I NEED YOU

リンネ

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エピソード5

予感

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 陽山は何か気配を感じ取り、辺りを見回す。しかし、それらしい人影は見られなかった。
 ある男は、携帯に保存しておいた、ついさっき撮った写真を見ていた。薄気味悪く口角を上げて。
 
 玉森と陽山は家にかえることにした。
 「すみません陽山先生」
 「いえ、私はいない方が良かったですよね」
 「そんなことないですよ」
 家に帰る道を歩きながら、2人は話していた。
 陽山はちょくちょく、後ろを気にした。
 「どうかしました?」
 「いや、なにか人影が」
 「え?」
 玉森も周囲を警戒し始めた。 
 「あの男はやっかいだな……」
 物陰に隠れて、ある男が呟いた。男の耳には携帯が当てられていた。
 「明日決行する、支度しとけ」
 男は電話を切り、もう1度写真を撮った。
 その後ポケットに携帯をしまい、黒いワゴン車に乗り込んだ。
 ワゴン車の中には、5人ほどの男性が乗っていた。
 「明日だ。明日あの女を攫って、俺が前に話したガキを釣る」
 男は再び薄気味悪く口角を上げた。
  

 家に帰り、玉森は疲れ果てた様子で、ダイニングテーブルのところへ行き、椅子に腰掛けた。
 「玉森先生、その……」
 「すみません陽山先生、少し寝てもいいですか?」
 「はい、おきになさらずに休んでください」
 「じゃあお言葉に甘えて」
 そう言うと、玉森はゆっくりと椅子から立ち上がり、自室に入った。
 陽山はその後ろ姿を見つめていた。
 玉森が部屋に入ると、陽山はなにかスイッチを押されたように外へ出た。
 外へ出て、コンビニに行った。
 薬や食品を買い、ビニール袋を片手にコンビニから出ると、目の前を大柄な男性3人が立ち塞がった。
 「なんですか?」
 「おめぇあの女の連れだろ?」
 「あの女?誰のことです?」
 「惚けてんじゃねぇよ、こいつだよ」
 3人の真ん中にいた男性が、携帯の中に保存した写真を陽山に見せた。
 その写真には、さっきまで一緒にいた玉森の姿があった。
 「盗撮したのか?犯罪行為だぞ!」
 「ピーピーうっせぇんだよ、話そらすんじゃねぇ!」
 「この女知り合いだろ?……いや、この女愛人だろ?」
 「違う!玉森先生は……」
 「ハハハハ!!」
 男性らは陽山が焦って否定すると言葉を遮るように笑い出した。
 「こいつ馬鹿じゃねぇの?」
 「あっさり認めてくれたなぁバカにはお仕置きだなぁ!」
 そう言うと、男性らがよってたかって陽山を殴る蹴るした。
 お腹を蹴られ、頬を殴られ、踏みつけられ。ボコボコにされた後で、座り込む陽山に1人男性がしゃかんで顔を近づけて囁いた。
 「あの女を明日ここへ連れてこい、朝9時厳守いいな?」
 「そんなこと誰が!」
 陽山が抵抗しようとすると、男性がお腹に拳でパンチをくらわした。
 「ぐっ!」
 「いいな?」
 さっきよりも強い口調で言う。
 しかし陽山は黙ったまま何も言わない。言えるわけがない。
 「まぁいい」
 男性は立ち上がり、陽山を見下ろす。
 「来なければあの女もてめぇも殺す。これは脅しじゃない」
 そう吐き捨て、男達はワゴン車に乗り込み、その場から去っていった。
 陽山は立ち上がり服を整え、ため息をついた。
 「玉森先生を殺させはしない……ためには従うしかないか……」
 独り言をぶつぶつと言い、陽山は玉森の家へ帰ることにした。
 陽山が家に帰って来たが、玉森は部屋から出てくる様子はなく、静かな時間が流れる。
 ビニール袋をテーブルの上に置いて、部屋を見回す。
 ふと、陽山は1つの部屋に気づいた。蒼愛が前までいた部屋だ。陽山は興味本位でその部屋に入ってみることにした。
 ドアを開けると、整った空間、大きなベッド。その上には、大きな紙袋があった。陽山は「見るわけにはいかない」と自制しようとしたが、やはり気になるので見てみることにした。
 「これは……」
 陽山は中身を見るなり、紙袋を握る手に力が入った。それと同時に、体中に鳥肌が立った。
 中には、返り血のついたワイシャツやズボン、大量の血が付着した刃物。
 陽山は紙袋から手を離し、後ずさりした。
 他にもないかと、陽山は自分の後ろにあった机の引き出しを開けた。
 引き出しを開けた中には、さっき大量の血が付着した刃物と同じ形をした刃物が、きっちりと1ケースに5本ずつ入った状態で保管されていた。
 「なんだよこれ……」
 陽山はケースの蓋を開け、刃物を1本1本取り出す。
 刃物の先端はとても鋭利で、少し触れるだけでも出血しそうだった。
 「1本持っておいても、気づかないよな……」
 陽山は1本取り出したものをそのまま持ち出した。ポケットに入れるにも鋭利すぎて危ないため、陽山はなにかケース替わりになるものを探し出した。
 そして何とかケース替わりになるものを探し当て、刃物の危ない側をケース替わりのものにしまい、それからポケットに入れた。
 一応荒らした場所を整えてから、陽山は部屋を出て、今度は玉森の部屋へ行った。
 玉森は布団に被り、ぐっすりと眠っていた。
 陽山は、部屋にあった椅子を持っていき、玉森のそばに座った。陽山は何も言わずただ玉森を見つめていた。
 すると、玉森が急に布団を剥ぎ、陽山の方に顔が向いた。
 玉森は目から涙が零れていた。
 「蒼愛ちゃん……蒼愛ちゃん……」
 玉森は泣きながら何度も蒼愛の名前を呼んだ。
 その姿に陽山は涙を流さずにはいられなかった。
 「必ず守りますから。この手であなたを幸せにしてみせます」
 陽山は強い意思を込めた眼差しで玉森を見つめた。
 
