168 / 218
魔女と奇妙な男 (45) ふさわしい主
しおりを挟む
「まだ、薬があるの……!?」
良く考えてみればわかる話ですが、現代のヴォルノースにあるはずのない禁忌の薬が、そう何本もあるとは思ってもみなかったネリスでした。恐怖が彼女の判断力を、鈍らせていたのかも知れません。
メサイトは器用に片手で小瓶のフタを開けると、グイッとばかりに一気に中身を飲み干しました。
「この神秘の薬。効き目は抜群なんだが、効いている時間が短くていけねぇ」
その言葉が終るか終わらない内に、メサイトの体は再びグングンと大きくなっていきます。彼が巨大化するのと同時に、腕を掴まれたネリスの足も自然と床から離れていきました。
「いたっ、痛い!」
腕一本でメサイトに吊り上げられているネリスがたまらず叫びます。
「おぉ、いい悲鳴だ。今まで生意気な口をきいてくれた礼をしてやろう」
化け物と化した男は、ネリスを捕まえている腕をブルンと振るい、彼女をホールの奥まで軽々と投げ飛ばしました。
「きゃっ!」
そのままホールの床に叩きつけられるネリス。かなりの衝撃を受けたのでしょう。しばらくは、体をピクリとも動かしません。
「おい、死んじまったんじゃないだろうな? それじゃぁ、こっちが困るんだ」
再び高揚した声で、メサイトが冗談めかして言いました。
ネリスの頭はクラクラとし、さっきおやつに食べたドーナツを吐き出しそうになりましたが、グッとこらえて何とかその場に片膝を立てます。どうやら体重が軽い分、思ったよりもダメージは少なかったようですね。ですが、それでも体中があらん限りの悲鳴をあげています。
「ネ、ネリスさん!
メサイト、も、もうやめてくれ!」
サジルが叫びます。自分の息子と同年代のか細い少女が、凶悪な化け物の餌食になろうとしているのです。彼はもう見ていられませんでした。
「はぁ? そんな事を言っていいのかよ。オレの一言で、先祖代々続いてきた店がブッ潰れるんだぜ?」
ネリスの方へ近づいていくメサイトが、肩越しに言いました。
「……い、いいさ。もういい」
サジルが、小さく呟きます。
「なんだって~っ? 聞こえねぇぞぉ」
本当は聞こえているメサイトですが、サジルをいたぶるように嫌味ったらしく尋ねました。
「もう、いいって言ってるんだよ!」
立ち上がり、背筋をシャンとさせたサジルが言い放ちます。
「……わ、私は、勘違いをしていた。
百年続いた商会を潰さないのが、私の使命だと思っていた。だから、心ならずもお前の言う事を聞いてきたんだ。
……でも、本当は違うんだ」
「何が違うってんだ?」
少し興味を覚えたメサイトは、振り返り立ち止まりました。
「私は……、私自身が商会を潰す張本人になるのが嫌だったんだ。しかも、お前のような奴に騙されて!
身内や世間に、百年の歴史を滅茶苦茶にした無能な愚か者と嘲られる事が怖ろしかった、恥ずかしかった。それを想像すると、夜も満足に寝られなかったよ。
そして何より、自分がそんなくだらない存在だと、自分自身が認めるのが嫌だった。だから、店を守るためだなんていう言い訳をして、自分を誤魔化していただけなんだよ!
こんな、自分の事しか考えない私は、百年の歴史ある店の主にふさわしくない、とんだ大馬鹿もんだ!」
サジルのふくよかな頬には、両の目から流れ出た大粒の雫がボロボロと伝っています。でもその涙は、長年こびりついていた彼の心の汚れを綺麗さっぱりと洗い流してくれました。
大変皮肉な話ですが、サジルは今、はじめて百年の歴史を持つ商会の主として、ふさわしい人物になったのです。
良く考えてみればわかる話ですが、現代のヴォルノースにあるはずのない禁忌の薬が、そう何本もあるとは思ってもみなかったネリスでした。恐怖が彼女の判断力を、鈍らせていたのかも知れません。
メサイトは器用に片手で小瓶のフタを開けると、グイッとばかりに一気に中身を飲み干しました。
「この神秘の薬。効き目は抜群なんだが、効いている時間が短くていけねぇ」
その言葉が終るか終わらない内に、メサイトの体は再びグングンと大きくなっていきます。彼が巨大化するのと同時に、腕を掴まれたネリスの足も自然と床から離れていきました。
「いたっ、痛い!」
腕一本でメサイトに吊り上げられているネリスがたまらず叫びます。
「おぉ、いい悲鳴だ。今まで生意気な口をきいてくれた礼をしてやろう」
化け物と化した男は、ネリスを捕まえている腕をブルンと振るい、彼女をホールの奥まで軽々と投げ飛ばしました。
「きゃっ!」
そのままホールの床に叩きつけられるネリス。かなりの衝撃を受けたのでしょう。しばらくは、体をピクリとも動かしません。
「おい、死んじまったんじゃないだろうな? それじゃぁ、こっちが困るんだ」
再び高揚した声で、メサイトが冗談めかして言いました。
ネリスの頭はクラクラとし、さっきおやつに食べたドーナツを吐き出しそうになりましたが、グッとこらえて何とかその場に片膝を立てます。どうやら体重が軽い分、思ったよりもダメージは少なかったようですね。ですが、それでも体中があらん限りの悲鳴をあげています。
「ネ、ネリスさん!
メサイト、も、もうやめてくれ!」
サジルが叫びます。自分の息子と同年代のか細い少女が、凶悪な化け物の餌食になろうとしているのです。彼はもう見ていられませんでした。
「はぁ? そんな事を言っていいのかよ。オレの一言で、先祖代々続いてきた店がブッ潰れるんだぜ?」
ネリスの方へ近づいていくメサイトが、肩越しに言いました。
「……い、いいさ。もういい」
サジルが、小さく呟きます。
「なんだって~っ? 聞こえねぇぞぉ」
本当は聞こえているメサイトですが、サジルをいたぶるように嫌味ったらしく尋ねました。
「もう、いいって言ってるんだよ!」
立ち上がり、背筋をシャンとさせたサジルが言い放ちます。
「……わ、私は、勘違いをしていた。
百年続いた商会を潰さないのが、私の使命だと思っていた。だから、心ならずもお前の言う事を聞いてきたんだ。
……でも、本当は違うんだ」
「何が違うってんだ?」
少し興味を覚えたメサイトは、振り返り立ち止まりました。
「私は……、私自身が商会を潰す張本人になるのが嫌だったんだ。しかも、お前のような奴に騙されて!
身内や世間に、百年の歴史を滅茶苦茶にした無能な愚か者と嘲られる事が怖ろしかった、恥ずかしかった。それを想像すると、夜も満足に寝られなかったよ。
そして何より、自分がそんなくだらない存在だと、自分自身が認めるのが嫌だった。だから、店を守るためだなんていう言い訳をして、自分を誤魔化していただけなんだよ!
こんな、自分の事しか考えない私は、百年の歴史ある店の主にふさわしくない、とんだ大馬鹿もんだ!」
サジルのふくよかな頬には、両の目から流れ出た大粒の雫がボロボロと伝っています。でもその涙は、長年こびりついていた彼の心の汚れを綺麗さっぱりと洗い流してくれました。
大変皮肉な話ですが、サジルは今、はじめて百年の歴史を持つ商会の主として、ふさわしい人物になったのです。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる