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しおりを挟む「ここが、南の堺。南から北まで、川沿いに、海棠、川原、沢木、川埜(かわの)と四件の家があります。この村は、五氏六世帯しかないんです。桜井というのは、桃源の反対側の山で、桃源のように一面桜が咲き誇ります。その麓に、神社があって、北と南の堺と神社の間の広場が、村の祭祀の場所になります」
「ずいぶん、広いですね」
「ええ。祭りが来ればわかることですが、今回の祭りは七十二年に一度の大祭ですので、この祭祀場では足りないくらい、いろいろなものを用意するんです」
「祭りは、いつですか?」
「来月の、真ん中です。ですから、もう明日には準備に入ります」
「丁度、お盆に重なるんですね」
「ええ。先祖の蝶々と、房(ふさ)姫を祀る祭りですので、盆に重ねたのでしょう」
「房姫というのは?」
「私は、詳しいことはよく解りませんが……、村の年寄りに聞けばわかると思いますよ。ああそうだ、あなたのことはちゃんと村中に言ってありますので、村の人なら誰でも喜んで協力してくれると思うよ」
そうですか、と私が言ったとき、後ろの方から
「柊生さーん! ちょっど、良いですかぁ?」
と、男の人の声がした。
「彼はね、川埜の靖さんだ。一番北よりの家の人だよ。それじゃあ、僕は用事があるから、美咲さんは、適当に過ごして下さい」
柊生さんは、小走りに川埜さんの所に走っていった。
私は、とりあえず、お仕事をすることにした。
民族学の実地調査を思い出しながら、お年を召した方に話を聞きに行くことにした。
村のお年寄りはみんな朗らかで、私みたいな余所者でもいろいろなことを教えてくれた。
「あの、房姫というのはどういう方ですか?」
「房姫は、月ヶ瀬村の伝説に出てくるお姫様で、元を正せば南の堺の娘さんだったらしいんだげど、北の堺の息子さんと結婚したが、息子さんは程なく殺されてしまってな。それで、器量好しだった房姫の話を聞きつけた、麓の金持ちが、房姫を嫁にというんじゃけ。けど、房姫は『貞女は二夫にまみえず』と言ってその話を拒んだが、どうしでも諦めきれない金持ちが、村に火を放ったらしい。その当時は、もっと麓に近いところにあった月ヶ瀬村は、みんなで上へと逃げて、房姫は月ヶ瀬川の源流に住まうという蝶々の神さんに祈って、自分の姿を桃に変えて貰ったそうじゃ。それが、月ヶ瀬村に辿り着き、桃源に根付いて月ヶ瀬村を守っているという話じゃけ。それが、桃の木と結婚したものは、房姫の夫君と言われる所以じゃけ」
どこにでもあるような話だが、この桃の木にはそんな所以があったのだ。
「あの、それではこの村ではこの桃は食べないんですか?」
「いや、食べるけど、食べるには資格があるんだけ。この桃はな、蝶々と、桃自身しか食べてはいけないんじゃ」
蝶々と桃自身しか食べてはいけない。
おそらく、それは何らかのメタファーだろう。
「蝶々と桃?」
朝見た、あのひらひらした蝶々が、あの桃を喰らう。蝶が、桃なんか食べるわけがない。小学校の理科の時間では、確かにストローみたいなので蜜を啜るって聞いた。
「蝶々というのはネェ。あの蝶々じゃないんだわ」
おばあさんの言葉は、何か、秘密めいていてそれ以上私は聞き出すことは出来なかったが、とりあえず、このままおばあさんの話を聞くことにした。期間は十分にあるし、じっくり聞いた方が良いレポートが書けそうな気がしたからだった。
私は、自分のレポートで海棠隆一に、完璧だと言われることだけが目的だった。あの男に、一矢報いてやらねば気が済まない。
「このあたりは、霧が多いし、麓の人たちもここまでは来ないからね、村の中で過ごしているみんなは家族みたいのもんだっけ」
「この村には、一体何人くらいの方が居るんですか?」
「そうだね、南の当主と、娘、その婿に。海棠夫妻。川原のご夫婦に娘さん、沢木はわし一人だし、川埜も独り身で、北が当主と柊生さん。後は、あんたじゃね」
なんで、私まで頭数に入れられてしまうのかと思ったが、海棠隆一の変わりなのだろう。そうすると、この村は十三人しか居ないと言うことになる。ちょっと家族が多いいえなんかだったら、十三人家族なんて居るんじゃないだろうか。
「ずいぶん、少ないんですね」
「若い人は、みんな麓に下りたからネェ」
「そうですか」
おばあさんは、私に麦茶を出してくれた。琥珀色の液体が、香ばしい麦の香りを放って居る。透明の、まあるいグラスに入ったそれは、涼しげな印象を私に与えた。
一口戴くと、市販されてる麦茶とは違っていた。
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