 翌日、陽山は玉森と連絡を取り、玉森の家の前にいた。
 玉森はある程度整った服装で家から出てきた。
 「誘っていただいてありがとうございます」
 「いえいえ、とんでもない。気分転換しましょうよ」
 そういうと、陽山は少し不安を混ぜて微笑み、玉森を昨日あの大柄な男性と約束した場所へ誘導した。
 陽山にとっては、大切な人を売るのだ。気分が晴れているはずがなかった。
 陽山は、話しながら、周囲から感じる不吉な視線に気を張る。
 
 「行け」
 ワゴン車の中で、あの時の男性がマイクを通して言った。
 すると、その合図を聞いて、陽山と玉森を見張っていた数人の男性らが、小走りで2人の元へ近寄る。
 「玉森先生、あの……」
 陽山の発言を遮り、目の前を色黒の太い腕が突然現れる。
 その途端、玉森の口が塞がれた。
 「んん!!」
 口を塞いだ手を離そうと、玉森は必死にもがいた。
 しかし、太く頑丈そうな手も腕も、全く動かない。
 咄嗟に、玉森は陽山に助けを求めるような目で視線を送る。しかし、玉森の口を塞いだ男性が、陽山のお腹を力強く蹴っ飛ばした。
 「ぐはっ!!」
 そんなことをしていると、周りから大柄な男性がどんどん集まり、玉森の目を黒い布のようなもので巻き付けて塞ぎ、口を塞いでいた手を話したと思うと、すぐに厚い布のようなもので、口を開けた状態で縛り付けられた。
 陽山は立ち上がり、男性らの腕をつかみ引き離そうとする。しかしびくともせず、逆に陽山は再び蹴りをくらった。
 力が抜け、陽山は倒れ込む。
 その隙に玉森は、ワゴン車の中に無理矢理連れ込まれ、手首足首を縄で縛り付けられた。
 「いやまへんへい!!」
 布に邪魔をされ、うまく発音ができない。だが陽山は明らかに自分の前を呼ばれてるとわかった。
 
