちょっと待て……俺が18歳のとき、夜中に風呂場でブツブツ言いながら考えてた詩が、なんで世界設定になってんだよ……!」

 俺はマジで頭を抱えた。

 あのノートには、当時の俺が熱中してた“自作ファンタジー世界”の設定が数百ページに渡って綴られてる。

 ・異世界“エルティア=ノア”
 ・大いなる破滅〈カタストロフィ〉
 ・深淵の支配者=“黒翼の夜叉”
 ・現界門(ゲート)=次元を越える扉

 全部、そっくりそのままこの世界で使われてる。
 いや、もはや盗用レベル。俺が訴えていいくらいだ。

 でも、相手は……この世界そのもの。

「……もしかして、俺、神か何か?」



 そのとき、騎士の一人が俺に近づき、跪いたまま顔を上げた。
 銀髪の青年。肌は白く、瞳は灰色で、冷静な知性を宿している。

「我が名はレオン=アルバ=リセラ。王国騎士団、第一師団長にして、王女殿下の側近を務めております」

 あまりにも“それっぽい”名乗りに、心の中で「来たよコレ……」とツッコんでしまった。

「貴方様こそ、我が国リセラル王国が代々待ち望んできた、伝説の勇者……“深淵の支配者”に他なりません」

「待って待って、俺ただのコスプレイヤーで……いや、いまは無職だけど、マイホームローン地獄中の民で……!」

「我々は貴方のご降臨を、千年の昔より予言により知っておりました」

「いや聞けよ!!!」

 完全に“話が通じない”世界線であることを、俺は悟った。



「ご安心ください。王都へは馬車をご用意しております。王女殿下も、貴方との謁見を心よりお望みです」

「……馬車?」

 そのワードで、急に現実味が増した。

 つい数時間前まで、俺は杉並区の静かな住宅街で、ベッドの上に座ってビールを飲んでいた。
 だというのに、今は異世界の騎士たちに崇められ、王女と謁見とか言われてる。

 展開が急すぎて、頭が追いつかない。

 でも――

 正直、ちょっと、ワクワクしてる自分もいた。



 ゲームの世界。ファンタジーの冒険。
 中学時代、ノートに書き殴った設定。
 自分だけの物語。誰にも読まれなかった、誰にもバカにされたくなかった、大切な黒歴史。

 それが今、目の前で“現実”になってる。

 だったら――
 今度こそ、胸を張ってこの物語の“主役”になってやろうじゃねぇか。



「……いいだろう。王女に会わせてくれ。ただし、その前に……」

 俺はふと足元を見下ろす。
 異世界の石畳の上に、素足のまま立っている自分。
 肌に冷たい湿気がまとわりついて、虫にでも刺されそうな気配すらある。

「……まずは、靴取ってくる。裸足で異世界デビューとか、いろんな意味で痛すぎるしな」

 そう呟いて振り返ると、クローゼットの“枠”はまだ開いたままだった。
 その向こうには、東京の夜。自分の部屋がそのまま、無音のままそこにある。



 床に散らばった段ボールの隙間から、俺は脱ぎ捨てていたスニーカーを引っ張り出す。
 お気に入りの黒のハイカット。軽く埃を払って、靴下も履きなおす。

「さて……これでようやく、異世界“装備”完了ってとこか」

 言ってて恥ずかしくなったが、妙にしっくり来た。
 俺は再びクローゼットをまたぎ、騎士たちの前に戻る。



「準備できたら、案内してくれ。異世界の王女とやらに、“俺の名”を名乗ってやるよ」

 騎士たちが一斉に顔を上げた。

「では……御名を……!」

 俺はゆっくりと目を閉じ、一言――

「†黒翼の夜叉†(ダークフェザー・ヤシャ)。それが、俺の名だ」

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 謎の歓声が森に響き渡る。

 ――こうして、俺の異世界伝説が幕を開けた。
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