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2章
新井大輝 3
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「心配だったんだよね?清明のことが誰よりも」
真叶は下を見ていた視線を上へやって、動揺する俺の目をまっすぐ見つめた。俺は目がそらせなくなって、呆然としたような顔で真叶の瞳を眺めるように見ていた。
心配?心配なんか…
俺はそんなお人好しじゃない。いじめを受けたからって、誰にでも仏になれるような人はまたなめられる。だから、俺はもう本心で誰かに親切にするのはやめにすると決めたんだ。そんな俺が誰かの心配なんかできるわけがない。清明のことだってずっと怖かった。
「辛いも痛いも隠してしまう清明が、誰よりも一番に心配だったんだよね?大輝」
違う。俺はそんなにいい人じゃない。
「違うんだ!俺は、そんないい人じゃない!誰かの心配なんかできるほど優しい人じゃないんだよ!ずーっと不満だった、クラスの人気者で、なんでも出来て、杏奈にだって好かれた清明がずっと憎かった!」
俺の口からどんどん泥が溢れる。
「あの日も、保健室行く前に杏奈にとめられて、それでも清明は杏奈にさえ隠して、杏奈はそんな清明のことばかりに気にかけるから嫌になって、せっかく誰かが支えてくれようとしてるのに無下にするようなことして、イライラしてたんだよ!俺は、俺のために清明にあんなことを言ったし、やったんだよ!」
「大輝は!」
俺の話途中で、真叶は声をはりあげて静止した。
「大輝は、清明が嫌い?」
珍しく真叶が声を上げるものだから、俺は何も言えなくて黙り込んだ。
「嫌いじゃ…ない」
「そうだよね」
「むしろ大好きだ。けど、例え俺が清明を大好きだと言っても、清明は俺のこと嫌いになったかもしれない…恨んでいるかもしれない…死んだ理由、俺のせいだ」
長々とそう話したら、真叶は何も言わずに俯いた。
「違うよ。清明は、大輝のこと、大好きだよ」
「なんでそう言いきれる?」
「清明、ありがとうって言いたいって言ってたよ。誰かに話す機会をくれたからって」
ありがとう?殴ったのに?ずっと隠してきた清明の本当のことを、俺は先生の前でバラしたのに?
「どうして……」
「ずっと隠しているのも、もう嫌になったんだって、清明言ってたよ」
「……だったら、なんで死んだりなんかするんだよ……あの日のこと、ちゃんと謝りたかったのに」
そういった途端、なぜか胸の奥がスッキリしたようなきがした。スっと何かが抜けて落ちて、これが本音だと気づいた。清明の本当の音、本音は一体どんなものだったのだろう。俺はそれを知る機会を奪ってしまったのかもわからない。けれど、今ならわかるよ。
少なくとも、真叶が語る清明は本当の清明であると言えること。けれど、それが本当の清明の本音がどうかの証明はもうできない。だから今は、真叶が語る清明を信じるしかないんだ。
確証はない。ちゃんとみんなで清明の本音を突き止めなきゃ答えなんて見えてこないのかもしれない。それでもいい。真叶の言う清明の気持ちが本当である確率は低いかもしれない。疑念もある、証明はできない。けれど……
「待っていたと思うよ。清明は大輝が背中を押してくれること。殴ったことを誤りに来ること、もしかしたら、清明の一番の理解者は、大輝なのかもね」
真叶にそう言われた瞬間、本音を漏らした瞬間、心の蟠りが消えた。心の奥に積もっていた雪が、太陽の光にさらされて溶けていくように。雪解け水は流れる先を失って、目からどんどんあふれでて行く。メモを取ったはずのノートの表紙は涙で濡れた。
「清明は、ちゃんと分かってるよ。あれが大輝の優しさなんだってことに」
不器用な俺は、正しい優しさを知らない。