 「玉森…先生……!!」
 立ち上がろうとすると、昨日脅しをかけてきた男性が陽山の手を踏みつけた。
 「ぐっ!!」
 「ご苦労さま、いい演技だったよ。んじゃ、あいつさえ釣れればこいつは返してやるよ」
 男性は薄気味悪く笑いながらワゴン車に乗り込んだ。
 陽山は薄れゆく意識の中で、 男性らを憎むことしか出来なかった。
 ワゴン車が見えなくなると、急に雨が降り始めた。陽山は起き上がれないまま雨に打たれていた。 
 もう気が持たなくなり出したところで、聞き覚えのある冷徹な言葉と声がした。
 「おい、男」
 声のする方へ視線をやると、そこには、猫耳パーカーでフードを被り、ポケットに手を突っ込んだ、雨でびしょ濡れの蒼愛が立っていた。
 「君は……」
 「蒼愛。つけてもらった名だ」
 「玉森先生の子」
 「ちげーよ。拾ったもらっただけ。何があったか言え」
 陽山は力を振り絞り、なんとか起き上がる。
 頭を抑え、痛みに耐えながら話す。
 蒼愛は、陽山の視線と合わせるようにしゃがんだ。
 「攫われた」
 それだけ聞いて、蒼愛は立ち上がる。その時、青くサラサラな髪がちらついた。
 「ったく……不用心……」
 蒼愛は小さく呟いた。
 「何か?」
 陽山が尋ねると、蒼愛は冷たい目で睨むようにして陽山を見た。
 「何をしているの?」
 「え?」
 「助けるんでしょ?」
 陽山は急に表情が明るくなり、蒼愛の名前を呼ぼうとしたが、蒼愛は陽山の表情を見ることもせず、背を向けた。そしてあたりを見回して、蒼愛から見て右方向に指を指した。
 「この方向に約500m行って、そのあと」
 次は右斜め前を指した。
 「この方向に曲がって約300m。そこにいる」
 「どうして分かるんですか」
 「話はあとだ……話すこともないけどな」
 蒼愛は最後に何かブツブツ言ったが陽山には聞き取れなかった。
 「車で行け。時間が惜しい」
 陽山はそれを聞くと、力強く頷いて玉森の家がある方向に走って去った。
 蒼愛は去っていった音を確認すると、さっき陽山に支持した方向とは反対方向に歩き出した。
 「私は、あんたを片付けねぇとな」
 視線の先には、怯えて震える男性がいた。
 「おい、あの日母さんをやっんはてめぇだな?」
 「ヒィ!!」
 蒼愛は男性頭を乱暴に掴み、怒りに満ちた目でといかけた。
 「さっさと吐けよ、てめぇだよなぁ?あ?」
 蒼愛は男性の頭を掴んだまま、前後に揺らした。
 「ち、違います!!」
 「しらを切るのか?おいおい、いい加減にしとけよ」
 蒼愛の後ろから走る足音が聞こえる。
 「てめぇ!!放せぇ!!」
 後ろから男性が走ってきて、大きな斧で、蒼愛の肩へ振り下ろした。すると、蒼愛の肩から腕が簡単に切り落とされた。
 男性はあまりに簡単に切れたので驚いていた。しかし、驚き顔もすぐに嘲笑うような笑みに変わった。
 「お、おい!逃げるぞ!!」
 斧を投げ捨て、力が抜けて座り込む男性の手を引いて逃げようとする。
 「あははははははははは!!!!!ははははははははは!!!あぁかゆいかゆい!!」
 蒼愛は急にまだ残っている方の手でお腹を抑えて笑い出す。
 さすがに逃げようとした男性は異変に思い、振り返って蒼愛をみる。 
 「バーカバーカ!!」
 すると、男性の目の前でありえない光景が繰り広げられた。
 あろう事か、蒼愛の切り落とされた腕が、断面に張り付いていく。いわば、腕が再生されている。
 その光景に男性2人はさらに怯え転げ、この場に座り込む。
 蒼愛はゆっくりと2人に近づいた。
 「く、来んじゃねぇ!!」
 蒼愛は二タニタと笑いながら歩み寄っていく。
 とうとうすぐ近くに来られて、男性らは怯えて「ヒィヒィ」と音を上げる。
 蒼愛は躊躇うこともないまま、まず右側にいる男性の頭をつかみ、何をするかと思えば、それは物凄くとんでもない現象だった。
 蒼愛は頭を掴んだまま、男性の胸に足の裏を当て、頭を掴んだ手は前に力を、胸に当てた足は後ろに力を思い切り入れた。
 当然、頭だけがそこに残る。頭と胴体が離れ離れの状態になったのだ。
 「うわぁぁぁ!!!」
 男性でもこれは悲鳴をあげる。
 蒼愛はその悲鳴を楽しむように、今度は、左側の男性に手のひらを向けた。
 そして、蒼愛の手のひらの前に魔法陣が生まれた。
 「しね……」
 呟くと、ほんの一瞬でことは起こる。
 瞬間に魔法陣から氷の槍のようなものが出て、男性の心臓部分を貫いた。
 男性が倒れると、自然と氷の槍も魔法陣も消えた。
 「あははははははははは!!!!!あははははははははは!!!!!」
 蒼愛はその後しばらく、狂いに狂いまくった様子で、酷く残酷な眼差しで笑い続けた。
 
