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魔女と奇妙な男 (56) 本気
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既に覚悟を決めていたネリスは、どうにか外へ出る方法がないかと辺りを見回します。しかし、窓はきっちりとヨロイ戸まで閉じられていますし、この倉庫には裏口がありません。やっぱり、メサイトの横をすり抜けなければ、脱出は出来ないのです。
早くも行き詰ったネリスが、再びクレオンの方へ目をやると……。
彼の姿かたちは、やっぱり前と変わりません。メサイトのように逞しく変貌なんてしていません。でもネリスは、クレオンの全身から流れ出る風のようなものを感じていました。
何、これは何?
これは魔力、っていうか魔法その物のような……。
突然の事に、今はそういう捉え方しか出来ないネリスでしたが、明らかにその魔法の気配はクレオンの体から溢れて出ているのです。
「ラウンド再開だ、化け物くん!」
ホールには、いつものステップ音が僅かに響いた気がしました。ですが、それは余りに小さく短いもので、感覚機能が異常に発達したメサイトにすら、空耳のようにしか聞こえません。
次の瞬間、クレオンは今までの数倍の速さでメサイトへと迫ります。ネリスには、何が起こったのか全くわからない状況でした。それはメサイトも同じですが、彼は頭で考えるよりも先に”何か”を感覚として捉えます。正に、化け物のなせる業でしょう。
その発達した反射神経と筋肉を使い、メサイトはかろうじて体を横へと移動させました。それが正しい判断なのかは、メサイト自身にもわかりません。
一陣の風が、化け物の脇を吹き抜けようとします。メサイトの脳裏には”よし、かわした”という言葉が、瞬間的に浮かびました。
しかしその風は、メサイトの頭に浮かんだその言葉が終るか終わらないかの内に、直角に風向きを変えます。そのスピードたるや、ステップによる方向転換が、スローモーションに思えるほど凄まじいものでした。
そして次にメサイトが見たものは、クレオンのブーツでした。彼の蹴りが、メサイトの頬を直撃します。余りの突然さに、顔に衝撃を受けた事は理解できても、それ以上は考える余裕のないメサイト。彼の体は放物線を描くように、ホール奥の壁へと激突しました。大音響と共に、壁の一部が崩れ落ちます。
「痛ってぇ……。ちくしょう。何がどうなってんだ? 禁忌の薬を使ったわけでもねぇのに」
壁にぶつけた後頭部をさすりながら、メサイトが言いました。頬は真っ赤に腫れあがっています。
「じゃぁ、一気に決めさせてもらうよ」
大風呂敷を広げただけではない事を証明したクレオンですが、彼の顔は笑顔ではいるものの、その目は全く笑っておりません。言葉通り、早々にメサイトを仕留めるつもりなのでしょう。
醜い巨体が矢のように飛んで行くのを、目の当たりにしたネリス。助かる見込みが出た喜びもどこへやら、ただ呆気に取られるばかりでした。
いったい、何が起こったの? クレオンさんの飲んだ液体が、禁忌の薬でないのは明らかだけど、じゃぁ、どうしてあんな超人的な力が出せるわけ!?
幾ら考えても、ネリスには想像すらつきません。でもクレオンの方を見ると、やはり彼の体からは、相変わらず魔法の空気のようなものが流れて出ているのをネリスは感じました。
ネリスの好奇心は、これほど緊縛した状況の中でもその首をもたげます。
早くも行き詰ったネリスが、再びクレオンの方へ目をやると……。
彼の姿かたちは、やっぱり前と変わりません。メサイトのように逞しく変貌なんてしていません。でもネリスは、クレオンの全身から流れ出る風のようなものを感じていました。
何、これは何?
これは魔力、っていうか魔法その物のような……。
突然の事に、今はそういう捉え方しか出来ないネリスでしたが、明らかにその魔法の気配はクレオンの体から溢れて出ているのです。
「ラウンド再開だ、化け物くん!」
ホールには、いつものステップ音が僅かに響いた気がしました。ですが、それは余りに小さく短いもので、感覚機能が異常に発達したメサイトにすら、空耳のようにしか聞こえません。
次の瞬間、クレオンは今までの数倍の速さでメサイトへと迫ります。ネリスには、何が起こったのか全くわからない状況でした。それはメサイトも同じですが、彼は頭で考えるよりも先に”何か”を感覚として捉えます。正に、化け物のなせる業でしょう。
その発達した反射神経と筋肉を使い、メサイトはかろうじて体を横へと移動させました。それが正しい判断なのかは、メサイト自身にもわかりません。
一陣の風が、化け物の脇を吹き抜けようとします。メサイトの脳裏には”よし、かわした”という言葉が、瞬間的に浮かびました。
しかしその風は、メサイトの頭に浮かんだその言葉が終るか終わらないかの内に、直角に風向きを変えます。そのスピードたるや、ステップによる方向転換が、スローモーションに思えるほど凄まじいものでした。
そして次にメサイトが見たものは、クレオンのブーツでした。彼の蹴りが、メサイトの頬を直撃します。余りの突然さに、顔に衝撃を受けた事は理解できても、それ以上は考える余裕のないメサイト。彼の体は放物線を描くように、ホール奥の壁へと激突しました。大音響と共に、壁の一部が崩れ落ちます。
「痛ってぇ……。ちくしょう。何がどうなってんだ? 禁忌の薬を使ったわけでもねぇのに」
壁にぶつけた後頭部をさすりながら、メサイトが言いました。頬は真っ赤に腫れあがっています。
「じゃぁ、一気に決めさせてもらうよ」
大風呂敷を広げただけではない事を証明したクレオンですが、彼の顔は笑顔ではいるものの、その目は全く笑っておりません。言葉通り、早々にメサイトを仕留めるつもりなのでしょう。
醜い巨体が矢のように飛んで行くのを、目の当たりにしたネリス。助かる見込みが出た喜びもどこへやら、ただ呆気に取られるばかりでした。
いったい、何が起こったの? クレオンさんの飲んだ液体が、禁忌の薬でないのは明らかだけど、じゃぁ、どうしてあんな超人的な力が出せるわけ!?
幾ら考えても、ネリスには想像すらつきません。でもクレオンの方を見ると、やはり彼の体からは、相変わらず魔法の空気のようなものが流れて出ているのをネリスは感じました。
ネリスの好奇心は、これほど緊縛した状況の中でもその首をもたげます。
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