80 / 218
扉の奥の秘宝 (21) 意外な展開
しおりを挟む
フューイは道具を静かに鍵穴から引き抜き、元の箱へと収めます。そして腰掛けていた台を廊下の後ろへと移動させ、自らも立ち上がりました。
フューイの右手が、扉の角ばった取っ手を掴みます。彼に戸惑いが全くないと言えばそれは嘘になりますが、勝利者の余韻に浸りながら、フューイは取っ手を回し、ドアを手前に引きました。
「こ、これは……」
壁に囲まれた宝物庫の中は、意外にも沢山の魔法ランプが設置され、暗さは全く感じません。扉が開くと、自動的に点灯する仕組みになっていたようです。
宝の倉に納めらていた、意外な秘宝を目の当たりにし、フューイは戸惑います。
その時です。廊下の向こう側からドタドタと大きな音が鳴り、その何かはフューイの横を黒い風のように通り過ぎました。
「おぉ、おぉ、これが秘宝か!やっぱりすげぇ。噂にたがわぬ金銀財宝が、山盛りだぜ!」
フューイを追い越し、宝の山の前に陣取ったのはゾルウッドでした。フューイが扉を開き、宝物庫の中へ入ったの見て、一目散に駆けつけてきたのでしょう。
そこら中に散らばった黄金の冠や宝石の数々を手に取りながら、ゾルウッドは狂喜乱舞をしています。
ひとしきり財宝を吟味したゾルウッドは、
「よぉ、あんたやったなぁ。大したもんだ。恐れ入ったとしか言いようがねぇぜ」
中年細工師は、まるで自分の事のように喜びます。でも、おかしいですね。これで勝負はフューイの勝ちです。ゾルウッドには一銭のお金も入りません。ゾルウッドって、お金の事よりもライバルの勝利を喜ぶような男でしたっけ?
「あぁ、しかし……」
フューイが、喋りかけようとすると、
「いや、本当によくやってくれたよ。俺も鍵開けには相当の自信があったんだが、正直言って殆ど手に負えなかった。あんたが今日開けられなかったら、”諦めて”いたところだぜ」
ゾルウッドが、大笑いをしながら言いました。
フューイは、怪訝な顔をします。
「……? 諦めるってどういう事だ。オレが今日、開けられなかったら、あんたが明日、挑戦するはずだろう」
なるほど、それは確かにフューイの言う通りです。ゾルウッドには明日、最後のチャンスが与えられるのに、どうして今日、フューイが開けられなかったら諦めるのでしょうか? もし既に自分自身が鍵を開ける事を諦めていたのだったら、少なくとも前日にゾルウッドが失敗した時に、既に諦めているはずですよね。
「あぁ、そうだな。普通に考えりゃ、確かにそうだ。だけど、そうじゃねぇんだよ」
ゾルウッドの顔が、少しずつ変わっていきます。別に顔の形が変化しているのではありません。人相そのものが、すごく悪くなっていっているのです。
「ワケが分からんな”色々な意味”で。だが、そんな事はどうでもいい。オレはボンシックに報告へ行く。お前はどうする」
鍵開け勝負に勝った事を、微塵も自慢する様子のないフューイ。
「報告? そんな事をしてもらっちゃ困るんだ。せっかくの計画が台無しだからな」
フューイの右手が、扉の角ばった取っ手を掴みます。彼に戸惑いが全くないと言えばそれは嘘になりますが、勝利者の余韻に浸りながら、フューイは取っ手を回し、ドアを手前に引きました。
「こ、これは……」
壁に囲まれた宝物庫の中は、意外にも沢山の魔法ランプが設置され、暗さは全く感じません。扉が開くと、自動的に点灯する仕組みになっていたようです。
宝の倉に納めらていた、意外な秘宝を目の当たりにし、フューイは戸惑います。
その時です。廊下の向こう側からドタドタと大きな音が鳴り、その何かはフューイの横を黒い風のように通り過ぎました。
「おぉ、おぉ、これが秘宝か!やっぱりすげぇ。噂にたがわぬ金銀財宝が、山盛りだぜ!」
フューイを追い越し、宝の山の前に陣取ったのはゾルウッドでした。フューイが扉を開き、宝物庫の中へ入ったの見て、一目散に駆けつけてきたのでしょう。
そこら中に散らばった黄金の冠や宝石の数々を手に取りながら、ゾルウッドは狂喜乱舞をしています。
ひとしきり財宝を吟味したゾルウッドは、
「よぉ、あんたやったなぁ。大したもんだ。恐れ入ったとしか言いようがねぇぜ」
中年細工師は、まるで自分の事のように喜びます。でも、おかしいですね。これで勝負はフューイの勝ちです。ゾルウッドには一銭のお金も入りません。ゾルウッドって、お金の事よりもライバルの勝利を喜ぶような男でしたっけ?
「あぁ、しかし……」
フューイが、喋りかけようとすると、
「いや、本当によくやってくれたよ。俺も鍵開けには相当の自信があったんだが、正直言って殆ど手に負えなかった。あんたが今日開けられなかったら、”諦めて”いたところだぜ」
ゾルウッドが、大笑いをしながら言いました。
フューイは、怪訝な顔をします。
「……? 諦めるってどういう事だ。オレが今日、開けられなかったら、あんたが明日、挑戦するはずだろう」
なるほど、それは確かにフューイの言う通りです。ゾルウッドには明日、最後のチャンスが与えられるのに、どうして今日、フューイが開けられなかったら諦めるのでしょうか? もし既に自分自身が鍵を開ける事を諦めていたのだったら、少なくとも前日にゾルウッドが失敗した時に、既に諦めているはずですよね。
「あぁ、そうだな。普通に考えりゃ、確かにそうだ。だけど、そうじゃねぇんだよ」
ゾルウッドの顔が、少しずつ変わっていきます。別に顔の形が変化しているのではありません。人相そのものが、すごく悪くなっていっているのです。
「ワケが分からんな”色々な意味”で。だが、そんな事はどうでもいい。オレはボンシックに報告へ行く。お前はどうする」
鍵開け勝負に勝った事を、微塵も自慢する様子のないフューイ。
「報告? そんな事をしてもらっちゃ困るんだ。せっかくの計画が台無しだからな」
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる