夏が来る頃に

リンネ

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夏が来る頃に

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 あれから数日後、僕は愛夜さんのお墓へ訪れた。
 墓石には「時雨愛夜」と彫られていて、僕はその墓石に触れて、時雨愛夜の文字を指先から体に刻みつけるようになぞった。
 「はやいね」
 後から声がして、声の方へ向くと、そこには車から降りてきたラフな格好をした誠司さんとちょいヤンキーな格好の未来ちゃんがいた。
 「なにしてんの」
 「いや、特に何も」
 僕は未来ちゃんに目を細くして言われ、慌てて墓石から指を離した。
 「あんたの言葉の意味がわかったわ。もし死んだら…そういうことだったんだね」
 「ごめん、ちゃんと話せてなくて」
 「いい。聞きたくないし」
 「さぁ、線香の用意はいい?」
 誠司さんはライターを構えながらそう言い、各自の持つ線香に火をつけた。淡い煙が縦方向に上がり、独特な匂いがする。線香をそのまま線香差しにおいて、墓石の前で両手を合わせる。深く目を瞑って、今までの記憶を反芻させる。
 ──君、ありがとね!
 ──また来てね?
 ──会いたかったよ
 ──君は隣を歩いてくれる人
 ──行かないで
 愛夜さんの声が、言葉が、笑顔が、聞こえて、見えて。まるで目の前にいるかのような感覚なのは、多分まだ受け入れられていない証なんだろうと思う。少し後悔が残っていた。でも、もうそんなことは嘆かない。そう決めたから。
 「琥白早くしろ」
 未来ちゃんがしゃがんだ僕のお尻を蹴ってそう言った。
 「ごめんごめん」
 僕は立ち上がって、墓石の前から外れた。
 未来ちゃんと誠司さんも線香を置いて、両手を合わせて。
 「じゃあ、行こうか」
 誠司さんはそう促した。
 「琥白くんはゆっくりでいいよ。待ってるから」
 誠司さんは優しくそういうと、未来ちゃんと先に車の方へ向かった。
 2人が去ってから僕は、もう一度墓石の前へたった。
 そして、墓石に手を当てて、名前をじっと見つめた。
 「愛夜さん、病気治ってよかったです。ご両親には会えましたか?僕も、あなたが大好きでした。いや、今も大好きです。初めてあった時から、愛夜さんの美しい姿、声、笑顔に魅せられていて、毎日会うのが楽しみでした。死にたくなった時も助けてくれた。僕も、あなたがいたから生きたいと思えました。本当にありがとうございました。愛しています。さようなら僕の好きな人」
 ゆっくりと手を離した。
 墓石に背を向けて、ゆっくりと前へ歩みを進める。
 地面を強く踏みしめて。

 ちゃんと生きます。
 あなたがくれた愛を抱きしめながら。
 死にたくなる時も、あなたを思い出しながら。
 僕が愛したあなたが、ちゃんと生きたかった望みを叶えるために。
 ちゃんと生きたかったあなたの代わりに、前を向いて生きていきます。それが、愛夜さんにできる今の僕の恩返しだから。
 もう怖くない。もう1人じゃない。
 夏が来る頃に、君はいなくなってしまったけれど、生きる意味は見つけたから。
 病気が治ってよかった。
 僕にとっては16回目の夏。
 君のいない日々を僕はちゃんと生きる。
 もしも病気が治らなくて今も永命を続けれていたら、
 愛夜さんにとっては、何回目の夏でしたか?
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