こうして勇者は世界を救いましたとさ。

クラッベ

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後編

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「驚いた顔してるね、久しぶりの再会なのに挨拶もなしか?」

「お、お前、なんで」

「あぁ、僕はこの世界に転生したんだよ。お前らに屋上から突き落とされた後にね。この世界の神官の子供に生まれて、お前たちにいじめられてきた記憶があるから人と接するのが怖かったけど…僕の周りの人たちは皆優しくしてくれて、やっと僕は一人の人間として生きてもいいんだって実感できたんだ」

杉谷は胸に手を当てて、この世界に来てからの事を話す。隣にやってきたきれいな女性はこいつの恋人だろうか。

寄り添うように立っている女性は杉谷を優しげに見つめた後、俺たちを睨みつける。

「そうそう、どうしてこんなことするのかっていう説明だけどね。王様もおっしゃったとおり、この世界を存続させるための生贄になってもらうためだよ。世界がこうして存在するのに寿命があるらしくてね、それを少しでも延命しようと、さっき説明した召喚魔法で呼び出した人を生贄にするんだ。

だけど召喚されてばかりの状態だと、燃料としての価値はあまりにも低い。だから勇者として扱い、おだてた後、冒険の旅に出て、燃料としての力を蓄えてもらっていた…分かりやすく言うとRPGもののゲームでいうレベルアップ、かな。

ちなみに君が倒してきた魔王たちだけど、彼らも協力者だよ。支配しようとする世界がなくなったら彼らも困るしね。今までの戦いも全てやられたふりをしてくれたわけさ」

杉谷の話について行けず、俺たちは呆然とする。

理解できない…いや、理解したくない。オレたちがこの世界の生贄になるために呼び出されたなんて

「もちろん僕も最初は反対したよ?世界が違うとはいえ、何も知らない人たちを生贄にするなんてって…でもね、王様の説明を聞いてそれも変わったんだ」

クスクスと笑う杉谷。何がそんなに面白いのか。
これ以上話を聞きたくない。聞きたくないのに、杉谷は説明を続ける。

「この召喚魔法で呼び出される人たちはね、横島みたいに苛めをしている奴らが対象なんだって!お前たちみたいに弱者を虐げ、奪い、私腹を肥やしてきり、他人を騙して自分だけ甘い蜜をすすってきた連中ばかりらしいよ!」

「なっ…!?」

「それを聞いてね、僕は反対意見を取り下げたんだ。いじめをするような連中なんて生きててもしょうがないし、この先も反省せずに同じようなことを繰り返すに決まってる。それならせめて、この世界の役に立ってもらおうかなって」

杉谷がそういうと、黒い魔法陣の光がより一層強くなった気がする。そろそろ時間だ、と、杉谷とは別の神官が告げた。

「あぁ、もう時間だって。バイバイ勇者様とその仲間たち、君たちの犠牲は忘れないよ」

杉谷が笑顔でそう言い、手を振ると、兵士たちがオレ達を掴んで魔法陣へと運ぼうとする。

「や、やだぁああああああ!死にたくない!死にたくないぃいいいいいいっ!」

死にたくない!生贄になりたくない!オレ達は必死になって暴れるけど、拘束具に弱体化の魔法でもかけられているのか力が出ない。
なんとか助かりたくて、手を振ってる杉谷を見た。

「ごめんなさい!いじめをしてごめんなさい!もうしないから!もう二度とあんなことしないから!」

「もう遅いよ。前の世界の僕はお前らのせいで死んじゃったんだから。謝ったって許さないよ。どうせ本気で謝ってるわけじゃないだろうし」

「っ…!す、杉谷!オレは許してくれるよな!?だって何もしてないじゃん!」

「そうだね、君は何もせず、ただ後ろでカメラで撮ってただけだもんね。いじめも自分の手を汚さない卑怯者。いざとなったら友達を売る…そんな奴が許されるわけないよね」

「やだぁあああああ!おれはぁ!この世界で勇者の一人として祭り上げられてぇ!栄光を手にするんだぁあああああ!」

「うーん君は勇者ってキャラじゃないよ。後ろについて回る小物だねどうみても。それとさ、君たちって勇者であることを傘に立てて、立ち寄った村や町で横暴なふるまいをしたらしいね。村人も町民も怒ってたよ。あんな奴ら勇者にふさわしくないって」

「ざっけんなよぉキモ谷が!死ね!お前が死ねよ!」

「死なないよ。もう僕はキモ谷なんかじゃない。助けてくれる仲間も、妻もそばにいてくれる。あの頃の僕とは違うんだよ」

魔法陣が近付くにつれ、皆杉谷にこび売ったり、怒鳴ったりするが、あいつはどこ吹く風だ。

そしていよいよ魔法陣から1メートル離れた場所で、友達の一人が放り込まれた。

「ひっ!?や、やだ、やだ、や…がぁあああああああっ!」

魔法陣の中心に落ちた友達は悲鳴を上げながら吸い込まれていく。
その表情は苦痛に満ちていて、入った瞬間どれだけの苦しみが待っているのか容易に想像できた。

「す、杉谷!」

また一人、友達が投げ込まれるのを横目に、オレは杉谷の方を向く。

「ごめん!いじめをしてごめんなさい!お前はキモ谷なんかじゃない!立派な人ですぅうううううう!」

もうプライドとかかなぐり捨てて謝った。どうにかして生き残りたかったからだ。

「許してほしい?」

すると杉谷が考えるそぶりを見せた。許してもらえる。オレはそう期待した瞬間…

「ダメ」

フォッ…と、オレの身体が宙に投げ出された。もう友達は一人もいない。オレで最後のようだ。
宙に投げ出されたオレが最後に見たのは、石でも投げたかのような目で見る兵士たちと、笑顔の杉谷だった…

「あ……?」

気が付いたらオレは真っ暗な場所にいた。
夢だったのか?そう思った瞬間に襲い掛かったのは「痛み」だった。

殴られたような、蹴られたような、斬りつけられたような、刺されたような、表現しようもないほどたくさんの痛みがオレの全身を襲った。

そしたら次は熱くて、寒くて、冷たくて、苦しくて…目の前が何も見えない。

視覚だけが切り離されたようになったオレが感じているのは、苦痛という一言では言い表せられないほどの苦しみだった。

今オレは悲鳴を上げているのか、泣き叫んでいるのか、どうなってるのかわからない…
ただ分かることと言えば、あの時いじめをしなければこんな世界に呼び出されることはなかった。ということだけ…



「いやはや、今回も成功してよかったですな」

「まったくだ。奴らには苦労させられたものだ…だが、おかげで世界の寿命が474年分は延びたらしいぞ」

「お疲れ様です」

「お主もご苦労であった。気分はどうだ?」

「最高です。今までつっかえていたものがようやくとれたようで…これからもこの世界のために尽力を尽くします」

「うむ、期待しているぞ」


横島たちを生贄に捧げて数か月後

王家の間にて、また新たに勇者が召喚された。僕はこの世界を救ってくれる“勇者様”を歓迎するために笑顔を浮かべる。

「ようこそ勇者様!あなたはこの世界を救うべく召喚された勇者様です!」


   
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