死んだあの子のホントの音

リンネ

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3章

橋本光星

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 俺らには、いつも集まるメンバー、いわゆる「イツメン」がある。
 男子にも女子にも人気でなんでもできる細身で黒髪が良く似合うキラースマイルの石川清明。常に気が利くし優しくて女子からの支持が多い新井大輝。清明とは幼なじみで1番の理解者だと思う深海真叶しんかいまなと。いつも冷静沈着で現実理論派、クールの代名詞鈴木杏奈。そして俺、橋本光星。
 結構クラスでは有名で、大概「あのグループ」で通じる。
 でも俺は、このグループには清明の影響で仲間入りした。
 というのも、人好きのする性格の持ち主である清明に、入学式のときから話したりしてて、このグループメンバーとはその伝手で。
 俺は最初、清明にあった時は、「なんだこのひょろひょろなやつ」ってしか思ってなかったし、どうせモテて調子に乗るんだろって思ってたけど、初対面で話しかけに来た時はもう、一瞬でゾッコン。こんな言葉同性が使ったらおかしいんだろうけど、でも、あいつの笑顔は老若男女問わずにクラっとくるもんだと思う。
 特に、あいつは部活バスケだから肌白いし、体細いし、若干のくせっ毛な黒髪。んで、普段真顔だとミステリーな感じなあいつも、誰かと話すとすぐ明るく笑顔に変わるうえ、部活の時のあの真剣な顔と練習着から見える細い腹は、見ものだと本当に思う。俺は剣道部で、道具をしまいに来た時は、いつも清明を目で探したりしてる。
 割と人気者だからチャラいかとも思われがちだが、チャラくはない。根は真面目だし、先生からも評判はいい。ただ少し悪さをする時はある。
 俺は清明と沢山すごしていく中で、清明の性格とかそういうの、ある程度は把握したつもりだけど、いくら悪さをするような性格だったとはいえ、こんな風に誰にも何も言わずに消えるようなやつじゃなかった。人に心配されるのは嫌だったたちだ。
 俺は清明への訳の分からん疑念を振り払うように竹刀を降り続けていた。練習着に若干の汗がしみてるのが分かる。腕も少し辛くなってきた。俺は休もうと、武道室の壁に寄りかかって座り込む。
 「はぁ」
 ため息が漏れる。足元に転がる竹刀を握りしめる。
 「なぁに、そんな怖い顔して」
 不意に頭上から声がして、見上げるとそこには同じ剣道部の清水がいた。清水はあったかいレモンティーを差し出してきた。
 「あぁ、悪いな」
 俺はそれを受け取った。清水は隣に座った。
 「なんかあったんか?」
 「別に?」
 俺がそう返すと、清水は呆れ顔でため息をついた。
 「わかんないと思う?お前、さっきからすんごい怖い顔で竹刀振ってたもんだから、後輩が怖がって俺に言ってきたんだよ」
 そう言われて、レモンティーを吐き出しそうになった。
 そんなに怖い顔だったのか?
 「そんなに?」
 「うん。光星さん怒ってるんですか?俺たちなにかしましたか?って」
 「ははははは!」
 俺はつい笑い出してしまった。
 その乾いた声が武道室に響いて、後輩達の視線がこっちに向いた気がする。
 「あいつの事考えるとつい顔が引き攣るみたいでな…」
 「恨み?」
 「そんなわけあるかよ。わかんないんだよ、あいつが死んだ理由が」
 「まぁ、あのスーパースターがって考えるとそりゃ謎だけど、でも事故なんだろ?何も、お前がそんな責任負うようなことなかったろ」
 清水にそう言われて、俺は「そうだな」とは言えなかった。口ごもった挙句の果てに、俺は黙っているのも不自然だと思い、誤魔化すために勢いよく立ち上がった。
 「あぁ!くそ!」
 俺はそう叫んでいた。
 清水の呆れ顔が浮かぶ。でもどうでもいい。
 責任……俺はあいつの死に、直接の関わりがあるかもしれない。怖い。あいつは俺に恨みを持った上で自殺したんじゃないかとか思ってしまう。あのとき、こんなことにならなかったんじゃないか?俺が助けないままでいたばっかりに、あいつは嫌になって死んじまった。俺に恨みを持ちながら。俺に責任を負わせる為に死んでいった。俺のせいだ。そう、全部俺のせいなんだ。
 「みんな帰るぞー!」
 俺はそう言って部室に一番乗りに入って行った。
 俺が部室に入ると、後輩と清水もゾロゾロと部室へ来た。
 俺がさっさと着替えて帰ろうとすると、スマホがピロリンと音を立てた。
 スマホの電源を入れて見てみると、真叶からのメッセージが来ていた。
 それを開くと、「みんな今から会えないか?」的なことが書いてあった。
 「大事な話?」
 俺はとりあえず部室を出た。
 今日の午後は暇だからいいか。俺はいつものグループのチャットルームに返信して、そのまま直行した。
 