 その頃、陽山は蒼愛が残虐的なやり取りをしている最中に、玉森がいる場所にたどり着いた。
 「たどり着いたのはいいけど、こんなに人がいるんじゃ……」
 陽山の視線の先には、銃を持っている大柄な男性が、物の入口や至る所に数多く見張りをしていた。
 「あの子が来るのを待とうかな……」
 陽山は車に乗ったまま様子を見ていた。
 「どうしよう……いや!ここで出なきゃ男じゃない!!」
 独り言を言うと、陽山は意を決して車を降りた。
 そのまま正面の入口めがけて、突っ込んだ。
 「おい!」
 続々と銃を持った男性が陽山に群がる。
 陽山は近寄ってくる男性らを殴り倒していくが、人数も武力も相手の方が何枚も上手。
 結局陽山は殴られ、蹴られ、縄で縛られた。
 その状態のまま強引に連れ込まれ、玉森がいる場所と同じところへ放り込まれた。
 放り込まれたそこは、案外広くて、天井も高かった。
 陽山はあたりを見回した。すると右側から声がする。
 「馬鹿な野郎だぁ、来なけりゃてめぇまで死ぬこたァねぇのによ!」
 陽山は声のする方へ視線をやると、その先には偉そうに椅子に座った男性がいた。
 その男性を、睨みつけた。
 「許しません。ここを出たら必ず警察に通報してやる!」
 陽山がそう言うと、男性が大きな声で笑い出した。
 「その為にてめぇら殺すんだよ!」
 笑いながら、男性はナイフの刃を研ぐ。
 「この最高に鋭い刃で殺してやんよ」
 ナイフの刃を自分の顔のすぐそこにやって、輝きを目の前で確認する。
 ナイフを研いでいる時の目は、完全に殺意に満ちていた。
 「うわあぁぁ!」
 入口方面から、男性の叫び声が聞こえた。
 椅子に座ったままの男性は、ニタッと笑った。
 「おいでなすったなぁ?」
 期待に満ちたような顔で椅子から立ち上がる。
 ナイフを器用に指で回しながら、不気味に口角を上げて笑う。
 「てめぇ!」
 怒りに満ちた声で、蒼愛は勢いよく陽山と玉森がいる場所へ辿りつく。
 「見事だァ!やっと来てくれたなぁ!ここからが復讐のお時間だ!」
 男性は蒼愛にナイフを突きつけた。
 「てめぇ、変わんねぇなおい。確か名前」
 「これから惨めに死ぬやつに名乗る名なんざねぇよ!」
 男性は結構な興奮気味にナイフを振り回す。
 「齋藤信宏って言ったか?」
 「あ?」
 「まぁいい。所詮人間なんて相手になんねぇ」
 蒼愛は鋭く齋藤という男性を睨みつける。
 蒼愛の瞳は片目が赤く染まり出した。
 睨みつける表情も目つきも、全てが憎悪と復讐心に満ちていた。
 「一掃してやるよ」
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