ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (89) 使い魔の誓い

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「そこで私オリジナルの要素を、いえ、オリジナルと言っては、ご先祖様に失礼になるわね。まぁ、彼女のアイデアを元に、独自に考えてみたわけなの。

というのはね、ご先祖様の仕えていた王は、より強力な薬の開発を彼女に命じたのよ。彼以外の王たちも普通に禁忌の薬を使っていたのだから、より強力なものをと考えるのは当然だわね」

ティシカの目が、冷たく光りました。

「実はね。それについても、彼女の日記に少しだけ書いてあったのよ。それはね、兵士だけではなく、領民にも薬を使う計画」

ティシカが話を続けようとすると、彼女の使い魔が、

「い、いや。それは、無理なのでは? 禁忌の薬は、ベースとなる肉体の力を強化するものだと理解しています。元々、戦闘に向いていない只の領民を強化しても、戦力の増強などたかが知れているでしょう?」

と、思わず口をはさみます。

「そうね、その通り。だけどね、よく考えてみてちょうだい。

メサイト坊やは、兵士のように立派な体や心を持っていたかしら?」

ティシカは使い魔の無礼を咎める事もなく、話を先へと進めました。

そうだ……。私はかねがね、どうしてマダムがメサイトのような”ひ弱な”何処にでもいる小僧を選んだのかわからなかった。もっと屈強な男を選んだ方が、明らかに強力な下僕となるものを。

「心が体に様々な影響を与える事は、広く知られているわ。そして薬がそれに、多大な効果をもたらす事もね」

核心に触れる前、妖精魔女は一息つきます。

「ご先祖様が、考えたのはね。戦に苦しむ領民たちの心、すなわち絶望や失意、そこから生まれる歪んだ悪の感情を利用できないかって事だったの。

そういう感情を薬で強化し、体に反映できないかって」

「!」

その言葉を聞き、ゼシュタルは全てが腑に落ちるのを感じました。

なるほど、メサイトは生まれの不遇さも手伝って、その心は相当にひねくれていた。正に、薬の新しい要素を試すのにはもってこいの人物だったのだ。

ゼシュタルは感心するとともに、メサイトの心の奥底を鋭く見抜いた主人に対し、これまでにも増して恐れを抱きます。

私の心も、とうに見抜かれているのだろうか?

使い魔は改めて、ティシカの方を見やりました。

「では最後に……。先ほどお褒めにあずかっておいて何なのですが、私はメサイトを”始末”して来ませんでした。強盗団の連中はマダムの事など微塵も知りませんが、奴は違います。それは僅かであっても、情報の漏れを引き起こすのではないでしょうか。」

ゼシュタルの告白を、妖精魔女は黙って聞いています。

「もちろん、メサイトの命を奪う事が、出来なかったわけではありません。しかしそうすると、クレオンと戦闘が始まる恐れがありました。これは先ほど申し上げた理由で、甚だよろしくない。

しかし、奴をそのまま放っておいてきたのは、やはり私の手抜かりではないでしょうか」

ゼシュタルが、恐る恐る尋ねました。

ティシカが、使い魔のミスを見逃すはずはありません。それにもかかわらず、咎めらるどころか過分な褒め言葉を賜ったのです。彼としては、不安の残るところでしょう。

「あぁ、それは心配いらないの。坊やに色々と吹き込む際に、暗示と一緒に薬もワインに溶かして飲ませたわ。

必要以上に私やあなたの事を喋ろうとすると、急激な勢いで記憶が失われていくようにね。

それにもし坊やを殺してしまったら、命を貴ぶ魔女協会は、それこそ血眼になって私やあなたを探すでしょう。となると、色々と面倒が増えてしまうわ。だから結果的にではあるけれど、あなたの取った行動は正解だったのよ」

ティシカは、ゼシュタルの心を見透かしたように言いました。

「……それにしても、ネリスという娘。コリスの秘蔵っ子らしいけど、面白い。本当に、面白いわ。この先、私たちに、どう関わって来るのか楽しみね」

不敵な笑みを浮かべそう言い終わると、ティシカはデスクへと戻り、実験結果を丹念にノートへ記す作業に取り掛かります。

ゼシュタルは、黙って一礼をして部屋を後にしました。彼は、長い廊下を一歩一歩進みながら思案にふけります。

マダム……。

あなたがあの時レアロンではなく、私を選んだ事を絶対に後悔させません。奴があなたの前に立ちはだかるのであれば、私は全力をもってこれを排除します。

たとえそれが、血を分けた弟であったとしても……。

ゼシュタルは心にそう誓うと、館の闇の奥へと消えて行きました。
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