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婚約破棄は難航中
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「な! ギル様、いらないって酷いです。さすがの私でもはっきりと言葉にされるとちょっと傷つきます」
このエリーゼの反応に令嬢たちとクラウスの視線が厳しくなる。
「え! リゼは、トラエル伯爵子息が好きなの?」
ギルバードも焦った。
「好きかと訊かれれば、分かりません。婚約者なので、これからの人生を共にする方として見てましたから」
恋愛感情があるかといえば、無い。だが情のようなものは芽生えてきていた。
が、このところのクラウスの態度で霧散していた。
「エリーゼ!」
この答えにクラウスが切れた。
「オレはオマエに気をつかっていたんだぞ! なのにオマエがオレのことよりも薬草の世話ばかり。話だって、薬草やその栽培方法のことしかしない。出かけようと誘っても植物園や下町に買い物とか。令嬢らしいというか貴族らしいことが全然だったじゃあないか」
クラウスとしては、観劇をしたり貴族が良く集まる場所で買い物やお茶などをしたかった。
「すみません。少しでも我が家のことに興味を持っていただきたくて……、先走ってました」
クラウスは植物栽培に関してはド素人。父親や兄が教えようとしても興味を全く示さなかった。
結婚後は王宮務めをしつつ、クロスフォード家の内面を手伝う予定だと聞いていたからだ。
「確か会計官だったけ。でも、植物栽培がメインの家に絡むんだ、稼業を理解するのも大切だと思うよ」
ギルバードまでもが加勢していた。
「う、うるさい! ちゃんとそれなりにやっていた。いいか、趣味が全く合わないんだ。だからオレは、趣味の合う友達と会うことが多くなっただけだ」
エリーゼの日常は趣味の薬草栽培だった。付き合いきれなかった。そんな時、集まりでイラートで出会った。親友の幼馴染だった。
「イラートはオレを癒してくれたんだ。いつも気にかけてくれていた」
植物を前にするとエリーゼは周りが見えなくなることが多々あった。そして素行も平民のようになる。
伯爵家でも裕福なクラウスからすれば、うんざりすることが多くなっていた。
最初はかわいい、賢そうな女の子というものだったが、今ではがさつな令嬢でしかなかった。だが、初めて会った時に向けられた笑顔を見た時の想いは残っていた。
「癒しですか。できないですよ。あまりお会いすることもお手紙のやりとりもなかったものですね」
意思疎通さえもかなり前からやっていない。
最後に手紙を貰ったのはいつだったか? 自分が出したのは? 反省のような思いが頭の中を駆け巡る。
新しい薬草の研究に没頭し過ぎていたと。
そして、奪われても仕方ないとも。
「言い訳になるのですが、私なりにがんばっていたのですが、クラウス様の求められる令嬢像から外れ過ぎていたのですね」
クラウスが行きたい場所に何度かは付き合った。友人も紹介されたが、そこでの会話がかみあってないことに気付いていた。それにそういった社交の場での自分の所作はお粗末なものだとも。
家庭教師におしえられた基本ぐらいしか覚えてなかった。
そんな場所でクラウスの友人たちの会話も思い出した。
「クラウスは美人で流行に敏感な令嬢が好き」だとか、「頼ってくれる女性が好きだ」ということが話題になっていたような。
聞こえるような音量だった。今となってはわざとエリーゼの耳に入れようとしていたのだろう。
「土いじりもお好きではないようでしたものね。あの楽しさをお伝えしたかった」
「な! なにをバカなことを言っているの? 土いじりなんてものは、クラウス様のような貴公子には近寄りたくもないものなの」
イラートがいい加減にしろと反論してきた。
「土いじりなんて庭師がやるもの! あなたのような野暮ったい令嬢はクラウス様にはいらないの! さっさと退場しなさい!」
ビシッ! と閉じた扇子の先を向ける。
「じゃあ、オレがもらってもいい?」
緊迫した空気を破った。
「「「「「「え!?」」」」」」
ギルバードのセリフにこの会話に関わっていた者もだが、聞き耳をたてていた者まで全員が驚く。
「ギル様、何をおっしゃっているんですか?」
「うーん、ずっと前から好きだったんだ。婚約者がいるから諦めていたけど、今ならいいかと。チャンスは逃がしたくないだろう」
テレながら答える。
「あーら、不謹慎ですわエリーゼ様。婚約者がある身で別の男性にそのようなことを思われる素振りをしていたなんて」
令嬢たちが、「そうよね」と騒ぎたてる。
「今日初めて聞きました、ギル様のお気持ち」
婚約者がいるのに不謹慎だなどと、あなたたちに言われたくないと反論したいが、ややこしくなるので口にはしなかったが、それよりもこちらの方が問題だった。
