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謎の人
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深紅の騎士の鎧の中央に、光の筋が浮き出したかと思うと、彼の鎧は縦真一文字に分解し、それは地面に落ち鈍い金属音をたてた。
生身の体を晒すゴワドン侯爵。
「これで、本当に終わりだな。ソードクーガー様々だ。深紅の騎士も死んだって事だ」
リュランは余裕でおどけてみせたが、ネッドはゴワドンをじっと見つめている。
「何だネッド、もっと喜べよ」
そう言いかけてリュランは、ハッとした。なんと、ゴワドンの顔にも縦方向に光の筋が入っている。
パキン。
光りの筋は現実の元となり、ゴワドンの顔が真っ二つに割れた。いや、正確には”ミミックの面”が、二つに割れたのだ。
「あぁ!? どういうこった! こいつも、ゴワドンの影武者だったって事なのか!!?」
リュランは地面にころがる壊れた面と、その下から露わになった見覚えのない顔を見比べる。年の頃はゴワドンと同年代。だが、全くの別人だ。
「ちくしょう! 何のために苦労して戦ったんだよ。これじゃあ、振り出しに戻ったのも同然だ」
地団駄を踏んで悔しがるリュラン。
「そんなに怒る事ないよ、リュラン」
ネッドは、落ち着き払って言った。
「何が!?」
リュランが、食って掛かる。
「その人は、影武者であって、影武者でない」
ネッドが。謎の言葉を口にした。
「だからよ、こいつはゴワドンじゃねぇんだろ? 誰だって、見りゃわかるよ!」
リュランは、ますます混乱する。謎の人物は、ただネッドを睨むだけだ。
「あぁ、そうだよ。その人はゴワドン侯爵じゃない。本物のゴワドン侯爵は、もうこの世に存在しないんだ」
「えっ?」
余りに意外なネッドの言葉に、リュランは唖然とする。
「本物のゴワドン侯爵は、四十年前に既に死んでいる」
ネッドはゴワドンの方を、悲しそうな目で見つめた。
「全然、わかんねぇぞ。じゃぁ、俺達、いや皆がずっとゴワドンだと思っていたの誰なんだ?」
もう、何が何やらと言わんばかりのリュラン。
「それは、いま目の前にいるこの人だよ。そうですよね。マリオン……、マリオン・ガナレットさん」
ネッドの言葉に、謎の人物が唇を噛む。
「マリオン? どっかで聞いたような名だな。……あっ、そうか。四十年前、ゴワドンの身代わりになってゾラウルフの群れに襲われたっていう……。そうなのか、ネッド」
「あぁ。あの時に、二人は入れ替わったんだよ。つまり狼たちの犠牲になったのは、マリオンじゃなくて、当時まだ子供だったゴワドン少年だったんだ」
ネッドの目は、悲しみに暮れる。
「根拠は、根拠は何だ? いま目の前にいるオッサンが、マリオン・ガナレットだっていう」
リュランの言葉に、ネッドはバッグから髪の毛の束を取り出した。
「僕が最初に深紅の騎士と戦った時、僕は彼の兜を斬り裂いた。その残骸の中にこの髪の毛があったんだよ」
ネッドの手の上には、鮮やかなライトグリーンの毛髪があった。目の前の人物と同じ髪の色だ。
「僕は不思議に思ったよ。兜を切った後に聞こえて来た声は、間違いなくゴワドン卿だった。だけど、彼の髪の毛は僕と同じ茶色だろ?それなのに、どうして兜と一緒に斬られた髪が、マリオン・ガナレットと同じライトグリーンなんだ。
ミミックの面が見せているのは幻だから、斬られた髪は、仮面の下にある人物の本当の髪の色なんだよ」
「……いや、それはかなり弱い推理だぞ。単にミミックの面を被っていた影武者が、偶然ライトグリーンの髪だったって可能性の方がずっと高いんじゃないのか? その色の髪は確かに珍しいけど、一つの家系だけってわけじゃない。実際、メル・ライザーだって似たような色だろう?」
リュランは諜報騎士として、とても納得がいかないという顔をする。
「でもさ、さっきこの人は、アスティに二個目の魂石を練り込んだよね。リュラン、君だって”何で、そんな事が出来るんだ”と言っただろう?
知っての通り、魔石や魂石を使う機能付加職人は、手で魔力を操作する。そうやって石をアイテムに練り込むわけだけど、誰にでも出来る芸当じゃない。基本的には、親から譲り受けた才能なんだよ。だから、機能付加職人は代々続く場合が殆どなわけさ」
ネッドの説明が続く。
「リュランは貴族の子息であるゴワドン卿が、たまたま魂石を練り込める才能があったって思うのかい?」
「そ、そりゃそうだが……。」
リュランが、口ごもる。ライトグリーンの髪。魂石を練り込める才能。少なくとも二つの偶然が重なった事になる。
「それにさ。じゃぁ、何でゴワドン卿は機能付加職人の地位向上に努めたり、騎士養成所時代の僕をことあるごとに助けてくれたんだ。彼が機能付加職人の息子で、僕の父と友達だったからと考えるのが妥当じゃないのか? 」
「……いや、それには反論できるぞ。ゴワドンは、命をマリオンに助けられた。その恩に報いるため、機能付加職人や、短い間ではあったけど、友人と認めた少年の息子であるお前の事を救おうとしたんじゃないのか?
そして最後には、苦しむ人達の為に反乱まで企てた。やり方は間違ってるけど”立派な人”って事なんじゃ……」
リュランが、そう言いかけた時、謎の男が声を張り上げた。
「ふざけるな!!
