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01.始業式のあと
しおりを挟む「よーし、皆帰るぞ~っ」
始業式が終わると、その日は授業が無くて、たいてい、皆でふざけながら帰宅する。
僕たちの高校の『最後の』三年生。
それが僕たちで、僕らの卒業と同時に、ここは閉校になる。
全校生徒は七人。
教職員の方が生徒より多いかも知れない。
ともかく、見知った人たちとの最後の一年が始まる、と言っても、僕らは特にセンチメンタルな気持ちになどならず、それより、始業式の最中もぐうぐう鳴っていた腹の虫を納めるのが先だった。
駐輪場へ行ってそれぞれの自転車に乗り込む。
「私達は、舞依の家に行くから、じゃあね」
藤本舞依とクラス委員の中川佐奈の女子二人は、手を振って去って行く。
残されたのは、男子五名。
僕と、幼なじみの佐伯悠真。あとはクラスメイトの結城と、青木と池田。この三人は、電車でわざわざこの学校まで通ってきている。
都会の子達ならば、ファストフードのお店でお昼ご飯を食べたりするのだろうけど、僕の住む町には、そんなものはない。
「俺らは、電車だから町でメシ食うよ」
「そっか、それじゃあな!」
「おう、また明日!」
三人は、僕たちが『町』と呼ぶ、隣町の繁華街に行くのだろう。ファストフードは、滅多にありつけないのでちょっとだけうらやましい。
この町で『ちょっと小腹が減ったとき』と言ったら、何歳になるのか解らないおばあちゃんがやっている駄菓子屋で。そこでは、大きな鉄板があって、お願いすると、焼きそばとか、おばあちゃんがクレープと呼んでいる謎のお菓子を作ってくれる。
おばあちゃんのクレープは、小麦粉を溶いたモノを薄くのばして、そこに黒糖を振りかけて溶かしたモノだ。
「僕らはどうする?」
少し考えてから「駄菓子屋行くか」と悠真は答える。
「そうだねー」
いつもの事なので、わかりきっているやりとりだとは思っていたけど。
僕と悠真は自転車を並べて小道を走る。
「今日から三年だね」
「早いね。あのさ、陽翔は、進路とか決まってんの?」
「別に決まってないけど……」
なんとなく歯切れが悪い悠真を、妙だなと思いながら、僕らは駄菓子屋にたどり着いた。
駄菓子屋は、映画にでも出てきそうな感じの、黒っぽく変色した木造で、重たい瓦も乗っている。店内はいつも薄暗くて、お線香の匂いがしている。所狭しと並んでいる駄菓子。店内は土間になっていて、駄菓子は小上がりに置いてある。そしておばあちゃんも、小上がりの所にちょこんと腰を下ろしている。
「あ、おばーちゃんこんにちは」
「焼きそばと、クレープ食べたいんですけど。お願い出来ますか?」
声を掛けると「じゃ、水は自分で持っていってね」と言いながら、おばあちゃんは立ち上がる。
よろよろした足取りなのに、それでもスタスタとわりと早い速度で歩いているのが不思議だ。
その間、僕らは用意されているグラスに水を入れて、鉄板のついた席へ座っておばあちゃんを待つ。
鉄板を挟んだ向かいにいる悠真は、今日、少し変だった。
「なんか、いろいろ実感がなくて」
「実感?」
「そう……。俺、来月には十八だろ? そうしたら、一応成人って事になるし」
「たしかに。昨日まで子供だったのに、今日から大人って言われても、ちょっと解らないよね」
「うん……それに……、学校も、なくなっちゃうだろ?」
なんとなく、悠真は落ち込んで居るように見えたので、僕は、少し、明るく振る舞ってみることにした。
「そうだね。ねぇ、俺らの中で、留年するヤツが出たらどうなるんだろうね?」
悠真は、ぽかん、と口をあけて僕を見ている。マズイ。完全に滑った。
恥ずかしい。
顔が熱くなってくるのを感じて、頬を抑える。指先が、熱かった。
「考えたこともなかったけど、廃校は代わらないんだから……転校するんじゃないの? それか、高校中退になるか」
「転校も、難しいよね」
「……俺は、転校はしたくないな」
「留年しないようにしないとね」
「たしかに」
僕らは顔を見合わせて笑う。その時、僕は急に、こうして、学校帰りに駄菓子屋に寄って何でもない話をするのも、あと、何日かしかないことなのだ、と気付いて、胸がザワザワした。
僕たちは、今まで幼なじみ。学校の同級生というカテゴリーの中で、そうやって接してきた。
それが無くなってしまったら、僕は、どうなってしまうのか、よく解らない。
「どうした? 陽翔。ちょっと、顔色が悪い?」
「……なんか、急に、こんな風にして過ごせるのも……今年限りだなって思っちゃったんだよ」
「こんな風に……」
「うん。何でも無い話をして、二人で駄菓子屋に来て……大人は、もう駄菓子屋で焼きそばもクレープも食べないから」
大人になると、駄菓子屋を使うことは出来なくなる。
それは、なんとなく皆がしている暗黙のルールだった。
高校を卒業したら、多分、ここへは来られなくなる。
「学校もなくなっちゃうのに、駄菓子屋まで来られなくなるのは、僕は寂しいな」
思わず、素直な気持ちがポロッとこぼれ出てしまった。
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