ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (46) 化け物の嘲り

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「あぁ、つまらねぇ、つまらねぇ!

結構なご高説だがよ。オレはそう言うのが、一番嫌れぇなんだ。

お前みたいに大した覚悟も能力もない奴が、生まれながらに大商会の跡取りになる事が決まっている。それに引き換え、生まれが悪いばっかりに覚悟も能力もあるのによ、底辺で働かなきゃいけねぇオレみたいなのもいる。

だからお前が赤子の手をひねる様に簡単に騙されて、そのあげくにオレのいいなりになっているのを見るのは楽しかったぜぇ」

メサイトが、首を振りながら言いました。

「そうかい。そりゃあ、愉快だったろうな。でも私にとっては、もうどうでもいい事だ。

それよりも、悪事はもうここらでやめておかないか」

サジルが、メサイトの目を睨みます。化け物と化している彼の両眼は酷く恐ろしいものでしたが、サジルは一歩も引きません。

「なんだぁ? てめぇ、開き直っていい気になってんじゃねぇぞ!」

今まで王様と奴隷のような関係だったサジルに、こうもハッキリと言われてしまい、メサイトの神経はたかぶります。

「小娘の前に、まずはお前に仕置きをしてやらにゃあ、ダメみたいだな」

メサイトはその巨体を揺らしながら、サジルの方へゆっくりと近づいていきました。

「ネリスさん、逃げて!」

サジルは、メサイト越しに声を張り上げました。そしてポケットから、小さな折り畳みナイフを取り出します。

この武器は本来、誰かを傷つける為にあるのではありません。「悪い筋とは、迷わず縁を”切る”」という、商会始まってからの家訓を表す象徴的なアイテムなのです。今まさにメサイトと縁を切る決意をしたサジルにとって、この品は彼に勇気を与えるものとなりました。

ですがメサイトは、ナイフを前に突き出すサジルをゆったりと眺めながら、

「お前はバカか。そんなもんで、オレ様をどうにか出来るとでも?」

と、高笑いをします。もちろんサジルにだって、そんな事は分かっています。でも、ネリスが逃げられる隙さえ作れれば、それでいいと彼は思っていました。

一方ネリスは、その場に立ち尽くします。どうしていいのか、わからないのです。

サジルさんを、見捨てて逃げていいのか? だけど、私に助けられるわけもない。それなら外へ行って助けを呼んだ方が……。この建物に裏口はないし、でも出口への通路は、メサイトの脇を通らないといけないし……。

体中の痛みが、ネリスの思考を邪魔します。

「こら、小娘! 逃げるんじゃねぇぞ」

メサイトが振り向き、ネリスをねめつけました。彼女は、再び化け物となった恐ろしい彼の目に恐怖しますが、サジルの振る舞いを見て勇気を絞り出します。

ネリスは全身を貫く痛みに耐えながら、メサイトとサジルの脇をすり抜けるべく、全速力で駆け出しました。

「ええいっ!」

それを見たサジルは大声で叫びながら、ナイフを振りかざして化け物へと突進します。でもオモチャのような刃物が、化け物に届くわけもありません。

「ほうら、どうした、どうした、サジルさんよぉ。お前の決意は、その程度のもんか?」

メサイトはせせら笑いながら、いとも簡単にサジルの刃をかわしていきました。

「ハァッ、ハァッ」

サジルの激し息づかいが聞こえます。生まれてこのかた、殴り合いの経験すらない彼には無理からぬ事でした。

そして彼の全身を、化け物の影が覆います。顔を上げ、間近に迫ったメサイトに向かい、思い切りナイフを振るうサジル。恐らくこれが、最後の一撃となるでしょう。
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