なにせ、小さい頃はいじめられて育ってきた身だ。そこからなんとか挽回したくて、俺はあのころのキャラクターを捨てて、一新したんだ。だから、一人称も定まらないまま中途半端に生きてきた。知らない間にクラスの人気者になって、なんでも出来るすげーやつ、になっていた。
そんな中、本当にクラスの人気者で、なんでも出来るすげーやつにあった。石川清明だ。
清明とは、バスケをすることはたまにあっても、真叶や光星のように多く絡むことは無かった。優男を演じる俺に対して、清明は対象的に見える反面、あの日のびしょ濡れな清明を見て、俺は清明と全く同じ立場にいる人間なんだと知った。
けれど、いじめばかり受け出来た俺には、誰かに優しくする余裕なんてあの頃はなかった。だから、優しさを知らないまま育ってしまった。ハリボテの可哀想な優しさだけを見よう見まねで身につけて、仕方が無いからそれで生きてきたんだ。
でもあの日、傷だらけの清明を見て、あの頃の自分を思い出した。ボロボロな背中の清明はそんな俺にとって「都合の悪いモノ」見ているだけで吐き気がして、なんとかしてそんな清明を消し去りたかった。だから、俺は清明を保健室に連れていく優男を演じた。傷ついた子犬を保護するお人好しを。
しかし案の定、俺は清明に保健室で本体を見透かされてしまった。多分、むしゃくしゃしたと思う。弱い俺を誰にも見られたくなくて、変わった、進化した俺だけをみんなには見ていてほしくて、だから俺は「傷ついてませんよ」なんて知らないフリする清明を、弱い頃の自分に見立てて殴り飛ばした。
清明へ叫んだ言葉も、あの頃の俺宛。
でも、頭に映るのは俺でも、目に映るのは清明だった。
俺はきっと、過去の俺と清明両方に投げかけていたのかもしれない。それがいつか、清明にとっては優しさと受け取られてしまったのは何となくしっくりとは来ないけれど、もし本当に清明がそう思っていてくれたら、それでもいいと俺は思う。俺の中の清明は、弱い清明だ。いつだって、弱いままなんだ。強い清明なんて知らない、そう、言いたい。お人好しの、我慢好きの、クラスの人気者の石川清明。
俺は、大好きだ。
真叶は下を見ていた視線を上へやって、動揺する俺の目をまっすぐ見つめた。俺は目がそらせなくなって、呆然としたような顔で真叶の瞳を眺めるように見ていた。
心配?心配なんか…
俺はそんなお人好しじゃない。いじめを受けたからって、誰にでも仏になれるような人はまたなめられる。だから、俺はもう本心で誰かに親切にするのはやめにすると決めたんだ。そんな俺が誰かの心配なんかできるわけがない。清明のことだってずっと怖かった。
「辛いも痛いも隠してしまう清明が、誰よりも一番に心配だったんだよね?大輝」
違う。俺はそんなにいい人じゃない。
「違うんだ!俺は、そんないい人じゃない!誰かの心配なんかできるほど優しい人じゃないんだよ!ずーっと不満だった、クラスの人気者で、なんでも出来て、杏奈にだって好かれた清明がずっと憎かった!」
俺の口からどんどん泥が溢れる。
「あの日も、保健室行く前に杏奈にとめられて、それでも清明は杏奈にさえ隠して、杏奈はそんな清明のことばかりに気にかけるから嫌になって、せっかく誰かが支えてくれようとしてるのに無下にするようなことして、イライラしてたんだよ!俺は、俺のために清明にあんなことを言ったし、やったんだよ!」
「大輝は!」
俺の話途中で、真叶は声をはりあげて静止した。
「大輝は、清明が嫌い?」
珍しく真叶が声を上げるものだから、俺は何も言えなくて黙り込んだ。
「嫌いじゃ…ない」
「そうだよね」
「むしろ大好きだ。けど、例え俺が清明を大好きだと言っても、清明は俺のこと嫌いになったかもしれない…恨んでいるかもしれない…死んだ理由、俺のせいだ」
長々とそう話したら、真叶は何も言わずに俯いた。
「違うよ。清明は、大輝のこと、大好きだよ」
「なんでそう言いきれる?」
「清明、ありがとうって言いたいって言ってたよ。誰かに話す機会をくれたからって」
ありがとう?殴ったのに?ずっと隠してきた清明の本当のことを、俺は先生の前でバラしたのに?
