ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

文字の大きさ
3 / 218

亡者の戦車 《後編》・パパの誤算

しおりを挟む
「おかみさんは、まだやっぱり悩み続けたわけさ。どうするかってね。その時、またさっきと同じ音が聞こえて来たんだよ。しかもその音は、前のよりもずっと大きかった。

その時はさすがに悪党一味も全員が気が付いて、窓から外を見てみたけどやっぱり何もない。でも一味の痩せた一人がポツンとつぶやいたんだ」

パパはそこで一呼吸おきました。もちろん、ニールの歓心を引くためです。

「亡者の戦車じゃないよな」

パパはニールの顔を見つめ、意味ありげに言いました。

ここでまた少しお断り。ここでいう戦車とは、砲塔を積んでキャタピラで走る兵器ではありません。一人用の小さな二輪の乗物を馬に引かせる兵器です。古代ローマなどで使われたものですね。

「亡者の戦車? 幽霊が駆る戦車が、悪党を地獄へ連れて行くっていう? バカ言ってんじゃねぇよ。そんなのお伽噺だろうが。二人目の太った男が顔の前で手を振った」

パパが、話を続けます。

「もうじゃのせんしゃ? 何なのそれ?」

案の定、ニールが食いついてきました。パパの思った通りです。

「亡者の戦車ってのはな。今夜みたいに吹雪や嵐が荒れ狂う夜。あの世からやって来て、悪人を地獄へ連れて行ってしまう、幽霊の操る一人乗りの馬車みたいなもんだ。言い伝えによれば、乗り手も車を引く馬もどっちもガイコツ。二つの車輪からは青白い炎を発していると言われてるんだ」

パパは、さもおどろおどろしくニールに語りかけました。

「パパは見たことあるの?」

ニールは、パパの腕を掴みます。

「いや、ないよ。パパは悪人じゃないからね」

ニールはホッとしました。パパが亡者の戦車に連れて行かれたら、とても悲しいからです。ただ、ママは”どうだか”という顔をしています。

「で、この亡者の戦車には約束事があるんだよ。戦車の音が二回までは改心する機会が与えるけれど、三回聞いたら問答無用で地獄に連れて行かれるってものだ。だから、三人目の背の高い悪党はこう言ったね。

”なぁ、やっぱり王様を襲う計画は、やめた方がいいんじゃないか”って。

だけど太った悪党が途端に言い返したんだよ。”お前まで迷信を怖がってどうするんだ”とね」

さぁ、パパのお話もクライマックスです。

パパは心の中でほくそ笑みながら、

「ゴ――――ッ!!! その時、今まで聞いた中で一番大きな音が鳴ったんだ」

突然の大声に驚いたニールは、危うくソファーからころげ落ちそうになりました。してやったりと言わんばかりの、得意満面なパパの顔。

「三度驚いたおかみさんが、おもてへ出てみると、宿屋の前の道にはクッキリとわだちが残っていた。わだちってのは、車輪の跡って意味だ。しかもそれは、青白い炎のわだちだったんだよ。

おかみさんが恐る恐る通りの向こうへ目をやると、そこには遠くへ走り去って行く、青白い二つの丸い車輪の炎が見えたのさ。馬のいななきと一緒にね」

「やっぱり、亡者の戦車がやって来たの?」

ニールが、恐る恐る尋ねた。

「そうさ。おかみさんもそう思って、急いで三人組の部屋の前まで行ってみたんだ。だけど、前に来た時のような話し声は何もしない。寝てしまったのかとも考えて、鍵穴からそっと覗いてみたんだけど、明かりはついているのに、男たちの姿は全くない。

おかみさんは覚悟を決めて、エイとばかりに部屋の扉を開けてみた。でもそこには誰もいなかったんだ。本当に誰一人ね。念のため、クローゼットやベッドの下まで探したけど、人っ子一人いないんだ」

パパはニ―ルが真相に気づいていると思いましたが、あえてそれには触れませんでした。

「で、おかみさんは、とっさに思い出したんだ。青白い二つの車輪のすぐ後ろに黒い影が三つばかり繋がれて、激しく引きずられていた事に! わかるかい? そう! 三人の悪党は地獄へ連れて行かれてしまったんだよ!!」

役者のように、パパは大げさに手を振りかざして叫びました。

「きゃっ!」

予想していた事とはいえ、余りの恐ろしさに、ニールはクッションを頭に乗せてうずくまります。

「はい、そこまで!」

見るに見かねて、ママが止めに入りました。

「さぁ、お話は終わったわ。ニール、早く部屋に行ってもう寝なさい」

ニールは少し迷います。だって、今夜は亡者の戦車が出そうな、ひどい吹雪の晩なんですもの。

「ほらほら、ママの言う事を聞かないと、亡者の戦車がやって来るぞ」

パパが、調子に乗って追い打ちをかけます。

「パパ!」

ママがパパを、キッと睨みました。

ニールは渋々、自分の部屋へと退散します。

パパはといえば、思い通りの演出が出来たとニンマリ顔。

「ちょっと、パパ。何であんな話をするのよ。ニール、凄く怖がってたじゃない」

ママのご機嫌が、ドンドン下り坂になっていきます。

パパは、飲みかけのココアに手を伸ばしながら、

「いやぁ、いつあの話をするか、ニールが生まれた時からずっと機会を伺ってたんだよ。それがついに、今晩やってきたわけさ」

と、言いました。

「もしかして、あなたも自分のお父さんに同じ事をされたのね?」

ママの勘が、冴え渡ります。

「ご名答。まぁ、親父も僕の爺さんに同じ目に遭ったっていうから、これはもう、我が家の伝統行事だよ、ハハハ」

パパの笑い声と共にママも一緒に笑いましたが、目は少しも笑っていません。パパは、背筋が少し寒くなりました。

「じゃぁ、責任を取って、ニールが今晩、トイレに一人で行けないって私たちの寝室のドアを叩いたら、あなたが一緒に行ってくださいな」

「え? 僕、明日早いんで、それは勘弁してほしい……な……ぁ」

と、言いかけましたが、ママの鬼のように変わった顔を目の当たりにしたパパは、渋々承知をしました。

案の定、夜中に二回もニールに起こされて、パパが寝不足になったのは言うまでもありません。

【亡者の戦車・終】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...