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 大樹は、信じられない、というような顔をして、彼方を見ていた。

「なんで……そんなクスリ」

「……何でだと思う?」

 大樹は、本当に戸惑っているようだった。

「……俺は……、遠慮とか、して欲しいタイプじゃないんだよね。気を遣って貰ってるのも、大事にされてるのも解るんだけど……歯がゆい」

 そう言った瞬間、どくん、と胸が跳ねた。

 全身の血流が、いきなり沸騰するみたいに、鼓動が早くなって、心臓がバクバク言っている。身体が、熱くて、ほんのかすかな刺激に、びくっと身体が震えた。エアコンの風が当たる程度の、かすかな刺激に反応してしまって、彼方は戸惑う。

(昨日より、凄い薬だとは思ったけど……)

 本当に呑んで良かったのだろうか。身体の血液は一点に集中する。

「あっ……はっ……っ」

 自然に、息が荒くなる。大樹を、見ると、彼方を見ながら、呆然としていた。けれど、視線は、外せない。

「……あつ……」

 ネクタイを外して、シャツのボタンをくつろげる。

「凄い……熱い……よね? ……部屋……」

 動く旅に、服が肌に触れる。それで、あっという間に、追い立てられて、我慢が出来ず、彼方は、無我夢中にスラックスの前をくつろげた。

「……は……、あ……っ」

 そこは、十分硬度を持って張り詰めている。

 下着の上から触れてみたら、つま先から頭の天辺まで電撃に触れたような快楽が走って、びくん、と身体が揺れる。

「あ、だ……、も……」

 彼方は、チラリと大樹を見ながら、そこを手で撫でた。もどかしい。直接、扱ったほうが気持ちが良いのは解っているけれど、ここまでしても、全くうごく気配のない、大樹が恨めしい。

「大樹……は、さ」

「ぇえっ?」

 大樹の声が、裏返っていた。

「……俺が、好きじゃない……とか? ……俺、押しかけ恋人、みたいなもんだし……んんんっ」

 早く、触れたい。この場で、欲望をさらけ出してしまおうか。けれど、彼方の望みはそうではなかった。大樹に、触れて欲しい。それだけだ。

「……き、嫌いとかは……ほぼ、一目惚れ……だったし………好きだから、嫌われたくない……って、解らない、かな」

 大樹が、眼鏡を外した。

 どきっとした。今から、触れてくれるのだ、と彼方は期待して、胸の奥が、甘く疼く。

「だって」

 自分からは、したいって言わないから。

 ただ、それだけだ。

「……かな」

 甘い声音だった。

「俺……、ね……」

 そっと、顔が近付いてくる。キスをされる。啄むような軽いキスを何度も繰り返されて、胸が怪しく騒ぎ出す。もう、ダメかもしれない。触れて欲しくて、また、おねだりしてしまう。けれど、大樹の熱を感じたい。その方が、大切だった。

「……俺ね」

 と大樹は、甘く囁く。胸が、跳ねた。少し掠れた低くて甘い声は、毒のようで、頭の中が、ぐらぐらと揺れる。

「……昨日の、全然、満足出来てないんだけど?」

 まさか、そんなことを言われるとは言われなくて、「えっ」と彼方は、小さく呟く。

「……昨日の続き、してもいいよね? かな」

 腰が、重く、甘く、震えた。

 いささか、強引だったが、大樹のほうから誘って貰うことには、成功したと言って良いだろう。

「うん」

 うっとりと答えながら、彼方は大樹の首に腕を回した。大樹の手が、彼方の中心に触れる。

「ん……っあ」

「もう、こんなだ……。かな、本当に、セックス、大好きなんだ」

「あ、うんっ、……好き、だからぁ……」

 語尾が、甘くなった。手で、そこを弄りながら、首筋に舌を這わせている。ぬめるのと、ざらっとするのと、他人の体温。それを、いつもよりも鋭敏に感じて、声が、止まらない。

「……そろそろ、うち、防音入れないとダメかな」

 大樹が、くすっと笑う。

「……っ」

 声が大きい、と言われたようで、恥ずかしくて、唇を噛む。閉じた唇に、そっと大樹がキスをした。

「……声、我慢されたら、俺は、つまらないけど……。お隣さんとか、上下の人とか……、この、カワイイ声を聞いてるのかと思ったら、結構……イラっとくるよね」

「えっ……っんっ?」

「でもね、かな。今日は……近所迷惑の貼り紙出されるくらい、しても良いからね」

 薄い微笑みを見た時、彼方は、確信した。

(これ……絶対、そこまで、鳴かされる……っ)

 おとといまでの大樹ならば、そんなことをしなかった。けれど、昨日、理性は飛んだのだろう。そして、今日は、媚薬を使ってでも、再び仕掛けてきた彼方を見て、セーブする必要はないと、思ったのだろう。

(……俺……、持つ、かな……)

 身体はいつもより過敏だし、大樹の様子は、いつもとは全く違う。それに、不安はある。 限界を超えて……抱かれたらどうなるのか、体験したことはない。だから、単純に怖い。

 けれど、彼方は大樹にぎゅっと抱きついて、

「……いっぱい……鳴かせて……」

 と、自ら、申し出ていた。





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