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魔女と奇妙な男 (52) 誤算
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間一髪、踏みとどまったネリスですが、その場にペタンと座り込んでしまいます。新米魔女の顔は、恐怖で青ざめていきました。
「逃げるなよ、小娘!」
激情に支配され、滅茶苦茶に暴れているだけだと思われたメサイトでしたが、見る所は見ていたわけですね。クレオンは、化け物を少々甘く見ていたようですね。しかし彼の誤算は、これだけではなかったのです。
すっくと立ち上がったメサイトは、反撃とばかりにパンチのラッシュをクレオンへと浴びせかけます。そのスピードたるや尋常ではなく、流石のクレオンも対処に苦慮する事となりました。もしまともに食らってしまえば、彼とて只では済まない威力です。
ようやく落ち着きを取り戻したネリスが、戦いの行方を見守ります。そして、少し変な事に気がつきました。先ほどはメサイトに大きなダメージを与えたクレオンでしたが、今は防戦一方に回っているのです。
どうしたのかしら。レアロンとの戦いを見る限りでは、決してさっきの技だけではないんじゃないの……?。
そうなんです。ネリスに向かって鉄の塊を投げて以来、メサイトは彼女を逃さぬよう位置取りを考えながら攻撃を繰り出しています。そのため十分な攻めは出来ていないように見えました。これは逆に言えば、クレオンに取って間違いなくチャンスです。しかし、何故か守勢に回っていました。
あ、もしかして。
ネリスは、ピンときます。
クレオンさんは、禁忌の薬の効果切れを狙っているんじゃ……。
なるほど。これは説得力のある発想ですね。この薬の持続時間がそれほど長くない事は、ネリスが目の前で見ていますし、なによりメサイト自身が認めています。クレオンとしては、防御に徹し体力を温存する作戦なのでしょう。そして効果切れを狙って、一気に叩く。一番確実であり、ネリスたちの安全も最大限に担保できそうです。
そうだ。奴があの頼りない姿に戻れば、クレオンさんの楽勝だ!
ネリスの心は、歓喜に沸き立ちました。しかしその端っこで、何やら不愉快な塊がうごめき出します。
でも……、遅くない……?
彼女は、心の中で呟きます。
時計で計っていたわけではないのですが、メサイトがネリスの前で最初に薬を飲んでから元に戻るまでの時間は、それほど長くはありませんでした。しかし二回目に薬を飲んでから、もうかなりの時間が経っているのに、メサイトの体は小さくなる気配を見せません。むしろ、生き生きと躍動している印象さえあるのです。
どうして? なぜ?
ネリスの頭の中で、疑問が渦巻き始めます。
薬びんの大きさは、同じだったように思う。中身の色も同じだった。同じ薬で同じ量なら、もうとっくにメサイトは只の若造に戻っているはずなのに!
全く説明がつかない事態に、やっと息を吹き返してきたネリスの希望は、また少しずつしぼんでいきました。
おかしい。
この時、クレオンもまたネリスと同じ思いでした。メサイトがネリスたち相手に弁舌を振るう前から、クレオンは彼女たちの後にピッタリとついておりました。当然ながら、ネリス以上に、彼は禁忌の薬の効果時間を把握していたはずです。
一行に衰える事のない化け物の攻撃を受けながら、クレオンは自らの誤算を決定的なものとして感じざるを得ませんでした。
「逃げるなよ、小娘!」
激情に支配され、滅茶苦茶に暴れているだけだと思われたメサイトでしたが、見る所は見ていたわけですね。クレオンは、化け物を少々甘く見ていたようですね。しかし彼の誤算は、これだけではなかったのです。
すっくと立ち上がったメサイトは、反撃とばかりにパンチのラッシュをクレオンへと浴びせかけます。そのスピードたるや尋常ではなく、流石のクレオンも対処に苦慮する事となりました。もしまともに食らってしまえば、彼とて只では済まない威力です。
ようやく落ち着きを取り戻したネリスが、戦いの行方を見守ります。そして、少し変な事に気がつきました。先ほどはメサイトに大きなダメージを与えたクレオンでしたが、今は防戦一方に回っているのです。
どうしたのかしら。レアロンとの戦いを見る限りでは、決してさっきの技だけではないんじゃないの……?。
そうなんです。ネリスに向かって鉄の塊を投げて以来、メサイトは彼女を逃さぬよう位置取りを考えながら攻撃を繰り出しています。そのため十分な攻めは出来ていないように見えました。これは逆に言えば、クレオンに取って間違いなくチャンスです。しかし、何故か守勢に回っていました。
あ、もしかして。
ネリスは、ピンときます。
クレオンさんは、禁忌の薬の効果切れを狙っているんじゃ……。
なるほど。これは説得力のある発想ですね。この薬の持続時間がそれほど長くない事は、ネリスが目の前で見ていますし、なによりメサイト自身が認めています。クレオンとしては、防御に徹し体力を温存する作戦なのでしょう。そして効果切れを狙って、一気に叩く。一番確実であり、ネリスたちの安全も最大限に担保できそうです。
そうだ。奴があの頼りない姿に戻れば、クレオンさんの楽勝だ!
ネリスの心は、歓喜に沸き立ちました。しかしその端っこで、何やら不愉快な塊がうごめき出します。
でも……、遅くない……?
彼女は、心の中で呟きます。
時計で計っていたわけではないのですが、メサイトがネリスの前で最初に薬を飲んでから元に戻るまでの時間は、それほど長くはありませんでした。しかし二回目に薬を飲んでから、もうかなりの時間が経っているのに、メサイトの体は小さくなる気配を見せません。むしろ、生き生きと躍動している印象さえあるのです。
どうして? なぜ?
ネリスの頭の中で、疑問が渦巻き始めます。
薬びんの大きさは、同じだったように思う。中身の色も同じだった。同じ薬で同じ量なら、もうとっくにメサイトは只の若造に戻っているはずなのに!
全く説明がつかない事態に、やっと息を吹き返してきたネリスの希望は、また少しずつしぼんでいきました。
おかしい。
この時、クレオンもまたネリスと同じ思いでした。メサイトがネリスたち相手に弁舌を振るう前から、クレオンは彼女たちの後にピッタリとついておりました。当然ながら、ネリス以上に、彼は禁忌の薬の効果時間を把握していたはずです。
一行に衰える事のない化け物の攻撃を受けながら、クレオンは自らの誤算を決定的なものとして感じざるを得ませんでした。
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