17 / 19
17
しおりを挟む「柊生さん!」
「み、さき?」
わたしが、こんな所に来ることが、本当に信じられないことのように柊生さんは大きく目を見開いて、呆然と私を見つめていた。
「柊生さん! だれが、こんなことを」
「あ、ああ……ちょっとね」
「待ってて、いま、村の誰かを……」
呼んでくるから、と言おうと思ったが、出来なかった。そう言う前に、鋭く柊生さんに制されてしまったからだった。
「止めてください! 村には……」
とりあえず、大丈夫なようだけれど、やはり村で休んでいた方が良かろうと思われた。その程度には、素人目にも深そうな傷だった。
「わかったわ。言わない。あなたが居ないと、明日のマツリが駄目になるものね」
柊生さんは安堵したように、私を見つめた。
「どうして、ここが?」
「胸騒ぎがしたのよ。それに、あなたに呼ばれているような気がして」
「呼びました。あなたを」
柊生さんは、私を見つめていた。私も、柊生さんを見つめていた。
手を、伸ばして、柊生さんを抱きしめた。
「美咲?」
私は、柊生さんが泣いていると思った。それは、自分が泣きたいからかもしれない。
「美咲……」
「しばらく、こうさせて」
抱きしめるというのは、抱きしめられると言うことです。
そう教えてくれたのは、牧師さまだった。
私は、いまならその気持ちを理解できる。わたしは、いま確かに柊生さんの身体を抱きしめているけれど、私は柊生さんに抱きしめられていた。それは確かだという、真実だという根拠があった。
「好きだな、柊生さん」
「僕に、構わないで下さい。僕は……」
「嫌いですか? 私のこと」
驚くぐらい、大胆だなと私は思った。柊生さんの方が戸惑っている。
「嫌いなわけないでしょう! だけれど。私は………」
柊生さんは、私の身体に腕を回した。
「私など、生まれてこなければ良かったんです! 私なぞ、誰にも必要にされず、誰も私を愛してくれない! 私の存在が、恨めしい! 私は、瑕(きず)を負ってしか居きられないんです。すべてが空しく、私の手をすり抜けていく!」
叫びが、胸を圧迫した。
この苦しさは、私の苦しさであり、柊生さんの苦しさだ。
「そんなことがあるわけ無いでしょう! 私があなたを必要としてる。あなたを愛してる。あなたの傷(丶)が痛むなら、私が側にいる!」
どこに、こんな台詞があったのだろう。どこにこんな感情があったのだろう。私は、溢れる台詞とともに、涙を流していた。
私の涙に、柊生さんが触れた。
私も、柊生さんも、傷を負っているのだ。すべての人は、傷を負って、それでも生きているのだろう。
ずっと。できることならば、ずっと彼を抱きしめていたかった。
『私の生まれた日は消え失せよ。男の子を身ごもったことを告げた夜も。その日は闇となれ。』
『なぜ、わたしは母の胎にいるうちに死んでしまわなかったのか。せめて生まれてすぐに息絶えなかったのか』
これは、一体どこで読んだ言葉だろう。こんな、空しい言葉。
柊生さんの、心の中のようだと私は思った。
方を震わせて、涙を流し続ける彼を、私はずっと抱きしめていた。柊生さんの手が、私の身体を撫ぜた。昨夜、奥様にしたように。
奥様の代わりでも、私は良かったのかもしれない。
同情ではなかったのだと私は思う。だけど、私は彼を受け止めてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる