君と過ごした最後の一年、どの季節でも君の傍にいた

七瀬京

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04.桜嵐

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 うちの高校はのんびりしたもので、授業が終わると、別に補講もなければ部活もない。
 みんなで掃除をして、それから解散という流れになる。
 人手が足りないので、廊下と教室、それとトイレの掃除、昇降口だけを分担している。つまり、一人で受け持っている範囲がかなり広いので大変だった。
 教室の掃除をするのに掃除道具入れからモップと箒を持って、悠真に渡す。
「おー、サンキュ」
 教室は二人一組でやるので、悠真とペアだった。
「ねー、悠真、撮影っていつからやるの? ロケとかやってみる感じ?」
「ロケ、かあ。必要かな」
「取材みたいなのをするなら必要なんじゃないの?」
 よく解らないままに話を続ける。悠真はどことなく上の空で、ぼんやりしていた。
「悠真?」
「陽翔! 行くぞっ!! あれ、絶対に撮らなきゃ!!」
 モップを投げ捨てて悠真が走り出す。一度振り返って「スマホもってこいよ!!」と怒鳴るので、僕は仕方がなく、スマホを持って悠真のあとを追う。
 もう、いつも、唐突なんだよ。あの行動力が魅力ではあるんだけど。
 たまに振り回されているとは思う。


 悠真が走って行った先にあったのは、校舎から続く桜並木だった。
 風が吹いているせいで、桜吹雪が宙を舞っている。
「桜の写真を撮るってこと?」
「うん。明日には、散っちゃいそうだからな!」
「散っちゃいそうだからって……」
「来年になったら、通学路の桜じゃなくなっちゃうんだぜ。そうしたら、今、撮らないと」
 僕の胸がドキっと撥ねた。
 来年になったら。来年は、こうして、悠真と一緒には居られなくなるのだ。
 悠真の進路は解らないけど……。少なくとも、大学へ進学すると言うことは、今まで聞いたことがなかった。
「皆呼んだ方がいいかな」
 と言いながら悠真は桜並木の中を歩いて行く。身長の高い悠真は、時々、桜の枝に額をぶつけて「痛っ」と鋭い声を上げていた。
 僕は、そんな一瞬が、とても貴重なものに思えたから、急いで撮影する。
 カシャッ、カシャッ……とわざとらしい音を立てながら、シャッターが切られて、風景が切り取られていく。
 シャッターの音に気付いた悠真が、ゆっくりと振り返る。
「陽翔!」
「なに?」
 僕が聞き返した時だった。僕と悠真の間に、突風が吹き抜けていく。
 淡いピンク色を帯びた桜の花びらが、風に舞って、白い帯のように空を彩っていった。
「陽翔……俺……来年……」
 ごうごうと吹きすさぶ風の中、悠真がなにかを言っているが、僕まで届いて来ない。
「エッ、なに……?」
 僕が聞き返した時、風はふ、と収まった。僕の問いは聞こえたと思う。けれど、悠真は僕の問いには答えずに「何でもないよ。それより。写真、どうだった?」と僕に駆け寄ってくる。
 さっき風の止む寸前で―――悠真は、今まで僕が見たこともないような顔をしていた。
 一体、悠真は何を言おうとしていたのか。僕には解らない。再び、悠真が口にするかも解らない。悠真が何を言ったのか……知っているのは、桜の花びらだけだった。

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