「どうして……」
「ずっと隠しているのも、もう嫌になったんだって、清明言ってたよ」
「……だったら、なんで死んだりなんかするんだよ……あの日のこと、ちゃんと謝りたかったのに」
そういった途端、なぜか胸の奥がスッキリしたようなきがした。スっと何かが抜けて落ちて、これが本音だと気づいた。清明の本当の音、本音は一体どんなものだったのだろう。俺はそれを知る機会を奪ってしまったのかもわからない。けれど、今ならわかるよ。
少なくとも、真叶が語る清明は本当の清明であると言えること。けれど、それが本当の清明の本音がどうかの証明はもうできない。だから今は、真叶が語る清明を信じるしかないんだ。
確証はない。ちゃんとみんなで清明の本音を突き止めなきゃ答えなんて見えてこないのかもしれない。それでもいい。真叶の言う清明の気持ちが本当である確率は低いかもしれない。疑念もある、証明はできない。けれど……
「待っていたと思うよ。清明は大輝が背中を押してくれること。殴ったことを誤りに来ること、もしかしたら、清明の一番の理解者は、大輝なのかもね」
真叶にそう言われた瞬間、本音を漏らした瞬間、心の蟠りが消えた。心の奥に積もっていた雪が、太陽の光にさらされて溶けていくように。雪解け水は流れる先を失って、目からどんどんあふれでて行く。メモを取ったはずのノートの表紙は涙で濡れた。
「清明は、ちゃんと分かってるよ。あれが大輝の優しさなんだってことに」
不器用な俺は、正しい優しさを知らない。
なにせ、小さい頃はいじめられて育ってきた身だ。そこからなんとか挽回したくて、俺はあのころのキャラクターを捨てて、一新したんだ。だから、一人称も定まらないまま中途半端に生きてきた。知らない間にクラスの人気者になって、なんでも出来るすげーやつ、になっていた。
そんな中、本当にクラスの人気者で、なんでも出来るすげーやつにあった。石川清明だ。
清明とは、バスケをすることはたまにあっても、真叶や光星のように多く絡むことは無かった。優男を演じる俺に対して、清明は対象的に見える反面、あの日のびしょ濡れな清明を見て、俺は清明と全く同じ立場にいる人間なんだと知った。
けれど、いじめばかり受け出来た俺には、誰かに優しくする余裕なんてあの頃はなかった。だから、優しさを知らないまま育ってしまった。ハリボテの可哀想な優しさだけを見よう見まねで身につけて、仕方が無いからそれで生きてきたんだ。
でもあの日、傷だらけの清明を見て、あの頃の自分を思い出した。ボロボロな背中の清明はそんな俺にとって「都合の悪いモノ」見ているだけで吐き気がして、なんとかしてそんな清明を消し去りたかった。だから、俺は清明を保健室に連れていく優男を演じた。傷ついた子犬を保護するお人好しを。
しかし案の定、俺は清明に保健室で本体を見透かされてしまった。多分、むしゃくしゃしたと思う。弱い俺を誰にも見られたくなくて、変わった、進化した俺だけをみんなには見ていてほしくて、だから俺は「傷ついてませんよ」なんて知らないフリする清明を、弱い頃の自分に見立てて殴り飛ばした。
清明へ叫んだ言葉も、あの頃の俺宛。
でも、頭に映るのは俺でも、目に映るのは清明だった。
俺はきっと、過去の俺と清明両方に投げかけていたのかもしれない。それがいつか、清明にとっては優しさと受け取られてしまったのは何となくしっくりとは来ないけれど、もし本当に清明がそう思っていてくれたら、それでもいいと俺は思う。俺の中の清明は、弱い清明だ。いつだって、弱いままなんだ。強い清明なんて知らない、そう、言いたい。お人好しの、我慢好きの、クラスの人気者の石川清明。
俺は、大好きだ。
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