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思ったよりも早く周りは動いていた
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「リゼにしかしないよ」
「あ、だから」
「オレはハリソン領の騎士だからね。女性をもてあそぶようなことはしない。領主様はそういったことには厳しい方だから。それにオレに群がるやつらって、見た目と地位しか興味ないみたいだから」
うんざりげな物言いだった。
「口説くのはリゼが初めてだから、的外れなこと言っていたら注意してね」
笑顔に戻っていた。
「はぁ」
ほの暖かい空気が道具置場に漂い始めた時に乱暴に入口が開いた。
「エリーゼここにいたか」
「エリックお兄様!」
入って来たのは、薄い茶色の髪を一括りにした理知的な雰囲気のエリーゼとよく似た顔立ちの次兄だった。
「道具を片付け終わったのなら、さっさと家に帰れ」
エリックは、作業が終わるといつもここでギルバードと二人で反省会のようなことをしているのを知っていた。
「とんでもないことをやらかしたな」
あの騒ぎのことをほのめかす。
「あれは、相手側だよ」
ギルバードは訂正した。
「そうか? ギルバードも爆弾発言をしたんだろう?」
「爆弾って、あれかなぁ」
「それだ」
はっきりと言葉にしない二人だった。
「クラウスもギルバードもオレのかわいい妹にきっちりと誠意を示してもらわないとだけど、まあ、トラエル家を先に片づけないといけないから」
話し合いの場を持ちたいと連絡がきたようだ。
「早いな」
想像はしていたが、それ以上だった。
「お相手の家が煩いんだろう」
さっさとこの騒ぎを治めたいのだろう。
「でさ、ギルバードの成果は?」
「それなりと」
「ふーん、ハリソン領へ連れて行くぐらいは頷かせたんだろうな」
ちらりとエリーゼを見ると頷いていた。
「へえ、いいな。オレも行きたい。だってあそこはまだまだ新種があるんだ。探索したいよ」
今は王家からの依頼でここの所長をしている。叶わぬ夢だった。
「うらやましいよ」
二人に羨望の視線を送ってしまう。
「うまく婚約解消をもぎ取れよ」
すぐに思案顔に変わる。
「浮気の証拠はあるんだけどな、バカ言ってきているみたいだから」
「愛人枠か?」
「どうして知っているんだ?」
訊いてくるギルバードに反対に問う。
「リゼが言ってた」
「そうか、愛人かは分からないけど、うちというかエリーゼとの関係を切る気はないみたいだ」
「じゃあグリラナ公爵令嬢とのことはなかったことにするのかしら、嫌だなぁ」
ボソリとエリーゼは本音をもらす。
「無理じゃあないかな。あの令嬢が最初から愛人なんて存在を認めないよ」
何年か結婚生活を過ごした後ならまだありえるだろうが。
エリックの発言に二人も頷いていた。
「脅してきても嫌だってはっきり言えばお父様は許してくれるかなぁ?」
「元々うちとしては、この話受けたくなかったからうまくやるだろう。ただ、さ」
途中で止めてギルバードを見る。
「エリーゼを手放す気がないから、トラエル家はどんな手を使ってくるか分からないからな。ギルバード、さっさと婚約でもしてハリソン領へ行ってくれ」
汚い手を使いかねない家だ。
「了解」
ギルバードは即座に返事をした。
「あのお兄様、私クラウス様の家からどんな嫌がらせを受けるの?」
知ってそうなエリックに訊く。
「まあ、そこはオレの想像というか、よくあるパターンというか」
初心な妹にはあまり口にしたくないものだった。
一番可能性があるのは既成事実を無理矢理作られること。そうなればエリーゼは逃げられない。それでもギルバードがいいと言えば違うだろうが。両親が許さないだろう。
「ギルバード、がんばってくれ」
「ああ、任せてくれよ」
二人で言葉少なめで互いの肩を叩いていた。
「ねえ、お兄様は色々とギル様のことを知っているの?」
この二人、すごく親しいと思わせる。
