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しおりを挟む『マツリは、貞女房姫を祀る為のもので、トーテムとしての蝶々をも同時に祀るためのものである。月ヶ瀬村独自の暦によると、マツリからマツリの間を一期として数え、もう既に二十五期を数えるという。単純に計算すると、千八百年以上経つことになるが、信憑性は薄い。おそらく、房姫という乙女が死んでからは毎年(あるいは毎年のように)この祭りは行われていたのだろう。
だが、このマツリの準備は、外から来た私にとってはあまりにも大がかりなものに見えるし、相当の労力と財を掛けたものであるから、毎年などやっていられなくなり、何年かに一度と言うことになっていったのだろう。
このマツリは、北の堺家が中心になって進めている。北の堺家は農業や狩りを司る南の堺家にたいして、祭祀事や取り決めなどを中心に行う、いわば神官のような家であり、マツリに於いても、清めや聖別などの特殊な技術を持っている。その中でも、特筆すべきなのは、神聖な土をもちて甕を作ることであると言えよう。
そう言えば、『日本書紀』には、天香久山(あまのかぐやま)の埴土(はにつち)を取って、それで土器(かわらけ)と酒を入れる甕を作って天神・地神を祀ったという話があったが、月ヶ瀬のこの風習もそれに近いものがあると言えるだろう。
また、月ヶ瀬村の『樹木婚』を行った人間は、このマツリを堺に、別な桃と結婚しなければならないと言う。このマツリを堺に、人の妻となった桃は枯れてしまうのだという。』
私は、そこまで書いて畳に寝転がった。
村は、だいぶ騒がしい。
明日から。マツリだというので、今日は前夜祭のようなものが行われるらしい。その準備をしているということだが、如何せん、私は余所者なので入れて貰うことは出来なかった。少し、寂しいとは思ったが、仕方ない。
とりあえず、今日一日は、私は村には居ては行けないようなことを、柊生さんに言われていたので、この部屋以外のいかなる場所に行くこともできなかった。
それでも、今日でなくなれば、つまり十二時を一秒でも過ぎれば、私はまたこの村の中を自由に動き回っても良いそうだ。
笛の音がする。
竜が嘶くようなすんだ甲高い音を発しながら、村中を音が駆けめぐる。
『………』
柊生さんの声を聞いたような気がした。
「柊生さん?」
声に出してみるが、勿論柊生さんがこんな所にいるはずもなかった。
私は、ヒマを持て余し、とりあえず仕事も終えたから、レポートの『影と魂の文学論』のレポート宿題の指定図書『ファウスト』を読むことにした。
ドイツ語を勉強して、堪能になったら是非この本をドイツ語で読んでみたいと思ったが、森鴎外訳のファウストは、しかめっ面の重々しい感じがして、読むのがおっくうでおっくうで仕方なかった。やっと一冊読み終えたが、そのころにはもう、睡魔がそろそろと歩み寄ってきていた。私は、罰当たりなことに鴎外全集のファウストを枕に惰眠を貪った。
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