「ああ、ごめん。婚約解消したらリゼならすぐに次が来るだろう?」
焦ったと頭を下げる。こういったことも公衆の面前でやることではないと。
「それは無いと思います」
きっぱりと言い切る。
「そうですわよね。婚約者に逃げられたのですもの」
「ええ、そうですわ」
周りにいる令嬢たちが聞こえる音量のひそひそ話や嘲笑が漏れてきていた。
「あら、お二人はお似合いだと思いわすわ。だってオシャレや気の利いた仕草や会話なんて関係なさそうですもの。ねえ、クラウス様」
イラートが踏ん切りの悪い恋人をつつく。
「婚約を解消しよう」こうここで言えばいいものをまだ発してくれない。
「クラウス様、お父様のところへ行きましょうよ」
イラートは父親に話を通していた。エリーゼが頷けばすぐにでも二人は婚約してもいいと約束も取っていた。
「まだ、オレたちは婚約中なんだ。どうなるかは分からないが、これ以上ここで話しをすればエリーゼもだけどオレも立場をなくす」
クラウスが声を絞り出すように話し出した。
「いや、それよりもエリーゼはこいつと付き合っていたのか?」
ずずっと迫る。
「違います。私はあなたを婚約者と思ってましたから、裏切るようなことはしてません。あ!」
あまりの迫力で近付いてくるので後退りをした時にギルバードに当たってしまい体制を崩してしまった。
「エリーゼ!」
よろけ倒れかけたのでギルバードは、背後から抱きしめるような格好になった。これにクラウスの怒りはより深くなる。
「トラエル伯爵子息。これは事故」
あたふたしているエリーゼをギルバードは背後に隠す。
「倒れそうな人を支えるのは当たり前の行動だろう」
今にもギルバードの胸元を掴み上げようとする手を避ける。
「オレが勝手に想いを寄せているだけだから」
捕まらないギルバードではなく手はエリーゼを狙っていた。
「エリーゼは浮気をしていない。オレの見事な片思いだ。それにトラエル伯爵子息、君がそんなに怒る資格はないのでは? ほら真実の愛の相手が心配そうに見ているよ」
浮気をしているのはどっちだとなる。現に動きが止まったクラウスの横に駆けてきている。
「何のことだ?」
気付いてか気付かずか不機嫌にクラウスは訊く。
「エリーゼの浮気疑惑」
まずは答えてイラートを見る。
「君としては、真実の愛でお付き合いしている男性が、これから元婚約者になる女性の浮気の噂ぐらいで目くじらたてるのっていい気がしないよね。どちらかといえば、お互いにさようならしやすいと思うよね」
イラートは即座に頷き、クラウスの腕に自分の手を添える。
このエリーゼの反応に令嬢たちとクラウスの視線が厳しくなる。
「え! リゼは、トラエル伯爵子息が好きなの?」
ギルバードも焦った。
「好きかと訊かれれば、分かりません。婚約者なので、これからの人生を共にする方として見てましたから」
恋愛感情があるかといえば、無い。だが情のようなものは芽生えてきていた。
が、このところのクラウスの態度で霧散していた。
「エリーゼ!」
この答えにクラウスが切れた。
「オレはオマエに気をつかっていたんだぞ! なのにオマエがオレのことよりも薬草の世話ばかり。話だって、薬草やその栽培方法のことしかしない。出かけようと誘っても植物園や下町に買い物とか。令嬢らしいというか貴族らしいことが全然だったじゃあないか」
クラウスとしては、観劇をしたり貴族が良く集まる場所で買い物やお茶などをしたかった。
「すみません。少しでも我が家のことに興味を持っていただきたくて……、先走ってました」
クラウスは植物栽培に関してはド素人。父親や兄が教えようとしても興味を全く示さなかった。
結婚後は王宮務めをしつつ、クロスフォード家の内面を手伝う予定だと聞いていたからだ。
「確か会計官だったけ。でも、植物栽培がメインの家に絡むんだ、稼業を理解するのも大切だと思うよ」
ギルバードまでもが加勢していた。
「う、うるさい! ちゃんとそれなりにやっていた。いいか、趣味が全く合わないんだ。だからオレは、趣味の合う友達と会うことが多くなっただけだ」
エリーゼの日常は趣味の薬草栽培だった。付き合いきれなかった。そんな時、集まりでイラートで出会った。親友の幼馴染だった。
「イラートはオレを癒してくれたんだ。いつも気にかけてくれていた」
植物を前にするとエリーゼは周りが見えなくなることが多々あった。そして素行も平民のようになる。
伯爵家でも裕福なクラウスからすれば、うんざりすることが多くなっていた。
最初はかわいい、賢そうな女の子というものだったが、今ではがさつな令嬢でしかなかった。だが、初めて会った時に向けられた笑顔を見た時の想いは残っていた。
「癒しですか。できないですよ。あまりお会いすることもお手紙のやりとりもなかったものですね」
意思疎通さえもかなり前からやっていない。
