白い花 (旧タイトル winter again 改訂版)

ななえ

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この後、やりたいことは

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「そうですわよ。このお二人のことなんてどうでもいいことですわ。エリーゼ様がいいとおっしゃっているのですから、このお話はここまで。さあ! 私たちは私たちでやることがありますのよ」

 イラートは腕にかけた手にぐっと力を入れ、引っ張るように歩き出す。

「イラート、待って。オレとしては」

 踏みとどまろうとするクラウスに苛立った表情になる。

「一日でも早く正しい形にしなければいけません」

「そうですわ」

「想い合っているお二人を引き裂く障害はもうないのですから」

 イラートに続き令嬢たちも加わってくる。

「エリーゼ様ももう自由ですので、その方のお申し出をお受けになれば。そうなれば王弟殿下もお考えを変えられるかもしれませんもの」

「ですわね。だって、節操のない方ですものね。別の方を誘惑されているんですもの」

 踏ん張っているクラウスを動かそうと令嬢たちはエリーゼは悪い女とばかりにはやし立てる。

「また王弟殿下か」

 ため息をつきエリーゼは反論する。
 これだけは潔白だと言い切らなければならない。

 バレリレイトが異様に突っかかってくる原因は、王弟殿下への恋心だ。それにこんな噂を放っておけば、この先どんなことが起こるか分からない。
 不敬罪やら公爵家からの攻撃やら。

「王弟殿下とはお会いしたことはありません。ですので想われ人と言われても困ります。誤解です!」

「王弟殿下の一目惚れらしいよ」

「え!?」

 ギルバードが情報とおしえてくれた。

「変わった方ですね。私なんて」

 世の中にはいくらでも自分よりも容姿が良く、所作が美しくて身分の高い女性はいる。

「好みというか、そんなものは人それぞれだし、あの令嬢たちが認める令嬢レベルだけが人を判断するものではないだろう?」

 ギルバードは自分のこともあるので真剣だった。

「そんなものでしょうか? 分からないけど、この婚約が解消されたらやりたいことがあるのですぐにでも旅に出ます。そうならば、おかしな噂も消えるでしょう」

 噂が消えるまで王都から姿を消したいと父親に申し出れば、頷いてもらえるかもしれない。エリーゼは望みにつなげられるかもと笑顔になった。

「旅?」

 イラートたちにごちゃごちゃと言われながらも動かずいたクラウスが不思議そうな顔をした。

「はい。一人で、探し物があるんです」

 即座に答えた。

「な! 何を言っているんだ? エリーゼのことだからきっと未知の植物を探す気だろう。いいか、王都から出れば魔物や盗賊がいるんだぞ。危険すぎる! 君の兄たちと同じように考えるな」

 エリーゼの二人の兄はそれを実践している。
 剣や魔法に長けているからだ。
 エリーゼはといえば、護身術を少したしなむ程度に魔力はほとんどないと聞いていた。無謀な探し物への旅だった。

「護衛の方は雇うつもりです」

 そこまでバカではないと否定する。

「あれかな?」

 ギルバードが訊いてきた。

「そうです。あの夢です」

 嬉しそうに頷いた。


 エリーゼの夢。
 子供の頃、父親にハリソン領の領館近くの小さな村に薬草採取の旅に兄たちとともに連れて行ってもらった時のことだった。

 まだ治安がよかった頃とはいえ、薬草採取の現場にエリーゼを同行させることを父は許さなかった。
 父と兄二人が護衛をしてくれるハリソン領の騎士たちが森に入っている間はお留守番になる。

 拗ねているとハリソン辺境伯家の縁者という、はちみつ色の髪をした綺麗な顔の少年がお守りをかってでてくれた。
 村で二人遊んでいると白い小さな花弁を付ける足首丈の雑草のような花があった。