「少しだけな。オレも子供の頃にハリソン領へはよく行っていただろう」
付き合いが一度途絶えたが、復活したと。
「どうしておしえてくれなかったの」
当然の不満が出る。
「黙っていてくれって言われたの。それよりもさっさと帰れ」
父親たちと作戦会議をやった方がいい。
エリックは道具置場から二人を追い出した。
「連れて行けるようだからどうにかなるだろうけど、エリーゼは恋愛事には鈍いから苦労するだろうな」
ギルバードとの白い花を見に行く約束事件が大きく影響していた。
「エリーゼにとっては初恋の相手だからな、どうにかなるか」
黙っていなくなってしまったことが相当堪えているようで、子供心に好きという感情を心の奥に追いやりないものとしたのだろう。
「クラウスもバカだよな」
身分差で本来なら名を呼び捨てにできないが、エリックとの今の関係は師弟関係だった。
植物関連の仕事をしている家と縁続きになるのだ、主に仕事を手伝えとはいわないが、せめて植物に関しての最低限の知識は覚えて欲しいと婚約時に条件を出していた。
だが、土に関わる事を嫌い、教えを乞いにきたことはなかった。
「公爵令嬢なんてわがままの塊を浮気相手に選ぶだなんて。エリーゼの気を惹きたいためだったようだけど」
軽い気持ちで近付き、親しい友人止まりでいたかったのだろうが、相手がのぼせ上ってしまった。
親の力や金に美をと持ち合わせているだけに欲しい者は絶対に手に入れるだろう。
「本当バカ。けど、エリーゼにも責任はあるかもだけど」
クラウスの気持ちにもう少し敏感になっていれば変わっていたかもしれない。が、これももしかすればの話だ。
「どうでも浮気はいけない。自業自得だ」
ふと二人の背中が見えた。
「ギルバードの忍耐力といっても今までエリーゼのことを思い続けていたんだから、大丈夫だろうけど周りがどう出るかが問題だな」
ギルバードの諸事情が気になっていた。
「あいつは人間的にはいい奴だから」
父親もおれるだろうし、ギルバードも関係する者への手回しをきっちりとやっているはず。
エリックは願うのだった。
「幸せになれよ」
二人の未来が明るくなるようにと。
「あ、だから」
「オレはハリソン領の騎士だからね。女性をもてあそぶようなことはしない。領主様はそういったことには厳しい方だから。それにオレに群がるやつらって、見た目と地位しか興味ないみたいだから」
うんざりげな物言いだった。
「口説くのはリゼが初めてだから、的外れなこと言っていたら注意してね」
笑顔に戻っていた。
「はぁ」
ほの暖かい空気が道具置場に漂い始めた時に乱暴に入口が開いた。
「エリーゼここにいたか」
「エリックお兄様!」
入って来たのは、薄い茶色の髪を一括りにした理知的な雰囲気のエリーゼとよく似た顔立ちの次兄だった。
「道具を片付け終わったのなら、さっさと家に帰れ」
エリックは、作業が終わるといつもここでギルバードと二人で反省会のようなことをしているのを知っていた。
「とんでもないことをやらかしたな」
あの騒ぎのことをほのめかす。
「あれは、相手側だよ」
ギルバードは訂正した。
「そうか? ギルバードも爆弾発言をしたんだろう?」
「爆弾って、あれかなぁ」
「それだ」
はっきりと言葉にしない二人だった。
「クラウスもギルバードもオレのかわいい妹にきっちりと誠意を示してもらわないとだけど、まあ、トラエル家を先に片づけないといけないから」
話し合いの場を持ちたいと連絡がきたようだ。
「早いな」
想像はしていたが、それ以上だった。
「お相手の家が煩いんだろう」
さっさとこの騒ぎを治めたいのだろう。
「でさ、ギルバードの成果は?」
「それなりと」
「ふーん、ハリソン領へ連れて行くぐらいは頷かせたんだろうな」
ちらりとエリーゼを見ると頷いていた。
「へえ、いいな。オレも行きたい。だってあそこはまだまだ新種があるんだ。探索したいよ」
今は王家からの依頼でここの所長をしている。叶わぬ夢だった。
「うらやましいよ」
二人に羨望の視線を送ってしまう。
「うまく婚約解消をもぎ取れよ」
