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しおりを挟むマツリ初日の最大の神事は、劇である。
内容を要約すると、一部が房姫の伝説。二部が蝶々の伝説になって居て、その蝶々の伝説は、村の蝶々は、このマツリで一度『タマフリ』を行われ、そして力を高められるのだという。そのために、蝶々の細君である桃は、枯れ果てて行くのだという話だった。
そう言えば、祭りが始まってから蝶々を一度も見たことがない。
おそらく、村人だけで、どこかにひっそりと閉じこめたのだろう。膨大な数の蝶々を。
タマフリというのは、大気中に存在し遊離している、遊離魂を体の中に戻し入れ、力を高めさせる儀式だと、折口信夫は書いていた。
おそらく、この村ではその、折口説の通りで、トーテムとしての蝶々が自分の魂の分身(魂というものは分身・増殖するものだという)そのものとしてとらえられ、それらを一反自分たちのみの知る秘密の場所に隠してしまうことで、力を増殖させると信じているのだろう。
柊生さんは、なにやら神懸かりめいた仕草を持って、緩慢に祭祀場を動き回り、何度か袖を翻した。それは蝶々が、ゆうるりと舞うような仕草だった。
ふと、大きな甕の前に立つと、柊生さんはそれに施された蓋を取った。
柊生さんの身体から、無数の蝶々が飛翔する。
よく見ると、それは柊生さんの身体からほとばしり出たものではなかった。甕だ。甕の中に封じ込められていたのだった。
確かに、蝶々は、前よりも動きが活発化しているように思えた。
でも、だとしたら、それはあの、奇妙な土のせいだろう、と私は思った。
甕の中で、蝶々達は村人達も栄養を摂るのに食するというあの、土を食(は)んで居るに違いない。だから、蝶々は、あんな閉息されたところでも、平気だったのだろう。
だけど、私は、柊生さんが薄く笑うのに恐怖すら感じた。
怖くなって逃げるようにして北の堺に戻った私は、部屋の中で今日の出来事のすべてを書いて、ぼんやりとしていた。
寒い。
わたしは柊生さんから借りた、男物の着物を着込んだ。こちらの方が、温かかった。
ふと、目の前を一匹の蝶々が飛んできた。
手で払ったが、それはしつこくまとわりつき、私はムキになって蝶々を払いのけようとした。だけど、しつこく、しぶとい。私は蝶に恐怖すら抱いたのかもしれない。思い切り、分厚い鴎外全集を蝶々に向かって投げた。
蝶々の翅(はね)は、鴎外全集の角に抉られ、そして力無く外に飛んでいった。その姿に、幾らかの罪悪感を覚えたが、私は放っておいた。所詮、蝶々。
しばらく、寝転がっていると、ふと私は柊生さんに呼ばれたような気がした。辺りを見回すが、柊生さんは居ない。でも、確かに、呼ばれた気がした。
胸騒ぎにも似た鼓動が、私の身体を突き動かしたのだと思う。自分でも気付かぬ家に、桃源へと走り出していた。昨夜と同じ道だった。そうすると、この道の果てには、柊生さんの奥様がいらっしゃるはずだ。
だけど、だけれども。柊生さんの奥様は儚くおなりだから。
私は、目を見張った。
かすかに漂う、鉄臭い香り。そして、真っ白な着物を纏った柊生さんは、真紅の血にまみれて、奥様の遺体に凭れていた。
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