最後に手紙を貰ったのはいつだったか? 自分が出したのは? 反省のような思いが頭の中を駆け巡る。
新しい薬草の研究に没頭し過ぎていたと。
そして、奪われても仕方ないとも。
「言い訳になるのですが、私なりにがんばっていたのですが、クラウス様の求められる令嬢像から外れ過ぎていたのですね」
クラウスが行きたい場所に何度かは付き合った。友人も紹介されたが、そこでの会話がかみあってないことに気付いていた。それにそういった社交の場での自分の所作はお粗末なものだとも。
家庭教師におしえられた基本ぐらいしか覚えてなかった。
そんな場所でクラウスの友人たちの会話も思い出した。
「クラウスは美人で流行に敏感な令嬢が好き」だとか、「頼ってくれる女性が好きだ」ということが話題になっていたような。
聞こえるような音量だった。今となってはわざとエリーゼの耳に入れようとしていたのだろう。
「土いじりもお好きではないようでしたものね。あの楽しさをお伝えしたかった」
「な! なにをバカなことを言っているの? 土いじりなんてものは、クラウス様のような貴公子には近寄りたくもないものなの」
イラートがいい加減にしろと反論してきた。
「土いじりなんて庭師がやるもの! あなたのような野暮ったい令嬢はクラウス様にはいらないの! さっさと退場しなさい!」
ビシッ! と閉じた扇子の先を向ける。
「じゃあ、オレがもらってもいい?」
緊迫した空気を破った。
「「「「「「え!?」」」」」」
ギルバードのセリフにこの会話に関わっていた者もだが、聞き耳をたてていた者まで全員が驚く。
「ギル様、何をおっしゃっているんですか?」
「うーん、ずっと前から好きだったんだ。婚約者がいるから諦めていたけど、今ならいいかと。チャンスは逃がしたくないだろう」
テレながら答える。
「あーら、不謹慎ですわエリーゼ様。婚約者がある身で別の男性にそのようなことを思われる素振りをしていたなんて」
令嬢たちが、「そうよね」と騒ぎたてる。
「今日初めて聞きました、ギル様のお気持ち」
婚約者がいるのに不謹慎だなどと、あなたたちに言われたくないと反論したいが、ややこしくなるので口にはしなかったが、それよりもこちらの方が問題だった。
「ああ、ごめん。婚約解消したらリゼならすぐに次が来るだろう?」
焦ったと頭を下げる。こういったことも公衆の面前でやることではないと。
「それは無いと思います」
きっぱりと言い切る。
「そうですわよね。婚約者に逃げられたのですもの」
「ええ、そうですわ」
周りにいる令嬢たちが聞こえる音量のひそひそ話や嘲笑が漏れてきていた。
「あら、お二人はお似合いだと思いわすわ。だってオシャレや気の利いた仕草や会話なんて関係なさそうですもの。ねえ、クラウス様」
イラートが踏ん切りの悪い恋人をつつく。
「婚約を解消しよう」こうここで言えばいいものをまだ発してくれない。
「クラウス様、お父様のところへ行きましょうよ」
イラートは父親に話を通していた。エリーゼが頷けばすぐにでも二人は婚約してもいいと約束も取っていた。
「まだ、オレたちは婚約中なんだ。どうなるかは分からないが、これ以上ここで話しをすればエリーゼもだけどオレも立場をなくす」
クラウスが声を絞り出すように話し出した。
「いや、それよりもエリーゼはこいつと付き合っていたのか?」
ずずっと迫る。
「違います。私はあなたを婚約者と思ってましたから、裏切るようなことはしてません。あ!」
あまりの迫力で近付いてくるので後退りをした時にギルバードに当たってしまい体制を崩してしまった。
「エリーゼ!」
よろけ倒れかけたのでギルバードは、背後から抱きしめるような格好になった。これにクラウスの怒りはより深くなる。
「トラエル伯爵子息。これは事故」
あたふたしているエリーゼをギルバードは背後に隠す。
「倒れそうな人を支えるのは当たり前の行動だろう」
今にもギルバードの胸元を掴み上げようとする手を避ける。
「オレが勝手に想いを寄せているだけだから」
捕まらないギルバードではなく手はエリーゼを狙っていた。
「エリーゼは浮気をしていない。オレの見事な片思いだ。それにトラエル伯爵子息、君がそんなに怒る資格はないのでは? ほら真実の愛の相手が心配そうに見ているよ」
浮気をしているのはどっちだとなる。現に動きが止まったクラウスの横に駆けてきている。
「何のことだ?」
気付いてか気付かずか不機嫌にクラウスは訊く。
「エリーゼの浮気疑惑」
まずは答えてイラートを見る。
「君としては、真実の愛でお付き合いしている男性が、これから元婚約者になる女性の浮気の噂ぐらいで目くじらたてるのっていい気がしないよね。どちらかといえば、お互いにさようならしやすいと思うよね」
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