すぐに思案顔に変わる。
「浮気の証拠はあるんだけどな、バカ言ってきているみたいだから」
「愛人枠か?」
「どうして知っているんだ?」
訊いてくるギルバードに反対に問う。
「リゼが言ってた」
「そうか、愛人かは分からないけど、うちというかエリーゼとの関係を切る気はないみたいだ」
「じゃあグリラナ公爵令嬢とのことはなかったことにするのかしら、嫌だなぁ」
ボソリとエリーゼは本音をもらす。
「無理じゃあないかな。あの令嬢が最初から愛人なんて存在を認めないよ」
何年か結婚生活を過ごした後ならまだありえるだろうが。
エリックの発言に二人も頷いていた。
「脅してきても嫌だってはっきり言えばお父様は許してくれるかなぁ?」
「元々うちとしては、この話受けたくなかったからうまくやるだろう。ただ、さ」
途中で止めてギルバードを見る。
「エリーゼを手放す気がないから、トラエル家はどんな手を使ってくるか分からないからな。ギルバード、さっさと婚約でもしてハリソン領へ行ってくれ」
汚い手を使いかねない家だ。
「了解」
ギルバードは即座に返事をした。
「あのお兄様、私クラウス様の家からどんな嫌がらせを受けるの?」
知ってそうなエリックに訊く。
「まあ、そこはオレの想像というか、よくあるパターンというか」
初心な妹にはあまり口にしたくないものだった。
一番可能性があるのは既成事実を無理矢理作られること。そうなればエリーゼは逃げられない。それでもギルバードがいいと言えば違うだろうが。両親が許さないだろう。
「ギルバード、がんばってくれ」
「ああ、任せてくれよ」
二人で言葉少なめで互いの肩を叩いていた。
「ねえ、お兄様は色々とギル様のことを知っているの?」
この二人、すごく親しいと思わせる。
「少しだけな。オレも子供の頃にハリソン領へはよく行っていただろう」
付き合いが一度途絶えたが、復活したと。
「どうしておしえてくれなかったの」
当然の不満が出る。
「黙っていてくれって言われたの。それよりもさっさと帰れ」
父親たちと作戦会議をやった方がいい。
エリックは道具置場から二人を追い出した。
「連れて行けるようだからどうにかなるだろうけど、エリーゼは恋愛事には鈍いから苦労するだろうな」
ギルバードとの白い花を見に行く約束事件が大きく影響していた。
「エリーゼにとっては初恋の相手だからな、どうにかなるか」
黙っていなくなってしまったことが相当堪えているようで、子供心に好きという感情を心の奥に追いやりないものとしたのだろう。
「クラウスもバカだよな」
身分差で本来なら名を呼び捨てにできないが、エリックとの今の関係は師弟関係だった。
植物関連の仕事をしている家と縁続きになるのだ、主に仕事を手伝えとはいわないが、せめて植物に関しての最低限の知識は覚えて欲しいと婚約時に条件を出していた。
だが、土に関わる事を嫌い、教えを乞いにきたことはなかった。
「公爵令嬢なんてわがままの塊を浮気相手に選ぶだなんて。エリーゼの気を惹きたいためだったようだけど」
軽い気持ちで近付き、親しい友人止まりでいたかったのだろうが、相手がのぼせ上ってしまった。
親の力や金に美をと持ち合わせているだけに欲しい者は絶対に手に入れるだろう。
「本当バカ。けど、エリーゼにも責任はあるかもだけど」
クラウスの気持ちにもう少し敏感になっていれば変わっていたかもしれない。が、これももしかすればの話だ。
「どうでも浮気はいけない。自業自得だ」
ふと二人の背中が見えた。
「ギルバードの忍耐力といっても今までエリーゼのことを思い続けていたんだから、大丈夫だろうけど周りがどう出るかが問題だな」
ギルバードの諸事情が気になっていた。
「あいつは人間的にはいい奴だから」
父親もおれるだろうし、ギルバードも関係する者への手回しをきっちりとやっているはず。
エリックは願うのだった。
「幸せになれよ」
二人の未来が明るくなるようにと。
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