 エリーゼは「かわいい!」とすぐにしゃがみ摘むために手を出したとたん少年にはたかれた。

「いたい」

 いままで優しかった少年に叩かれ泣きだした。

「ごめん。あの花、毒があるから触っちゃあだめだよ」

 少年は、叩いてしまった手を大切そうに自分の両手で包みながら謝ってくれた。

「毒!」

 怯えてしまう。
 幼いとはいえ、薬草一家に育っていた。それはいかに危険で怖いかということはなんとなく分かっていた。

「けど」

 かわいい。怖いけど見ているだけならばいいよねという思いからしばらく動かなかった。

「気に入ったのならたくさん咲いている場所を知っているよ。見たい?」

 少年は、綺麗な顔を近付けてくる。
 答えるよりも見惚れてしまうエリーゼだった。

「どうなの?」

「見たい」

 こくこくと忙しく頭を動かす。返事が遅れて気が変わられてはいけないと。

「いい、見るだけだよ」

 これにも同じように頭を動かした。


 それから二人でそこへ行く相談をした。
 場所は森の中を突っ切って隣の領にある神殿の奥庭に群生している。

「近道があるんだ。今からだと陽が暮れる前には帰って来れるよ」

「じゃあすぐに行きたい!」

 わくわく感が満タンなエリーゼは少年の手を引っ張る。

「ちょっと危ないから剣をとってくるね。あ、オレ魔法もなかなかいい腕なんだ」

 少年は手の平から炎の柱を作って見せてくれた。ついでにと辺りに炎を飛ばしたりもする。

「すごい!」

 炎が舞っているような綺麗な光景だった。
「すぐに戻るから」

 少年はここで待つようにと言い、どこかへ行ってしまった。


 しばらくすると大人たちをひきつれ少年が帰ってきたが、様子が変だった。
 怖い顔をした大人がブスッとしている少年の腕を掴んでいた。

「エリーゼ様、外は危険ですのでまたにしましょうね」

 少年の腕を掴んでいた、一番大柄で強面な騎士が話しかけてくる。

「え!」

 笑顔なのだろうが、エリーゼには怒られていると思い涙目になってしまった。なので、「嫌だ!」とは言えなかった。

「また今度なんて、ごまかしはよくない!」

 諦めさせる手として誤魔化しを選んだ騎士に少年はくってかかる。

「危険すぎます。ましてやお二人だけで向かうなど」

「見たいの」

 睨まれ黙り込む少年に代わりエリーゼは涙を流しながら懇願する。

「そうだ、オレも見たいんだ。綺麗なんだぞ!」

「知っております。はぁー」

 この頃にはエリーゼは大泣きしていた。

「人数を集めます。明日まで我慢してください」

 愛らしい少女の涙に負けた騎士が約束してくれた。

 だが、その日の夜中にハリソン領で騒動が起きてしまう。
 そのために約束も少年もエリーゼの前から消えてしまった。

 詳しいことをおしえてもらったが、幼過ぎて理解できずだった。
 頭の中はあの花を見たい。あの少年に会いたいという思い以外はなかった。

 それからしばらくして隣国との戦争が起こり、ハリソン領や近くの森は、隣国が置いた魔物を呼ぶという魔石のせいで魔の森になり近付けなくなった。

 魔石とは魔法関連の道具で、石に使いたい種類の魔力を封じ込めより強力な魔法を使うことができるものだった。
 複数の呪文や魔力増強の魔石をつかい強力な魔方陣を使う時になどによく利用されていた。

 今現在では、ハリソン領や王都の軍が魔物駆除をやり、かなりの数が減ったとはいえ、魔物か魔石のどちらが原因か分からないが、瘴気という人体に害を与えるものまで発生していた。
 まだまだ一般人が入るには不可能な場所だった。


「でもチャンスだから」

 一部は入れるとエリーゼは聞いていた。運がよければ自生している白い花が咲いているのを見れるかもしれない。
 ハリソン領に行けば、名前は忘れてしまったが、あのはちみつ色の少年に会えるかもしれない。
 文句を言いたいのもあるが、会いたいが純粋な思いだった。

 婚約という足かせをはめられてしまい、諦めていた夢がかなうかもしれないという状況に喜びがかくせなかった。
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