あいつが、恩に報いる? 苦しむ人達の為? 立派な人? 冗談じゃない。あんなゲス野郎、ひとかけらの情すらない人間のクズだ!」
生身の体を晒すゴワドン侯爵。
「これで、本当に終わりだな。ソードクーガー様々だ。深紅の騎士も死んだって事だ」
リュランは余裕でおどけてみせたが、ネッドはゴワドンをじっと見つめている。
「何だネッド、もっと喜べよ」
そう言いかけてリュランは、ハッとした。なんと、ゴワドンの顔にも縦方向に光の筋が入っている。
パキン。
光りの筋は現実の元となり、ゴワドンの顔が真っ二つに割れた。いや、正確には”ミミックの面”が、二つに割れたのだ。
「あぁ!? どういうこった! こいつも、ゴワドンの影武者だったって事なのか!!?」
リュランは地面にころがる壊れた面と、その下から露わになった見覚えのない顔を見比べる。年の頃はゴワドンと同年代。だが、全くの別人だ。
「ちくしょう! 何のために苦労して戦ったんだよ。これじゃあ、振り出しに戻ったのも同然だ」
地団駄を踏んで悔しがるリュラン。
「そんなに怒る事ないよ、リュラン」
ネッドは、落ち着き払って言った。
「何が!?」
リュランが、食って掛かる。
「その人は、影武者であって、影武者でない」
ネッドが。謎の言葉を口にした。
「だからよ、こいつはゴワドンじゃねぇんだろ? 誰だって、見りゃわかるよ!」
リュランは、ますます混乱する。謎の人物は、ただネッドを睨むだけだ。
「あぁ、そうだよ。その人はゴワドン侯爵じゃない。本物のゴワドン侯爵は、もうこの世に存在しないんだ」
「えっ?」
余りに意外なネッドの言葉に、リュランは唖然とする。
「本物のゴワドン侯爵は、四十年前に既に死んでいる」
ネッドはゴワドンの方を、悲しそうな目で見つめた。
「全然、わかんねぇぞ。じゃぁ、俺達、いや皆がずっとゴワドンだと思っていたの誰なんだ?」
もう、何が何やらと言わんばかりのリュラン。
「それは、いま目の前にいるこの人だよ。そうですよね。マリオン……、マリオン・ガナレットさん」
ネッドの言葉に、謎の人物が唇を噛む。
「マリオン? どっかで聞いたような名だな。……あっ、そうか。四十年前、ゴワドンの身代わりになってゾラウルフの群れに襲われたっていう……。そうなのか、ネッド」
「あぁ。あの時に、二人は入れ替わったんだよ。つまり狼たちの犠牲になったのは、マリオンじゃなくて、当時まだ子供だったゴワドン少年だったんだ」
ネッドの目は、悲しみに暮れる。
「根拠は、根拠は何だ? いま目の前にいるオッサンが、マリオン・ガナレットだっていう」
リュランの言葉に、ネッドはバッグから髪の毛の束を取り出した。
「僕が最初に深紅の騎士と戦った時、僕は彼の兜を斬り裂いた。その残骸の中にこの髪の毛があったんだよ」
ネッドの手の上には、鮮やかなライトグリーンの毛髪があった。目の前の人物と同じ髪の色だ。
「僕は不思議に思ったよ。兜を切った後に聞こえて来た声は、間違いなくゴワドン卿だった。だけど、彼の髪の毛は僕と同じ茶色だろ?それなのに、どうして兜と一緒に斬られた髪が、マリオン・ガナレットと同じライトグリーンなんだ。
ミミックの面が見せているのは幻だから、斬られた髪は、仮面の下にある人物の本当の髪の色なんだよ」
「……いや、それはかなり弱い推理だぞ。単にミミックの面を被っていた影武者が、偶然ライトグリーンの髪だったって可能性の方がずっと高いんじゃないのか? その色の髪は確かに珍しいけど、一つの家系だけってわけじゃない。実際、メル・ライザーだって似たような色だろう?」
リュランは諜報騎士として、とても納得がいかないという顔をする。
「でもさ、さっきこの人は、アスティに二個目の魂石を練り込んだよね。リュラン、君だって”何で、そんな事が出来るんだ”と言っただろう?
知っての通り、魔石や魂石を使う機能付加職人は、手で魔力を操作する。そうやって石をアイテムに練り込むわけだけど、誰にでも出来る芸当じゃない。基本的には、親から譲り受けた才能なんだよ。だから、機能付加職人は代々続く場合が殆どなわけさ」
ネッドの説明が続く。
「リュランは貴族の子息であるゴワドン卿が、たまたま魂石を練り込める才能があったって思うのかい?」
「そ、そりゃそうだが……。」
リュランが、口ごもる。ライトグリーンの髪。魂石を練り込める才能。少なくとも二つの偶然が重なった事になる。
「それにさ。じゃぁ、何でゴワドン卿は機能付加職人の地位向上に努めたり、騎士養成所時代の僕をことあるごとに助けてくれたんだ。彼が機能付加職人の息子で、僕の父と友達だったからと考えるのが妥当じゃないのか? 」
「……いや、それには反論できるぞ。ゴワドンは、命をマリオンに助けられた。その恩に報いるため、機能付加職人や、短い間ではあったけど、友人と認めた少年の息子であるお前の事を救おうとしたんじゃないのか?
そして最後には、苦しむ人達の為に反乱まで企てた。やり方は間違ってるけど”立派な人”って事なんじゃ……」
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