 約束のカフェへ行くと、杏奈と大輝はいた。俺が着いて少しすると真叶も来た。
 俺らはカフェの中で、清明のことについて話をした。
 真叶からの大事な話は、清明の死についてしっかり解明したいみたいな感じだった。同意は少し躊躇ったけど、担当を割り当てるってなった時、俺はハッとした。これを利用して清明の事故現場へ行けば、清明が事故死であったことをしっかりと目視できる。清明がどんな風に崖から落ちたのか。それが明らかに事故であってくれれば、俺はこんな罪の意識にいなくても済むって。俺はそう考えたら、事故現場へ行きたいなんて言い出していた。
 4人が最も決めあぐねていたが、俺がそう言い出すと大輝は「さすがだな」とか言った。深い意味なんてないんだろうけど。
 それよりも意外だったのは、杏奈が行くと言ったことだ。
 「光星行くならいくよ」
 「え?なにそれ」
 俺はすかさずそう聞いてしまった。
 「1人じゃ心配でしょ。絶対迷うから」
 「そうだな。じゃあ聞き込みはやるよ」
 大輝がそう言い、自動的に真叶は清明の家へ行くことになった。まぁ結果オーライ。真叶は清明とかなり仲良かったし、真叶が家へ行く分には何も不自然な点はない。
 俺は杏奈と、いつ行くかを正式に決め、来週の土曜日になった。
 杏奈は文化部だから体力が少し心配だが、まぁ大丈夫だろう。
 
 家へ帰り、俺はぼーっとしていた。
 事故現場へ行く。
 清明の死んだ場所へ足を運ぶ。
 何となくそれだけですごいことのような気がする。
 親友の墓石へ行くよりもとんでもないことのような。
 生々しい跡なんて残ってないでくれ。
 あいつは、事故死だった。でもそれが、事故死に見せた自殺だとしたら?やっぱり俺に対してのショックが大きすぎて、死んでしまったのか?これじゃ俺が殺したみたいじゃないか……。
 目を瞑ると、とある光景が真っ暗な視界に現れた。
 それは、葬式で見た清明の顔。
 真っ白で、固くて、冷たい清明の顔。
 「なんで死んじまったんだよ……。そんなに俺が許せなかったのか?」
 心の中で問いかけたそれに、清明は答えることもせずに蓋が閉じられて、火葬された。燃えて消えてしまった。
 いなくなる前に一声、そう言ってくれよ。
 死んだことを俺のせいにしてくれれば、俺はこの罪悪感も肯定して生きていける。でも、あいつはどちらも言わなかった。うんともすんとも言わなかった。
 もしも、もしも本当に事故死であってくれたら、もしも本当に事故死であって、そんなダサい様な、そんなまぬけな死であったのならば、きっと俺のこの罪悪感も、きっと……。
 俺は、そんなわけないような空想に陥って、いつしか涙が流れていた。清明との時間はなんだったのだろう。
 本当に…本当に俺が許せなかったのか。
 
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